田中にヘルプ

 これからどうしたらいいんだろう。僕は途方に暮れていた。持ち物はスマホとコンニャクだけ。外は木や草が生い茂ったまさに大自然だった。ちなみに快晴。電線や大きな建物もないから、青い空がよく見える。あるのは藁のお家だけだ。

 うん、これが集落ってやつかな。

 僕の格好はばりばり寝巻きだった。前開きの水色のパジャマだ。靴も着替えも当然ないけれど、生地が厚めの室内用靴下を履いていたのでまあ歩けなくはない。

 そういえば財布もない。確か中身は三百円くらいだし、財布があってもこの世界じゃなんの役にも立たなそうだからまあいいかって感じなのだけど。

 さっきの男と同じような感じの民族たちと何度かすれ違った。

 みんな笑顔で、「うんぽっぽ!」と挨拶していく。僕ももちろん「うんぽっぽ!」と返した。

 うん、どうやらここの人たちはご近所付き合いも良好そう。

 だけどみんな、言葉は通じそうにないのだ。

 僕はとりあえず歩いた。室内用靴下に穴があくまでは、進んでみようと思っていた。

 その時だった。

 突然スマホから通知音が鳴った。見るとラインのチャットメッセージが一件。

 相手は田中だった!


『おい、授業始まるぞ? 学校来ねーの?』


 僕はびっくりして、反射的に通話をかける。

 瞬間、ぷるん、という音と共に速攻で切られてしまった。


『ばっか! ホームルーム中だっつの』


 すぐにそうメッセージがきた。

 そうか、こっちの世界でうんぽっぽ! を繰り返している間に、あっちではそんな時間に!

 だけどどうやら元の僕がいた世界の人と、スマホを使って連絡を取ることは可能らしい。ついでに一番怪しいと思っていた田中がこのドッキリの仕掛人という線も薄いとみた。

 僕はとりあえず、メッセージを返した。


『田中! ヘルプ!』

『どしたんだよ? 体調悪いの? 無断欠席とかおまえらしくないじゃん。まさか事故ってないよな?』


 おお、長文で心配してくれている。さっきの着信でスマホ取り上げられてなくて良かった。

 僕は迷った末、端的にことの顛末を報告した。


『実は、いつも通りに起きたはずなのに、気付いたら縦穴式住居っぽいとこにいたんだ。変な民族たちもいる異世界に飛ばされたっぽい。『うんぽっぽ!』で乗りきって、コンニャクとスマホだけ持って外に来たんだけど、僕これからどうしたらいいかな?』


 頑張った。歩きスマホでまあまあ長文頑張った。

 既読がついてから数分の間があった。

 ようやく返信が来たと思ったら、病院の位置情報だった。しかも精神科。


『大丈夫、俺はどんな時でもおまえの味方だからな。とりあえず受診しよ? な?』


 なんか励まされてる!

『いや、精神科は……』


 続いてまたどこかの位置情報。開いてみると、今度は脳外科だった。


「ちゃうわ!」


 思わず声に出して突っ込んでいた。

 脳外科ならいいわけじゃないし、そもそも病院は必要ない。心も身体もどこも悪くない。


『授業始まるから、休み時間に通話かけるわ。ゆっくり休んどけよ。あ、病院は保険証必要だからな』

『ありがとう』


 こういう、妙なとこで気遣いができるから、田中はそこそこモテるんだろうなあ。

 できればちょっと授業抜け出して今連絡ほしいなあなんて思いつつ、僕は彼からの通話を待つことにしたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る