第127話 満を持して
夜のお仕置……もとい、私にとってはご褒美をもらったおかげで、少し寝足りない目覚めです。
このまま玲くんに抱かれたまま、二度寝出来たらどれだけ幸せなのでしょうか。
そう思う時に限って玲くんの抱き締める力はほどほどで、抜け出そうとすれば抜け出せてしまうのがもどかしいです。
いっそ、玲くんのぎゅーが強すぎて身動きが取れなかったと申告して、朝の支度をすっぽかしてしまいましょうか……なんて。
(今日は学校……楽しみかもしれません)
昨日は玲くんと離れている時間があまりにも辛くて、授業中に泣きそうになることもしばしばありましたが、今日は何と言っても私達の関係を隠さなくてもいい日。
堂々と一緒に校門を通過してもいいし、休み時間に会いに行っても怒られない。
学校生活の間でほんの少しだけ玲くんと一緒に過ごせる時間が増える。ただそれだけで、私はこんなにも舞い上がってしまっています。
「玲くん、起きてください。朝ですよ」
「うぅ……」
玲くんの腕枕から頭をあげて、身体を起こし……玲くんのお腹の上にまたがって起床を促します。
何やらお尻に硬いものが当たっているような気がしますが、生理現象なので仕方ないでしょう。
ちょっとだけ朝のお仕置きが欲しくなりましたが、今日はそれ以上に学校に行くのが楽しみなので、玲くんには我慢してもらいましょう。
「おはようございます」
「……その格好でその起こし方やめてくんね? 朝から色々やばいんだが?」
「お構いなく」
寝起きの私はそれなりに薄着です。
九月になり秋が近付いてきているとはいえ、まだまだ残暑が激しいですからね。
寝る時は当然そうなります。
玲くんとくっつかなければ暑さはマシになるかもしれませんが、それは不可能です。
安眠のためですよ。必要なことです。
朝から下着姿の私に起こされて、興奮してくれるのはもちろん嬉しいです。
そんな熱っぽい瞳で見つめられるとその気になってしまいますが……申し訳ありませんが今日はお預けですよ。
「さ、二度寝はいけませんよ。顔を洗ってきてください」
「そう思うんだったらどいてくれない? このままだと襲っちゃいそうなんだが?」
「……それは困りますね。では、私は朝ごはんの準備をしてきます。あっ……」
「なんだ?」
「おはようのちゅー、お願いします」
立ち上がる前にキスをねだるのも忘れません。
この温かくて、柔らかくて、幸せな口づけがあると……今日の私も元気百倍です。
◇
「ここから先は初めてだな」
「そうですね。少し緊張しますが……ワクワクもします」
通学路。普段ならば学校が近くなったり、近くに生徒を発見すると、一緒に登校しているのだと思われないように距離を取って別れて学校に向かいます。
ですが、それも昨日まで。
今日からは……ずっと隣を歩いていけることが、どうしようもなく嬉しいです。
「陽菜は大丈夫か?」
「何がですか?」
「騒ぎになるぞ?」
「そんなの……お構いなくです。騒ぎたい人には騒がせておけばいいんですよ」
「それもそうだな」
周りがどうとか……私には関係ありません。
私は私が仲良くなりたいと思った玲くんと距離を詰めて、この恋を成就させたんです。それを祝われることはあれど、他人にあれこれ口出しされる謂れはありませんからね。
外野の声なんて……お構いなくなんです。
私はそう思っていますが、玲くんは私よりも緊張している様子です。
玲くんにとっては学校生活がこれまでと一変してしまうかもしれない一大イベント。
それでも、私のことを思って、私のわがままを通してくれるのが玲くんの優しいところです。
好き好き、大好きです。
そんな風に胸をキュンキュンさせて歩く、いつもと同じだけど、いつもとは一味違った通学路。
視線を感じます。
目立つのが好きじゃない玲くんは……どんな風に思っているのでしょう。
「玲くん……」
「そんな不安そうな顔するな。俺なら大丈夫だから……幸せそうな顔、見せつけてやれ」
「はいっ♡」
私が、私の意志でここに立っていて、彼の隣を歩いている。
それがとても幸せで、心から嬉しいことを、見ている皆に見せ付けないといけません。
「手でも繋ぐか?」
「はいっ。一生離しませんっ」
「……いや、クラス別だから学校着いたら離してね」
「お構いなくっ」
「いや、構うよ?」
チラチラと見られながら闊歩する通学路。
こちらが私の自慢の彼氏ですので、どうぞお見知りおきを……っ!
◇
そうして、学校に到着して、クラスは別なので別れてしまいます。
自分のクラスに到着すると、注目が自分に向きます。聞きたいことがあると顔に書いてあるみたいですね。
席に着き、一息つく間もなく囲まれてしまいます。
さあ、どうぞ。隠すことなど一切ありませんので、どうぞ好きなように問い詰めてください。
「ねぇねぇ、三上さん。さっき男の人と一緒に登校してたよね?」
「もしかして彼氏?」
「あ、あれじゃない? 三上さん、前に他校の人にも告白されたって聞いたし、男除けとして彼氏のフリをしてもらってるとか?」
「ねー、どうなの?」
そんな風に、次から次へとまくし立てるように質問される。
前の席の柚月ちゃんは、もう既に私達のことを知っているからかニヤニヤとこちらを見ています。
でも、問い詰められて困ることなんて一つもありません。
堂々と言い放って差し上げましょう。
「はい、私の自慢の彼氏です♡」
満を持してそう言い放つと、教室は静寂に支配される。
その後、ガタっと勢いよく立ち上がる音と、驚愕に染まった声が廊下にまで響き渡りました。
そうやってクラスを混乱でいっぱいにした私ですが、あとで柚月ちゃんに教えてもいました。
その時の私は、見たこともないくらいに幸せそうで、満面の笑みを浮かべていたそうです。
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