第49話 ダンス
「さて、自己紹介も終わった事だし本題に入ろうか。君に来て貰ったのは他でもない。君の使う無詠唱についてさ。魔法はそもそも詠唱なんかないのに、なぜ無詠唱なんて呼び名なのか?それが気になって気になってしょうがなくてね」
それが気になって読んだのかよ……
「というのはもちろん冗談で。どうやって魔法を一瞬で、しかも戦闘しながら構築しているのかを知りたくてね」
冗談だった様だ。賢者なんて肩書だが、さっきから話してる限り、アトモスはかなり軽い人物の様だな。見た目も合わさってか威厳が完全に0である。
「それは構いませんけど……これは――」
「おーっと、みなまで言わないでくれたまえ!君の言いたい事は分かる!分かり過ぎる程に!天才のみ成し遂げる御業だから、他人では真似は出来ない。そう言いたいんだろう?僕もまた天才だからね。君の考えている事が痛い程に分かってしまうんだなぁ、これが」
「ええまあ……」
まああってはいるが、少々ウザい。
「だが安心したまえ!らららー」
片足で机をバンと踏み鳴らしたかと思うと、アトモスがらららと歌いながらその上でクルクルと回る様に踊り出した。机の上には書類がどっさりと置かれている書類を蹴飛ばしながら。
「おおっとすまんすまん。驚かせてしまったね。僕は興奮すると踊ってしまうたちなんだ。ちょくちょく出てしまうだろうが、可愛らしい癖として流してくれたまえ」
5分程踊った所でやっとアトモスが止まる。その理由を聞き、果てしなく時間を無駄にさせられた気分になってしまう。
「はぁ」
興奮すると踊り出すとか、どんな癖だよ。ひょっとしてここのがこんなに散らかってるのって、そのせいか? 乱雑に散らかっている室内を見渡し、ふとそんな事を考える。
「まあ話を戻そうか。まあ何が言いたいのかと言うとだね……要は僕程の天才にもなれば、他の天才の力から多くのインスピレーションを得る事が出来る。そしてそこで得た物はたとえ完全に再現できなくとも、何らかの革新の足掛かりとなるという訳だ。そう!情報を精査し、未来へと繋ぐ!それこそが棒の才能!天才である僕の!らららー」
「あ、それはもう結構なんで」
アトモスが踊りだそうとしたので、俺は咄嗟に彼女?が机に降ろそうとした足の裏に掌を差し込んで止める。また時間を無駄にされてもアレだし。少々失礼な行動ではあるが、まあこのネズミならその程度の事は一々気にしないだろう。
「おっとぉ……僕を止めるとは、流石天才だけはあるね」
「ありがとうございます」
謙遜はしない。ただ本音を言うなら、この程度の事、天才でなくとも誰でも出来る。別にそんなに素早かった訳じゃないから。
「さて、それじゃ早速君の魔法を見せて貰おうか」
「分かりました」
通常、他人の使う魔法というのは、発動するまで視認する事は出来ない物だ。そして発動後の魔法を見た所で、俺の無詠唱がどんな物かを理解する事は難しいだろう。過程にその全てが凝縮されているからな。つまり魔法を使って見せても、それはほぼ無意味な行動になると言わざる得ない。
だがこのアトモスは、破龍帝が魔法使いとしてその力を認めたほどの人物だ。何せ、アカデミーで唯一魔法を任された教師な訳だからな。ならば彼女も俺と同様、魔力の微かな流れから全体を把握する能力があってもおかしくはない。
「ヒール」
俺はセブンスマジックであるヒールを発動させる。この場所で攻撃魔法を使う訳にはいかないので、必然これ以外の選択肢はない。
「ほほほほう!これは凄い!瞬時に魔法陣全てを一瞬にして展開し、同時に、かつ、タイミングをずらして魔力を込めるとは!」
正確にいい当てるアトモス。やはり彼女には、凡人には見えない魔力の流れがハッキリと見えている様だ。
「っと……」
俺は彼女の足の下に掌を差し込む。何故そんな真似を? もちろん、アトモスが踊りだそうとしてたからだ。本当に良く踊るネズミである。
「ふむふむ、素晴らしい。もはや完全と言っていいレベルの記憶力と、常軌を逸した集中力が可能とする……正に天賦の才と言える所業だね。確かにこれは凡人では再現不可能だ」
彼女的に何か得る物でもあったのだろうか。アトモスがしきりにうんうんと頷く。
「だが逆を言えば……記憶力と集中力を極限まで高める事が出来れば、君と同じ真似が出来るという事でもある」
「まあそうですね」
普通に考えたら、そんな物は才能以外で実現不可能である。訓練で何とかなる物でもないだろう。特に記憶力は。
だが――この世界は地球じゃない。魔法やオーラがあり、魔物や龍の居るファンタジー世界だ。地球では出来なかった事も、この世界でならあるいは……
「ふむふむ、これは研究しがいがある。しかしアレだね……今ふと思ったんだけど、君ならあの魔法が使いこなせるかもしれないな」
「あの魔法って?」
「人間がロストマジックと呼ぶ魔法さ。いわゆる、
「ひょっとして、アトモスさんは使えるんですか?」
「ふふふ、もちろんだよ。何せ僕は天才だからねぇ。どうだい?せっかくだから覚えてみる気はないかい?
アトモスが踊り出す。ちょっと驚いていたせいで今回は掌を差し込み損ねたが……まあそんな事はどうでもいいか。
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