第100話 恐竜の時代から

「……な。陽菜」


 温かくてつい聞き入ってしまう声。

 私の名前を呼ぶ声がだんだんはっきりと聞こえ、それと同時にゆさゆさと肩のあたりを揺さぶられているのも分かります。


 玲くんが私を呼んでいます。

 確か……タクシーで一度目を覚まして、また寝落ちしてしまったんでした。

 なんとなくですが、不機嫌になってしまう夢を見ていたような気がします。ですが、とても気分がいいです。やはり玲くんにくっついて眠る時間は至高ですね。


 思うにこれは膝枕されている状態です。

 私が玲くんのふとももの感触を間違えるはずありませんので。

 つまり、最高の枕が頭の下にあるということです。起きてしまったらどかされてしまうので……少しでも長く玲くんのお膝を枕にするために、ここは寝たフリ一択です。


「ほんと、かわいいよな。でも、そろそろ足がしびれてきたんだよな……」


 さらりと髪を梳く指がとても気持ちいいです。玲くんのナデナデは最高なのでこのままずっと居座りたいですが……膝枕って意外と限界がくるの早いですからね。玲くんのお膝もちょっとプルプル震えているのが、頭で感じ取れます。

 玲くんもあちこち歩いてお疲れなのは承知ですが……あとちょっとだけ。五分、いえ……二時間くらい頑張ってください。


「こうなったら……仕方ない。最終手段だ。ちょっと触るが……許せよ」


 不退の意志を見せる私に痺れを切らしたのか切羽詰まった声色で玲くんは呟きます。

 触る、という言葉にドキッとしてしまったのは仕方のないことでしょう。

 そ、そんな……どこを触るつもりなのでしょうか?

 足? それとも胸?

 うぅ……緊張します。別に触られるのが嫌とかではなくて、むしろウェルカムですが受け身に回ってしまうのかと思うと、なんだか落ち着かなくてそわそわします。


 あ、意識したらなんか身体が熱く……。

 こうやって心の準備をして待ち構えていても、きっと私の身体は玲くんの指に歓喜してしまうでしょう。私、玲くんに触られるの大好きなので。あの長くてしなやかな指にまさぐられて気持ちよくなってしまうのかと思うと期待が……っ。


「……あっ、ん」


「起きろー」


「ひゃんっ、んっ……そこっ」


「起きないとズボズボするぞー」


 指のお腹で摘むようにくにくにとこねられて、寝たフリを維持することもできずについ反応してしまいます。

 カリカリと撫であげられるのにゾクッとして、腰が浮いてしまって、玲くんのお腹に顔を押し当てるようにして耐えるしかありません。


「起きたか」


「……起きてません」


「じゃあ起きるまで弄るか」


「あん、あっあっ……起きましたっ。それ以上は反則ですっ」


穴のすぐそこまで指が入り込んだところで、私は降参の白旗を上げてしまいます。

あまりの気持ちよさに我慢できませんでした。


 玲くんに耳の中まで執拗に責められてやむを得ず退避です。

 まったく……ずるいですね。なんで耳を弄るだけでこんなに気持ちよくできるんですか。私の耳が弱いことを差し引いてもおかしいです。玲くんの指は快楽兵器なんでしょうか?


「悪いな、起こして。ちょっと足が限界だった」


「私としては膝枕は嬉しいですが、無理はしない方がいいですよ」


「俺もそうしたかったんだけどな。どかそうとしてもどっかの誰かがしがみついて離してくれなかったんだよ」


 なるほど。

 とりあえず睡眠中の私を褒めておきましょう。意地でも玲くんから離れようとしないその姿勢はとても素晴らしいです。グッジョブ。


「玲くんの膝枕は気持ちいいですからね。引き剥がそうとするのはよくないです」


「男の膝枕とかそんな需要ないだろ」


「ありまくりです。玲くんの膝枕は最高級だと恐竜の時代から決まっていたと言っても過言ではありません」


「それは過言だ」


 玲くんの膝枕、私は大好きです。ちょっと振り向けば程よく引き締まった腹筋もあるのでお得ですよね。

 だから過言ではありませんよ。


「そろそろ痺れは治まりましたか? 早く転がりたいのですが」


「その前に着替えてきなさい。そのまま寝たらシワになるぞ」


 私がお膝を追い出されたのは痺れてしまったからで、それが治れば戻るのも当然のこと。

 そんな私をガードして玲くんは着替えるように言ってきます。

 ああ、そういえばまだ浴衣のままでしたね。せっかくいいものをいただいたので、大事にしなければいけません。


 なので……私は玲くんに両手を広げるように腕を差し出します。


「何? 抱っこ?」


「脱がせてもらっていいですよ」


「……何言ってるか分かってる?」


「はい。どうぞ一思いに剥いちゃってください」


「あのね、もうちょっと恥じらいを持とうね」


「……脱がさないんですか? 浴衣の下が裸なのか確かめる絶好のチャンスですよ?」


 まあ、中にはちゃんと下着を着用しているので裸ではありませんが。


 私から顔を背けて、少し顔を赤くしている玲くんがかわいいです。

 ですが、からかっているわけではなく、玲くんになら脱がされても……と思いましたが、今日のところは勘弁してあげましょうか。


 浴衣は身体のラインが強調されない方が綺麗に見せられるので、胸とかも少し抑えるキツめの下着で、ぶっちゃけあんまりかわいくありません。

 脱がされるのは一向にお構いなくですが、かわいくない下着姿を見せるのはなんだがはばかられるので……今回はナシです。


「あの……脱がすのはまた今度ということでお願いします」


「その予約必要か?」


「必要です。いつ剥かれてもいいようにしっかり備えておきますね」


「……ああ、うん。いいよ、それで……」


 気が向いたらいつでもどうぞ。

 その時を心待ちにしていますね。


「じゃあ、ちょっと着替えてきます。あ、ここで着替えた方がいいですか?」


「はよ行け」


「はーい。一緒にお風呂入って、一緒に寝ましょうね!」


「分かったからはよ……? おい、今なんて言った?」


「じゃあお風呂の準備できたら呼びますね」


 いい感じにお風呂の言質も取れたところで……着替えましょうか。


 玲くんの膝枕も好きですが、頭だけでなく全身で幸せを感じたいです。

 その場合は、私が抱き枕にされてしまうのですが……それもまた一向にお構いなくです。


 ◆


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