第130話 被害者筆頭少女

 二学期二日目にしてガラリと変わってしまった学校生活。

 寄ってくるはひふ組を筆頭にクラスメートとも少しずつ話すようになった。陽菜に恋人ができたショックで撃沈していた男子達も次第に立ち直り、俺に会いに来る陽菜を拝むことで気を保っている。

 陽菜が休み時間の度に来るため、その度に陽菜を拝むことができるわけだ。何人かの名も知らぬ男子に礼を言われる始末。あまり人の彼女をじろじろ見て欲しくはないのだが……まぁ、視界に入ってしまうことくらいは広い心で許容しよう。


 個人的に申し訳ないと思ったのは、また担任の佐藤先生に心配をかけてしまったことだろうか。

 今までぼっちを貫いてた俺が、新学期から急に人に囲まれるようになったのだ。あの優しい先生のことだ。気にもなるだろう。

 はひふ組のギャルたちは言葉を選ばずに言うなら見た目がちょい派手だ。そんな彼女たちが俺の周りに群がるから、カツアゲとかされてるんじゃないかと心配された時は思わず笑ってしまいそうだった。


 まぁ、確かに長谷部とかは派手な髪色にメッシュとかも入ってるから見た目で損してる部分もあるだろうが、俺がクラスの男子に突っかかられた時は率先して味方してくれたし、良い奴だと思ってる。

 師匠呼びして恋愛に関するアドバイスを聞いてくるのは困ったもんだが……答えられることなら頑張って答えている。


(……お茶なくなったんだった)


 昼休みになり、いつもの場所に向かおうとして、ふと飲み物を切らしたことを思い出した。

 いつもはペットボトル1本あれば学校終わりまで持つが、今日は尽きるのが早かったな。

 人と話すようになり、声を発する機会が増えたからか、その分だけ喉が渇く。


 まだ暑いし、陽菜から水分補給はしっかりするように言いつけられている。

 そのため購買横の自動販売機で飲み物でも買おうかと思い立ち上がる。

 入れ違いぷんすかを防ぐために陽菜に連絡を入れるのも忘れない。メッセージを送ると爆速で返事が来た。先に行って待っているみたいだ。


 待たせるとそれはそれでぷんすかしてしまうので、急ぎめに自販機に向かう。

 賑わっている購買をスルーして、自販機エリアに到着すると、昨日からよく見かけるようになった顔があった。

 町田さんも俺に気付いたのか手を振って声をかけてくる。


「おや、桐島くん。奇遇だね」


「おお……なんか疲れてるか?」


「あ、分かっちゃう? おたくの彼女さんが隙あらば惚気けてくるからさ〜、甘ったるくて困っちゃうよ」


 学校でのあれこれが解禁されて、陽菜も好き放題やるようになってるだろうし、親しい人には特にそうだろう。

 陽菜にとって町田さんは気心知れた関係だろうし、マシンガン通り越してガトリングトークしてるのが容易に想像が着く。


「そりゃ悪いな。うちの子が申し訳ない」


「悪いと思ってるなら飲み物でも奢ってもらおうかな〜」


「……初回特別サービスだ。何が欲しい?」


「コーヒー、でかいの」


「分かった……ほれ」


「ありがとー。これで陽菜ちゃんの惚気を中和できるといいんだけど」


 どうだか。

 とりあえず陽菜の相手をするにはそれじゃ不安なんじゃないかと思うが……まぁ、頑張ってくれ。


 心の中で合掌。

 自分のお茶を買った俺は陽菜のところに向かおうとするが、にやにやした町田さんに引き留められる。


「ねぇ、そっちって教室じゃないよね? どこに行くの?」


「俺の昼食ベストスポットだ」


「そこって陽菜ちゃんもいつも行ってる場所だよね? 私、興味あるな〜。ね、着いて行ってもいい?」


「……陽菜に聞け」


「はーい……いいって」


 いいのかよ。

 まぁ、陽菜がいいなら別に止めはしないけどさ……どうなっても知らないからな。



 ◆



 初となる第三者を引き連れたベストスポット到着。

 待たせてしまったから若干ぷんすかしそうになっていた陽菜をヨシヨシして宥め、いつものように昼食を取るわけだが……興味本位で着いてきてしまった町田さんはギョッとして俺たちをチラチラ見ている。


「私は何を見せられているのかな? これ、新手の拷問?」


 そんなうわ言を呟きながら、ゴキュゴキュとブラックコーヒーを飲み干していく町田さん。

 言いたいことは分からんでもないが……悪いがこれがデフォルトだ。


「だってこうしないと柚月ちゃんが座れないじゃないですか。地面に座らせてスカートを汚すわけにもいきませんし」


「だからってそんな堂々とできる? もしかして私がおかしいのかな?」


 このベストスポットのベンチは二人がけが限度だ。三人が並んで座れるスペースは残念ながらない。

 だが、俺と陽菜は例によって二人で一人分のスペースで事足りる。

 そうやって町田さんが俺たちの隣に腰を下ろし、俺たちの座り方にぶつくさ言っているところである。


「桐島くんはそれでいいの? 暑いし食べづらくないのかな?」


「あ? 慣れた」


「慣れたっ!?」


 何を今更。

 むしろ陽菜を後ろから抱き込むのに慣れすぎて、こうしてないと落ち着かないまである。


「君たちさ……もう少し人目を憚るとかしないわけ?」


「お構いなく」


「勝手に着いて来たのは町田さんだろ?」


「くっ……なんだこいつら」


 町田さんよ。

 君が知っての通り、うちの陽菜ちゃんは人目があろうとなかろうとお構いなくできる子なんだ。

 興味本位で着いてきたのが運の尽きといったところだな。


「柚月ちゃん、あまり食が進んでいないようですが大丈夫ですか?」


「君たち見てるだけでお腹いっぱいなんだよね」


「夏バテですか? まだ暑いのでちゃんとバランスよく栄養取らないといけませんよ?」


「うるさいよ。バランス崩してる張本人が」


「なんのことですか?」


「もういい! 黙ってイチャイチャしてて!」


 町田柚月。

 これは確かに陽菜の被害者に違いないな。


 いつも陽菜と仲良くしてくれてありがとう。

 今後いっぱい迷惑をかけることになると思うが……引き続きうちの彼女さんをよろしく頼む。


 ◆


 ★4000突破、ありがとうございます!

 次は5000を目標に頑張っていこうと思います!

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