第132話 放課後デートのお誘い

 残りの授業を無事に乗りきって迎えた放課後。

 本日より陽菜との関係をオープンにしたため、これまでのように周囲の帰宅生徒や部活動に向かう生徒などの目をしのぶ必要が無くなったわけだが……さて、どうしたもんかな。


 俺達が正式に付き合い始めたのは夏休み……八月前半の俺の誕生日だ。

 それ以前の一学期にも何度か放課後に遊びに出かけたことはあるが、基本的に陽菜は俺の家に入り浸っていたから、あまり放課後デートというものには馴染みがなかったかもしれない。


(デート……誘うか。もう堂々とデートしてもいいんだし、陽菜も喜ぶだろ)


 俺からそういうお誘いをするのは珍しいかもしれないが、無性にデートしたい気分だった。

 下校までのラグもなければ十分に遊べるだろうし、思い立ったがなんとやら。


 まだ教室内に生徒が残る中立ち上がるなんて……今日は本当に慣れないことばかりしているな。

 帰り支度を済ませて、教室を出ようとする。

 ありきたりな下校風景なはずなのに、やけに緊張して……それ以上にワクワクもする。


「あ、師匠! うちらこれからゲーセン行くんだけど、一緒にどう?」


 帰り際、朝俺を援護してくれた女子に声をかけられる。

 えっと……はひふのは担当だから、長谷部さんか。


 すっかり師匠呼びされてるけど、俺が恋愛に関してアドバイスできることなんてマジでないから勘弁してほしんだが……。

 俺が陽菜にされたような相手が堕ちるまでごり押しする方法でも伝授すればいいのだろうか。


「……せっかく誘ってもらったのに悪い。今日はちょっと用事がある」


「ほら、やっぱり三上さんとのデートで放課後は忙しいんだよ」


「それもそっか。そりゃそっち優先だわ」


「引き留めてごめんね~。三上さんとお楽しみに~」


「師匠、また明日~」


 今日話すようになった俺を遊びに誘ってくれるコミュ力もすごいし、まだ理由も話していないのに察してくれる理解力もすごい。

 でも……師匠はやめてくれ切実に。


 ◇


 昇降口に向かう生徒達とは反対方向。

 陽菜のクラスに向かう。


 少し注目されている気はするが、陽菜の教えのおかげでそんなに気にならない。

 外野はお構いなく。

 お構いなくって便利な言葉だと改めて思う。


 他クラスに入るのは多少緊張するが、これから何度もすることになる。

 というか、これが普通だ。普通は他クラスにお邪魔するなんて学校生活じゃよくあることのはずなんだ。

 だから、俺がそれをしたって何ら問題はない。他クラスの男子が撃沈しようと俺の知ったこっちゃないしな。


 そうして俺の登場でこのクラスのやつらに定数ダメージを与えながら陽菜の席に向かう。

 何やら楽しそうに話している陽菜と……前の席には被害者一号町田さんがいる。

 俺に気付いた町田さんは助けを求めるような顔で何かを訴えてくる。


「ほ、ほら陽菜ちゃん。愛しの彼氏さんが迎えにきたって」


「え、あっ。玲くん、来てくれたんですね」


「おう」


 俺に気を逸らしてほっと一息を吐く町田さん。

 しまったな……もう少しゆっくりくればよかったか。


「陽菜、町田さんにはもういいのか?」


「ちょ、もういいって。早くこの彼女引き取ってよ」


「もう少し町田さんに押し付けておくのもアリかなと思っている」


「やっぱりおかしくない? 私、桐島くんになんか悪いことしたかな!?」


「……さぁ、どうだろうな?」


「陽菜ちゃん、君の彼氏ドSだよ~。意地悪ばっかしてくるよ~」


「玲くん、ダメですよ。やるならもっと徹底的にやらないと」


「こっちもドSだった!?」


 陽菜に助けを求める町田さんだったが、一瞬でものすごい裏切りを受けている。

 俺が始めたことだが……かわいそうに。

 しかたない、結果的にそうなるだけだが、助けてやるか。


「陽菜、悪いが町田さんを弄るのは明日にしてくれ。今から放課後デートの時間だ」


「えっ、私も誘おうと思ってました。ですが、玲くんから誘ってくれるなんて……嬉しいです」


「陽菜もか?」


「はい。二学期も始まったばかりですが、もう少しすれば体育祭、そのあとは中間テストとすぐに忙しくなりますからね。今のうちがデートのチャンスです」


 なるほどな。

 そこまで考えて誘ったわけじゃないけど……奇遇なことに陽菜もデートしたいと思ってくれていたのか。


「ほら、デートするなら私になんて構ってないで早くしないと……っ!」


「あ、柚月ちゃんも一緒に行きますか?」


「……何それ、新手の殺害予告?」


「冗談ですよ。殺害予告だなんて失礼な」


「あんた達が揃ったらテロみたいなもんでしょ!」


 さっさと俺達を放課後デートに送り出そうとする町田さん……必死だな。

 まあ、この機を逃したら、しばらく陽菜から逃げられなくなりそうだしな。


 さすがにデートに第三者を連れていく気はないが、陽菜のお誘いが殺害予告として受け取られているとは……。

 町田さん……大変だったんだな、と他人事のように思ってみる。

 気が向いたら飲み物でも差し入れしてあげようか。


「陽菜、今日はその辺にしてやれ」


「はーい。では、柚月ちゃん、また明日っ!」


「……明日休もうかな」


 死んだ目をしている町田さんに笑顔で手を振る陽菜。

 明日も陽菜のマシンガントークが止まらないように、放課後デート……とびっきり楽しい時間を過ごそうと思う。

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