第75話 三回目のおかわり

 一度目のキスは……不慮の事故でした。

 眠っている桐島さんの頬に軽くするつもりだったのに……桐島さんが急に寝返りをうったので、その……唇同士でしてしまいました。


 その時のことは私だけの秘密にしておくつもりでした。

 ですが、桐島さんのお顔を見るとその時のことを思い出してしまって、恥ずかしさが込み上げてきます。近くにいると意識してしまうので逃げ回っていたのですが……桐島さんに捕まって壁ドンされてしまいました。手首まで押さえつけられて……逃がしてもらえそうもありません。


 そんなシチュエーションにドキドキしていると、桐島さんはとても真剣な顔で見つめ、私の隠し事をしていることを勘づいていると口にします。これには驚きを隠せません。


 完全に寝ていると思ってたのに、まさか気付かれていたとは……。

 そうと知ったら必死に隠し通そうとするのも馬鹿らしくなってきました。


 観念した私はもう一度ちゃんと……不慮の事故ではなく自分の意志でする覚悟を決めました。

 ですがまじまじと見られながらは恥ずかしいので目を瞑ってもらいたかったのですが……桐島さんには拒否されてしまいました。


 私の気持ちを察して目を瞑ってくれないなんて野暮だと思いますが、見ながらしたいというのならば仕方ありません。桐島さんへのお誕生日プレゼントの一環です。本人の意向は最大限反映させなければなりません。


 それに……目を離すと逃げそうだなんて、私の覚悟をそんな軽いものだと思われているだなんて心外です。

 一応二度目ということになってしまいますが、気持ちとしては私のファーストキスを捧げるわけなので……あまり見くびらないでほしいです。


 深呼吸で覚悟をより強いものへと押し上げ、桐島さんの顔を見上げます。

 しっかりと狙いを定めて、今度は外さないように桐島さんの頬に手を添えて。


「桐島さん、お誕生日……おめでとうございます」


 今度は面と向かって、その祝福の言葉を送る。

 そして……背伸びをして、私達の距離を――ゼロに。


「んむっ!?」


「んっ……ぷはぁ……」


 私にとって二度目のキス。

 桐島さんの頭に手を回して、一瞬のように短くも、無限のように長く感じられた深い口付けを終えて、ぬらりと引いた糸を舐め取りながら息を求めます。


(すごい……気持ちいい……)


 頭がピリピリ痺れるようで、ふわふわと心地よい快感が押し寄せてきます。

 一度目は……そういうのよりも予想外の展開にびっくりしたという気持ちが勝ってしまったので、ちゃんとキスを味わうのはこれが初めてで、思わず何度でも貪りたくなる衝動に駆られます。


 桐島さんはどんな反応をしているのでしょうか?

 私と同じように感じてくれているのでしょうか?


 私の恥じらいを考慮せずに、その目で見たいという欲望を叶えてあげたのですから……さぞ喜ばしい反応をしているはず。そう思い、顔を上げると……とても混乱した様子で、私を見つめたまま固まっている桐島さんが……。

 あれぇ?

 なんだか思っていた反応とは違いますね。


「桐島さん?」


「あ、え……なっ、んで。今……キス、したのか?」


「なんでって……」


 私の隠し事……夜中に一度目のキスをしてしまったこと、知っているんですよね?

 だから私は観念して、ちゃんとしたプレゼントとして二度目のキスを捧げたのですが、どうしてそんなに困惑しているのでしょうか?


(えっ……?)


 もしかして……私は、ものすごい思い違いをしているのでしょうか?

 思い返してみれば、核心に迫るようなことは言いながらも、絶妙に突いてはいなかったかもしれません。

 桐島さんは私が隠していることを知っていると言いましたが、意図せずとはいえ唇にキスしてしまったことについて、明確には言及していません。


 それどころか……今の反応。既に一度キスをされた者の反応としてはふさわしくありません……よね?

 つまり。つまりですよ……?


 桐島さんにとってこのキスは、予想外のもの。

 ということは……知らない?

 私の一度目を……桐島さんはご存じでない……?


「えっ……あ、え……!?」


「な、なんで三上さんも慌てるんだよ……」


 すべてが繋がった途端、顔から火が噴いているのではないかと思うくらい熱くなります。ボフンと爆発したような気もします。


 状況は多分把握しました。

 私は、桐島さんの言葉を勘違いして、自爆してしまった……というわけですか。

 ほぼ確信しましたが……一応答え合わせをしておきましょうか。


「桐島さん……私とのキスは、これで何回目ですか?」


「何回目って……初めてに決まってるだろ」


「残念、不正解です」


 ああ、やっぱり。

 桐島さんにそのつもりはなくとも、私はすっかり嵌められてしまったみたいですね。


 私の隠し事……桐島さんはなんにも分かってなかったのに、言葉巧みに誘導されてしまいました。

 いったい何と勘違いしていたのか分かりませんが、会話が成り立ってしまったのが運の尽きだったというわけですか。


 本当に恥ずかしいです。でも……別にいいです。

 言葉巧みに唆されて勝手に秘密を暴露することになってしまったのは少し癪ですが……想いを込めたキスは、とても気持ちよかったので許してあげましょう。


 でも、ただでは許しません。

 わざとではないとはいえ女の子にこれほどまで恥をかかせたのですから、それを帳消しにするにはそれ相応の対価が必要です。

 当然ですよね?


 その対価は――


「おかわり、いただきます」


「んっ!?」


 三回目のおかわりという形で払ってもらいましょう。

 二度あることは三度あると言います。

 まあ、三度で済ませる気はありませんが……とにかく、ごちそうさまです。


 ◇


 いつもお読みくださりありがとうございます!

 おかげさまでこの度6000フォローを突破しました。皆様の温かい応援のおかげです。本当にありがとうございます!


 皆様の応援が励みになっております!

 作品のフォロー、お気に入りエピソードへの♡やページ下部から入れられる★評価などしてもらえると作者のモチベが爆上がりします……!


 ランキングなどもおちついてきておりますが、まだまだしがみ付いていけるように頑張りますので、引き続き応援よろしくお願いします!

 感想、コメントレビューなどぜひぜひお気軽にお待ちしております……!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る