第13話 いや無理
――大きく崩壊した渓谷跡。
爺さん改め、師匠がぶっ飛ばした場所だ。俺は今、そこで師匠の指導を受けていた。因みに生活費は、師匠が万一の為に取っておいたというマジックアイテムを売って捻出されている。
「何ていうかこう……お前ホントとんでもねぇな」
師匠が俺の動きを見てそう言う。彼の元で訓練する様になって既に半年経つが、その間俺は多くの物を超高速で吸収し。そして――
「まさかたったの半年でワシのほぼすべてを吸収するとか……世の中の不公平を痛感させられるわ」
――その技術の殆どを、俺はこの短い期間で習得しきっていた。
単純に戦闘技術を競った場合、もう俺の方が上と言っても過言ではないだろう。そう言う意味では、免許皆伝といっていい。とは言え、もし師匠と本気で戦ったら俺は圧倒されるだろうが。
何故か?
簡単な事だ。根本的なパワーが違う。俺が体得したのはあくまでも技術のみ。未だ基礎能力においては、俺と師匠との間には越えられない壁があった。
「魔法も何回か見せるだけで全部覚えちまうし……」
魔法の方はもっと顕著で。簡単な物なら一回。大量の魔法陣を必要とする高難易度の魔法でも、数回実演して貰えるだけで俺は完璧に習得出来た。我ながらほれぼれする程の天才っぷりである。
「本来ならもう教える事は無い!旅立つがいい!とか言う所なんだが……如何せん、技術に対して基礎能力の伸びが弱いんだよなぁ」
半年という期間を考えると、十分伸びた方だとは思うんだが……
俺自身はそうは思うが、それは所詮一般人的な感覚でしかない。異世界人で、しかも化け物レベルの師匠からすれば、それは満足のいくレベルではないのだろう。
まあなまじ技術の吸収速度が異常に高いだけに、余計それが顕著に感じられてしまうってのもあるだろうが。
「クラスがシビリアンって考えれば、破格っちゃ破格ではあるんだが……」
クラスは個人の成長に影響するものだ。例えば魔法使いが体を鍛えても、その成長は鈍い。逆に戦士が魔法能力を――魔法が使えるのなら――鍛えようとしても魔力が余り伸びなかったりといった感じに、適正外の能力は鍛えても今一になり、適性がある能力はガンガン伸びていく。
因みに、師匠の【
勇者はその【
「このペースなら、俺に追いつくだけなら二年もあれば可能だろう。けどそこからジークフリートの域にまで上がるってのは……まあ難しいだろうな」
二年あれば師匠には追いつける。だがジークフリートの域まで上り詰めるのは難しい、か。いったいどれ程の化け物なんだ、そいつは。
「ジークフリートはそんなに強いんですか?」
「俺のパーティー鬼道隊のメンバーは、俺に匹敵する奴ら4人――つまり総勢5人のパーティーだ。連携はそれこそ最高クラスでよ。俺の能力を100とするなら、5人で戦った時の力は余裕で俺単独の10倍以上だ。まあ強さは単純な数字では表せねぇから、ふわっとした指標ではあるがな」
「10倍ですか……」
10倍なら、パーティーの戦闘力は1000という事になる。当然、そのパーティーを下した魔竜の力はそれ以上で。別の奴とは言え、魔竜を倒したジークフリートの力はその更に上を行く訳だ。
「で、だ。魔竜を倒したジークフリートは……まあ俺の15倍以上ぐらいはあるだろうな。しかもあいつはあの時点で10代だったし、更に成長してりゃ20倍以上も十分あり得る」
「なるほど。そんなに強いんなら、確かに俺の成長速度で越えるのは無理ですね」
難しいではなく無理。そう俺はきっぱりそう宣言する。師匠に追いつくのに二年。単純計算だと、ジークフリートに追いつくのに三十年から四十年かかる事になる訳だ。
成長率が維持できるなら、時間をかければ追いつく事も不可能じゃないんだろうが……
人間の成長速度は加齢と共に衰えていく。今のペースでの成長を、十年後も維持する事など不可能だ。そう考えると、その頂に至るまでの時間は倍増する可能性が高い。
六十年後とか、もう完全に老人だ。八十年後に至っては、死んでいてもおかしくない年齢である。どう考えても、望んだ強さになる前に、老化による衰えが始まって終了だろう。
まあジークフリートの方が年上なので、相手の老化による弱体を含めて考えれば逆転する事自体は可能なのかもしれない。だが爺さんが求めているのは、弱くなった相手より強くなる事ではない。あくまでも自らの弟子が最強を越え、それを見返したいってのが目的だ。それでは意味がないだろう。
まあ何より。そう、何より、だ。
俺はこの世界で修行に一生を費やす気なんざ更々ない!
俺の最大の目標は強くなる事ではなく、元の世界に返る事だ。ぶっちゃけ、爺さんレベルの強さがあれば、ディバイン教会相手にも強気に出る事は可能だ。なので修行は長くとも二年で切り上げさせて貰う。
爺さんより強くなりさえすれば、その強さに恐れを抱く必要もないからな。
「はぁ……俺の悲願が……行けると思ったんだがなぁ……やっぱあいつを越えられるのは、勇者じゃないと駄目なのか……」
爺さんが首を下げて項垂れ、ブツブツと愚痴を垂れ流す。どんまい!諦めろ!
「まあ世の中そんなもんですよ」
そう、世の中は理不尽だらけだ。超天才である俺ですら、急に異世界召喚されて苦労してるのだから間違いない。
「くっ!だがワシは諦めん!こうなったら訓練量を今の倍にするしかねぇ!!」
師匠がおっそろしい事を口にする。今だって十分にハードワークだってのに、此処から更に倍とか、俺を殺す気か?
「師匠、人間諦めが肝心ですよ」
「諦めってのはな、やれるだけの事をやり切ってからするもんだ。若いお前が早々に諦めてどうする?」
「いやそもそも、俺はジークフリート越えとか狙ってないんで……」
「ええい!黙れ!お前は黙ってワシについて来い!」
人の話を聞きやしねぇ。二倍とかマジ勘弁だ。と言っても、師匠より弱い身ではそれにあがなう術はない。くっそー、覚えてろよ。強くなったら絶対借りを返してやるからな。
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