第129話 嫉妬のぷんすか
想定外の囲まれ方でどう対処していいか分からずに困っていたが、救いのチャイムが鳴って先生が来てくれたおかげで一時的ではあるがなんとか事態は収束した。
一学期はずっとぼっちで通していた俺に生徒達が群がる様子を見て先生はぎょっとしていた。気持ちは分かる。俺もぎょっとしているからな。
しかし、ホームルームが終わり、先生が教室を後にすると状況はまた後戻りだ。
ただ単に陽菜との関係性について問い詰められる囲まれ方ならば甘んじて受け入れる覚悟ができていたが、まさかあの高嶺の花を堕とした英雄的な扱いをされるとは思ってもいなかった。
その流れでギャルたちから恋愛マスターという謎の称号を与えられ、恋愛相談に乗ってくれという予測不能な方向から詰められるとは……人生何が起こるか分からないもんだなと遠い目をしている。
「では、これで朝のホームルームを終わります。各自、授業の準備をするように」
そうしているうちにあっという間にホームルームの時間は過ぎ去った。
そして、瞬く間に囲まれる俺の机。さっきのギャルたちといいなぜか女子率が高い。まあ、男子より女子の方が恋愛話に目ざといだろうし分からなくもないが……こうして女子に囲まれると居心地が悪い。ついでに男子から『三上陽菜という彼女がありながらこのクラスの女子も手中に収めるつもりか……』といわんばかりの視線が痛い。
こうしていざ関係をオープンにして実感するが、カーストトップの恋人というだけでここまで見る目が変わるとはな……。
俺はそういうの目当てで陽菜と付き合ったわけじゃないが、損得勘定でお近付きになろうとするやつもそりゃいるわけだ。
「ねー、桐島くんってうちらのこと知ってるー?」
「……悪い、分からん」
「だよね、全然名前呼んでくれないし」
ウケるーと笑い飛ばしてくれているが、普通に怒っていい案件だぞ。話したことはないとはいえ同じクラスなんだ。苗字くらい知っておけとお叱りを受けて当然だろうに……。
「長谷部!」
「平田!」
「古川!」
自分の胸元を親指でビシッとしながらテンポ良い自己紹介をありがとう。
えー、はひふギャルと覚えておこうと思う。
「うし、そんじゃ……どうやってあの三上さんを誑かしたのかきりきり吐いてもらおうじゃないの」
「そうだよ〜。あの男子百人斬りを達成しそうだって噂があった三上さんだよ? 何したの?」
何をしたって言われてもな……。
気付いたらめちゃくちゃ侵略されていたとしか言いようがないんだが……。
最終的に告白をしたのは俺の方かもしれないけど、好きになったのは多分陽菜の方が先だと……思いたい。じゃないと、あのあまりにも早すぎる侵略行為に説明がつかない。
でも、このはひふ含め他の奴らも俺からアプローチを仕掛けたと思っている。
そりゃそうだ。あの三上陽菜から俺にアプローチがあったなんて、俺達の馴れ初めを知らない者からしたら想像もつかないか。
「あー、なんだ。とりあえず落ち着け」
「私は落ち着いてますよ?」
聞き馴染みのある声と共に、肩にポンと手が置かれた。
俺は固まったまま首だけを動かしてそちらを見上げると、目が笑ってない素敵な笑顔の陽菜と、声を押し殺しながら腹を抱えて大爆笑している町田さんがいた。
「こんなに女の子を侍らせて……いいご身分ですね、玲くん?」
「誤解だ」
「五回? 何を五回してくれるんですか?」
「分かってて言ってるだろ」
「まぁ……玲くんにお友達ができることは喜ばしいことですが、私以外の女の子と仲良くしてると、その……妬いてしまいます」
そう言って陽菜はぷんすか頬を膨らませている。
俺が女子に囲まれてるのを見て嫉妬したということか……はっきり言ってかわいすぎる。
「いや〜、桐島くん愛されてるねぇ」
「町田さんか。そっちはどうだったんだ?」
「男子は半分以上撃沈してるし、女子は陽菜ちゃんの幸せそうな顔で全部察した感じかなぁ。そっちは……随分モテモテみたいだね」
「やめろ。俺は陽菜一筋だ」
「だって。よかったね陽菜ちゃん」
「えへへ。私一筋」
陽菜の方も教室が騒がしかったが、どうやら男子が絶望に叩き落とされたという結果で落ち着いたみたいだな。
俺の方もそんな感じのオチだったらよかったんだが……まぁ女子に絡まれるようになったことを除けば似たようなもんか?
「じゃ、私達移動教室のついでに寄っただけだから……陽菜ちゃん、行かないと遅れちゃうよ」
「あと30分……」
「こら、遅れちゃうでしょうが。町田さんをあんまり困らせるなよ」
「……五回、なでなでしてください」
「はいはい、分かった分かった」
10分足らずの休み時間。
移動時間も考慮するとそこまで悠長にはしていられないが、いつもアレで離れようとしないのはさすがだ。
そして、なでなでを要求してしゃがみこむ。
衆人環視であろうとお構いなくらしいので、俺もそのお構いなく精神に乗っ取ってその頭に手を乗せる。
「ほら、授業頑張るんだぞ」
「ふにゃあ」
「いやー、すごいね。陽菜ちゃんめっちゃ幸せそうだよ。私、普段はミルクティー飲んでるけど、今日は無性にブラックコーヒー飲みたい気分だなぁ」
町田さんがなんか言ってる。
何故かそれに同調して周りの女子たちがうんうん頷いているが……気にしないでおこう。
「なでなでありがとうございます」
「おう、このくらいお易い御用だ」
「では……また後で。あっ」
満足した陽菜は嬉しそうにして教室を出ていこうとするが、何かを思い出したかのように振り返る。
「玲くんは私のなので、取らないでくださいね?」
そう言って、俺に手を振って歩き出す。
またしても町田さんは腹を抱えていた。
嫉妬から出た牽制なのだろうが、かわいすぎたな。
それと……陽菜が来てからすっかりはひふ組のことを忘れていた。
「悪い、放ったらかしにした。何の話だっけ?」
「し、師匠って呼んでいいですか!?」
「なんで? 嫌だけど!?」
「三上さんからあんな幸せそうな顔を引き出すなんてさすがですっ」
「やっぱりなでなでが鍵なんですか?」
「え、いやー……なでなでが効果的なのは本当に好きな相手だからじゃないか? 大して仲良くもないやつにやられてもむしろ嫌だろ」
「うお、確かにっ。さすがあの高嶺の花を堕とした恋愛マスター……勉強になります!」
このはひふ組……やけに俺を恋愛マスターとして崇めようとしてくるんだがなんでだ?
あんまり絡まれてもまた陽菜がぷんすかしちゃうから困るんだが……まだ実害はないから放っておいてもいいか。
あと……周りを見渡して気付いたが、男子のほとんどが生気の抜けた顔で机に突っ伏していた。
あぁ、陽菜のアレがトドメになったのか。
ふっ……ご愁傷さま。
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