第66話 不束者ですが

 突然の同棲宣言ではありましたが、思いのほか反発はされませんでした。

 それに関しては受け入れてもらえたようですが、桐島さんはとても混乱しているようですね。しきりに状況説明を求めてきます。


 私としてはそこに至るまでの過程はそれほど重要ではないのです。私が桐島さんのお家にえっと……とりあえず三年くらいは居座りたいので、1100日くらいでしょうか。約1100泊1101日のお泊り(延長アリ)をすると決めたことがすべてなのですが……あの、ちゃんとお話しするのでそんな真剣なまなざしで見つめてくるのはその……反則です。照れます。


 こほん……まずはこうするに至った理由ですが、これはもう桐島さんに語った通り、私が一人暮らしをすることになったためですね。


 両親……というかお父さんですが、以前より海外に出張に行くかもという話は出ておりました。大きめのプロジェクトの責任者だとかで頑張っているらしいです。

 その話が出て、家族で会議をすることになりました。


 もし、お父さんが海外に長期出張することになった時、私はどうしたいか。

 一緒についていくか。それとも一人でこちらに残るか。迫られた選択肢は二択でした。


 お父さんが仕事で海外に行くとなった時、お母さんは真っ先についていくことに決めました。その理由としては……お母さんがお父さんを恋人だった頃から甘やかして、仕事以外できないダメ人間に育て上げてしまったからです。お父さん曰く、お母さんに見放されたら1週間で餓死する自信があるみたいですね。


 それだけでなく、二人はとても愛し合っています。私のことを大切にしてくれているのはよく分かりますが、こういう大事な話が上がった時に真っ先にそういう決断ができるのは、お父さんもお母さんも、片時も離れたくないという共通認識があるからですね。


 娘の前でもイチャイチャする仲睦まじい夫婦なのでそうなるのも必然でしょう。

 お母さんの即断はおそろしく早いものでしたからね。

 あと、謎にハイスペックなお母さんにとっては、海外出張についていくことはちょっとした海外旅行的なノリなのかもしれません。そのまま海外でお父さんのことをしっかり支えて、甘やかしてダメにしてあげればいいと思います。


 さて、少し話が逸れてしまいましたね。

 私に残された選択肢ですが……私がどちらを選んだかは今ここにいる事が物語っているでしょう。


 高校にもまだ入学したばかり。ようやく慣れてきた生活をがらりと変えるのはリスクがあります。

 まあ、そんなのは建前で……このマンションに居座りたい理由はたった一つ。離れたくない人がいるからですが。


 そのことに関してはお母さんも薄々勘づいていたみたいです。さすがお母さん、隠し事はできませんね。まあ、バレていたのは隠そうともせずに色々やっていたのが原因ですが。


 三上家の女として、狙った獲物はしっかりダメにして堕としてきなさいと母親らしからぬアドバイスを残していきましたが……頑張ろうと思います。


 お父さんには……お母さんの娘だから大丈夫と言われました。詳しく話を聞きたいところでしたが、惚気られるのがオチなので聞けませんでした。ですが……お父さんもお墨付きのようなので自信を持っていこうと思います。


 そうして話し合いの結果。両親は海外へ、私はこちらに残ることが決定。このマンションでの一人暮らしが始まったわけですが……そうなったらやることは一つです。

 荷物を持って押しかけるほかありません。


 本当はもっと早くから無限お泊まり編に突入したかったですが、色々準備することや、テストなどもあったので決行は夏休みとなってしまいました。


 元々、桐島さんのお家には長いことお邪魔していました。合鍵もいただいて、朝晩問わずに侵入しているので、それならいっそ住み着いてしまえばいいのでは……と天啓を受けた次第です。


 基本は桐島さんのお家で過ごし、私の家は決まったペースで掃除などをして管理します。一応、両親の帰る場所です。お父さんはどうなるか分かりませんが、お母さんはちょいちょい様子を見に帰ってきてくれるらしいので、しっかり守らなければいけません。


 基本的に金銭的な心配もなく、一応一人暮らしをすることになっている三上家も好きに使っていいらしいので、適度に管理しながら、気が向いた時に桐島さんを連れ込みましょうか。

 それがいいです。そうしましょう。







「と、まあ……ざっくり説明するとこんな感じですね」


 桐島さんに抱かれながら掻い摘んだ説明をして、今一度判断を仰ぎます。

 別にこの説明を聞いてお泊まりはダメだと判断されたらそれはそれで仕方ありません。桐島さんには桐島さんの生活がありますからね。しっかりごり押して、ダメに甘やかす基盤を作っていこうと思います。


「そうか。三上さんのお父さんが海外出張でお母さんがそれについて行って一人暮らしか……。反対はされなかったのか?」


「私の判断を尊重してくれましたよ。私はこちらに残ることを決めましたが……こう見えてハイスペックなので、生活能力などの心配もされませんでした」


 一人暮らしの条件として、最低限の生活をする能力があるかというのが挙げられますが、そのあたり私は心配すらされませんでした。

 掃除も洗濯も自炊もできます。

 これも全部お母さんの教育の賜物ですね。


「まあ……一人暮らしになった経緯はわかった。それで……この状況は三上さんの両親は分かっているのか?」


「直接説明はしていませんが……お母さんは勘づいてるかもしれませんね。応援もされましたし」


「応援?」


「あ、こちらの話なのでお構いなく」


 三上家の長女として……桐島さんをしっかりダメにさせる。頑張らなければいけません。


「三上さん的にこの件についてはいかがお考えでしょうか?」


「そうですね。桐島さんのお家に住み着くことができれば、通う手間が省けて助かります」


「……住まわせなくても来るもんな……。合鍵も渡しちゃったし」


 桐島さんは色々と拒む理由を探しているのかもしれませんが、どれも理由としては弱いでしょう。

 合鍵を貰ってからの私が桐島さんのお家に居る割合が九割。それが一緒に住むことになって十割。ほら、誤差みたいなものです。


「……まぁ、いいか」


「いいんですか?」


「だってもう住み着く準備しっかりして押しかけてるじゃん。俺が何かしら理由をつけても、どうせ意地でも居座るんだろ?」


「それはもうその通りです。私のことをよく分かってますね。さすがです」


「まぁな」


 さすが、桐島さん。

 私への理解力が高いです。


「えっと、じゃあ……よろしく、でいいのか?」


「はい。不束者ですがよろしくお願いします」


 こうして桐島さんに受け入れてもらえたのは何よりですが……抱かれて、撫でられて、耳元でかっこよく囁かれるとダメにされてしまいそうですね。


 なるほど、どちらが先に相手をダメにするかという勝負ですか。

 望むところです。

 まずはこの夏休みの間に……しっかり溶かして差し上げるので、覚悟してくださいね……桐島さん?


 ◆


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