第14話 卒業

「ふぅ……一本取られちまったな」


 地面に大の字で寝転んだ師匠が、満足げに呟く。


 練習量2倍は地獄だったが、その甲斐もあって俺は1年経たたずに師匠に並ぶだけの力を手に入れる事が出来た。我ながらよく頑張ったと、自分で自分をほめてあげたい気分だ。


「まあ……天才ですから」


 死ぬ程努力した、と言うかさせられたってのもあるが、一般人ならこの短期間でここまで強くなる事は出来なかっただろう。学習能力程ではないにしろ、俺の基礎能力の向上もまた、天才と呼ぶに相応しい物だったとハッキリ言える。じゃなきゃ、たった1年で爺さんと並ぶなんてありえないからな。


 こちとらシビリアンだぞ。底辺クラスのシビリアン。


「さて、それじゃあ俺は卒業ですね」


 師匠には俺の事情を全て話してある。その目的も。当然、生涯を修練にあてる気がない事も。まあ仮に元の世界に返る気がなくとも、こんな糞キツイ訓練をこれから五年、十年と続ける気は更々ないが。


「惜しいなぁ……お前なら、いずれジークフリートにだって届いたってのによぉ」


「強くしてくれた事には感謝してますけど、師匠のちっさなこだわりの為に一生をかけるつもりは更々ありませんから」


 世の中、完全に満足して綺麗さっぱり人生を終える様な人間がどれ程いるだろうか?大抵の人間が、妥協や無念の先に終わりを迎える物だ。なので師匠にはすっぱり諦めて貰う。


「小さなこだわり……か」


 元来、こだわりに大きい小さいなどはない。譲れない物は誰にでもある訳だからな。


 だから他人に鼻で笑われて、それを見返す事を人生の最終目標に努力する。それ自体を俺は小さいとは微塵も思わないし、大いに結構だとも思う。だが自分ではなく、他人に無茶させて行おうとするなら、それは浅ましさく小さな物であるとと言わざる得ない。


「まあそうだな。数年ならともかく、それこそ一生苦しい修練をワシの為に求める権利は……まあねぇよな。わかった。すっぱり諦めよう。お前さんは今日で卒業だ」


 俺を見つけて初期こそ興奮していた師匠だったが、俺の才能が思った程ではなく――所詮シビリアンだしな。そしてこの一年の訓練がどれ程無茶な物かを理解してか、あっさり諦めると口にする。


「師匠、一年半の間ありがとうございました」


 俺は頭を下げる。始まりが半強制だったとはいえ、それ相応の恩恵を受けたのは事実だ。もし師匠と出会ってなかったら、今の十分の一も強くなっていなかっただろう。


 ――今のこの力があれば、送還魔法の手がかりを掴むのも相当楽になる筈だ。


 圧倒的な力があれば、大金を手にするチャンスが生まれる。そして金と力があれば、強いコネを作る事が可能。


 金と力とコネ。


 この三つがあって、世の中出来ない事はない。その種火をくれた師匠には、本当に心から感謝している。


「それじゃ、俺はこれから本格的に送還魔法探しを――っ!?」


 その時、とてつもない魔力を感じ俺は驚いて東に目を向ける。場所的には、街の向こう側――ディバイン教会がある辺りだ。師匠を見ると、彼も同じ方向へと視線を向けていた。


「師匠、ひょっとしてこれって……」


「ああ……お前の時と同じ魔力の波動だな」


 俺の時と同じ。それはつまり――


「勇者召喚……師匠、俺は街に戻ります」


「おう、俺も行くぞ」


 再び行われた勇者召喚。それが気になった俺は街へと向かう。

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