第50話 分身

 ――創造魔法クリエイション


 それは最高位魔法。この世界の人間は、世界級魔法ワールドマジックまでの知識しか有していなかった。そのため、それ以上である最高位魔法の創造魔法クリエイションは伝説上の物だと言われていた。


 だがアトモスはその魔法を扱え、更に、俺に覚える気はないと尋ねて来た。どうやら人間にとっては伝説の魔法であっても、長らく魔竜アーグレンの眷属だったアースワイズマンという種族にとってはそこまで貴重な物でもない様だ。


 ……でなけりゃ、こんなに軽く聞いてきたりはしないだろうからな。


「教えて貰えるなら、是非ともお願いします。あ、でも踊りの方は結構なんで」


 踊りに興味はない。というか、もう一度見ているのですべて覚えてしまっているしな。まあ冗談だとは思うが、一応。


「ははは、踊りは冗談さ!」


「そうですか」


「じゃあまずは、一度使ってみ見せてあげよう」


「ここでですか?」


 アトモスの体に魔力が満ちるのが分かる。どうやらここで魔法を使うつもりの様だ。


「攻撃用の魔法じゃないから大丈夫だよ。まあ発動にちょっと時間がかかるから、少し待っててね」


「分かりました」


 正直、魔法で魔王相手に大打撃を与えるの難しいと、そう俺は考えていた。少なくとも、世界級魔法ワールドマジック程度では。だがその上となればあるいはと期待していたのだが、どうやらそもそも攻撃魔法ではなかった様だ。


「……」


 アトモスが魔法を展開していく。俺はその魔力の動きから彼の内で描かれている魔法陣を推測して暗記して行く。


 想像よりも多いな……


 観測できた魔法陣の数は既に二千を超えていた。セブンスマックであるヒールで48個。エイスマジックであるセイクリッドプリズン、やデストラクションサンダーで90から100個だ。倍々に増えていくと仮定した場合、創造魔法クリエイションは千個程度と予想していたのだが、それを大きく上回る。


 ……それに魔力の量が半端ない。


 アトモスから見て取れる魔力。それを自分の能力とテストでの数値から当てはめれば、軽く四千は超えているはず。俺の倍以上。とんでもない魔力量だ。流石破龍帝が認めた天才と言わざる得ない。


「よし!行くよ!」


 20分ほど待たされただろうか。魔法陣の数が五千に達した辺りでやっと完成した様だ。この数の魔法陣を20分で構築できるあたり、彼女の記憶力や集中力は相当優秀だ。


 まあそれでも俺ほどではないけど……


創造魔法クリエイション!ドッペルゲンガー!」


 アトモスが魔法を発動させると、その体の輪郭が突然ぶれた。そしてそのぶれが大きくなったかと思うと、彼女の体が二つに分かれてしまう。


「大成功!」


 両方のアトモスが。指を二つ立てたピースサインを器用に作って前に突き出す。単に数が増えるだけの魔法の様にも思えるが、そうではない。これが幻覚の類や、分裂した側が劣化品なら正直つまらない魔法と思った事だったろう。だが違う。生み出されたもう一人のアトモスは、正真正銘もう一人の彼女だ。


 ……魔力量も全く一緒。間違いない。これは完全な複製コピーだ。


「創造魔法の名の通り、この魔法はもう一人の自分を創造する魔法みたいですね」


 自分を丸々一人増やせるなら、それは間違いなく有用な魔法である。それが学べるのなら大歓迎だ。


「そのとーり!らららー、あっ!?」


 アトモスが踊りだそうとすると、魔法で生み出された方が消えてしまう。


「この魔法、維持するのが凄く大変なんだよねぇ……」


 どうやら維持が難しい様だ。だが俺ならそれを何とかできると思ったからこそ、アトモスは覚えないかと聞いて来たはずである。ならばその維持のカギは、記憶力や集中力なのだろうと思われる。


「アトモスさん。今の魔法、俺に教えてください」


 俺はアトモスに頭を下げる。


 え? 魔法を見たからもう覚えたんじゃないのかって? あくまでも魔力の流れから掴んでいるので、欠落が出ていないとも限らないからな。あと……流石の俺も、20分で五千を超える魔法陣を完璧に暗記するのは少々難しい。


 まあ維持の事もあるし。ここは完璧にするためにも、正式に彼女から習う事にする。

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