第12話 ノー勇者

「いや、全然違うんだけど……」


 俺は爺さんの言葉を否定する。そしてこの言葉に嘘はない。確かに俺は異世界から召喚された身だが……ハズレとして放逐されている。なので勇者所か、クラスは一般市民シビリアンだ。


「隠さなくてもいい。ワシは全部お見通しだからよ。まあそこに気付いた理由は三つある――」


 爺さんは俺の言う事を無視し、何故そう言う答えに行きついたのかを話し出す。


「まず第一に、昨日ディバイン神殿から大きな魔力感じた。あそこはかつて世界を救った勇者が召喚された場所で有名だからな。まあ正確には、あそこにはそこに繋がるゲートがあるだけだが。あれだけ馬鹿みたいな魔力を神殿から感じれば、勇者召喚が行われた事ぐらいは想像がつく」


 馬鹿みたいな魔力、か。化け物じみた爺さんが言のだから、相当な量の魔力と考えて街がないだろう。まあ取りあえず、勇者召喚にはとんでもない魔力が必要って事だけは分かった。なら、当然その逆バージョンでも同じだけの魔力が必要になって来る筈だ。


「そしてその日に現れた、世間知らずっぽいお前さんだ」


 爺さんが口の端を歪め、俺を指さす。


「ワシみたいな小汚い爺の話を、金を払ってまで聞きたがる奴なんざ普通はいねぇ。にも拘らず、お前さんは真剣に話を聞いてた。そこでワシはピーンと来たのよ。あ、こいつ情報収集してるなって。それも注目される事を避けて。でなきゃ、話を聞く相手にワシを選んだりはしねぇだろ」


 まあ確かに。普通の人から情報を聞き出そうとしたら、常識の抜けたおかしな奴として注視される心配があった。だから周りに相手をされて無さそうな、はぐれモノに分類されてそうな爺さんに声をかけたのだが……完全に裏目に出た訳か。


「そして極めつけが、一瞬でオーラを習得した天性のセンスだ。勇者召喚のあった日にやってきた世間知らずが、とんでもない天才とくれば……まあ馬鹿でも気づくわな」


 ドヤ顔で、爺さんはそう締めくくる。その考察はおおむね正解だが、最も重要な部分が外れている。当然それは俺が勇者ではないという点だ。取り敢えず、誤解は解いておかないと。


「爺さんは、クラスを鑑定する魔法とか使えたりしないか?」


「あん?もちろん使えるぞ。結構高位な魔法だが、ワシクラスになればそれ位お手の物だ」


 使えう様だ。なら勘違いを解くのは簡単だな。


「じゃあそれを使って、俺のクラスを確認してくれないか?」


「そりゃまあ構わないが……」


「はあ確認してみてくれ」


「ふむ、分かった」


 爺さんが右掌を俺に向ける。その掌に魔力が集まり、魔法が発動する所を俺はハッキリと認識する事が出来た。


 行けそうだな……


「は?へ?一般市民シビリアン


 魔法での鑑定結果を見て、爺さんがポカーンと間抜け面になる。そりゃそうだよな。勇者だと思ってたら、ただの一般人だった訳だからな。


「今のは何かの間違いに違いねぇ!もう一度!」


 爺さんがもう一度魔法を使うが、だが、当然だが結果は変わらない。


「……」


「爺さん……もう一度言うぞ。俺は勇者じゃない」


 駄目押しの一言をかけると、爺さんが静かに膝から崩れ落ちた。勇者なら、化け物じみたジークフリートを越えられる。きっとそう思って希望を持ったのだろうが、それが幻想と知って相当ショックを受けてしまった様だ。


 希望が大きければ大きい程、絶望ってのも大きくなる物だからな……


「馬鹿な……絶対に勇者だと思ってたのに……只の勘違いだったなんて……ははは、おかしいと思ってはいたんだよ。態々召喚した勇者を野放しにするなんて、普通にあり得ないから……くそ、せっかく見つけたってのによ……それが全部幻だったなんてよ」


 爺さんは地面に両手を付け、そのまま四つん這いのハイハイのポーズになってぶつぶつ呟く。かける言葉も思い浮かばないので、取り敢えず試してみる事にした。


 何を?先ほど爺さんが使った鑑定の魔法だ。


 昨日クリエイトウォーターを見せて貰った時は、靄の様な魔力をふわっと認識する事しか出来なかった。だが自身の魔力に気付き。魔法陣を頭に刻み込み。魔法を使った事で。俺の中でその理解度や認識が遥かに上がっていた。そのため爺さんの掌に集まった魔力から、魔法陣の形を見抜く事が出来ていた。


 ……一度目だけだと微妙だったけど、二度見れたからな。


 俺は今見抜いた魔法陣を頭の中でイメージし、そして魔力を満たす。対象は勿論、呆然自失となっている爺さんだ。


闘鬼バトルマスター】か。まあよく分からんが、名前的に戦闘に特化したクラスだと言う事は分かる。


「お、お前今クラス鑑定の魔法を使ったのか!?」


 どうやら俺が魔法を使った事に気付いた様だ。落ち込んで四つん這いだった爺さんががばっと勢いよく起き上がり、見開いた両目で俺を凝視する。


「この街のギルドにゃ、クラス鑑定なんて高度な魔法は置いてねぇ……つまり今お前は、俺の魔法を見て真似たって事だよな?」


「まあ、そうなるかな」


 天才なのはバレているので、もうそこは隠す必要がない。なので俺はそれをあっさり認める。


「とんでもない天才じゃねぇか……ははは、そうだよ、こいつは。そう天才だ!」


 爺さんの目が輝き、その声のトーンが大きくなっていく。


「この際勇者かどうかなんて関係ねぇ!ワシはお前の才能に賭けるぞ!!」


 爺さんは鼻から『フンス』と息を吐き出し、まるで絶対逃がさんと言わんばかりに俺の肩を両手でガッチリつかむ


「いや、賭けられても困るんだが……俺は別に世界最強なんか目指してないから」


 ガンガン来られても困るんだが?魔法は直ぐに試さず、後でやればよかったと俺は死ぬ程後悔する。


 結局、俺はこの後爺さんに押し切られて弟子入りする羽目になってしまう。力が欲しかったからというのも一つの要因だが、何より、爺さんが逆切れしたら俺には身を守る術がないと言うのが大きい。


 普通の人間が言葉の喋れる熊に伸し掛かられている状態で提案を出されて、それを断れるだろうか?それが答えだ。

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