第9話 掌
「じゃあ次はオーラの二段階目だな」
魔法の試し打ちが終わったので、次はオーラの習得へと移る。二段階目に求められるのはオーラの体内巡回。要はコントロールだ。
その場に座って座禅を組み、深く集中する為に目を瞑ってオーラを生み出す。そしてそれを手足の如く動かす事を俺はイメージするが……
「こっちの方が難しいな」
一段階目は一瞬で出来た俺だが、二段階目は中々上手く行かない。難易度が格段に上がってしまっている。
それまでなかった物を生み出すのと、生み出した物をコントロールするのでは、後者の方が簡単に思えるだろう。実際、それ自体は間違っていない。なら何故二段階目の取得の方が難しいのかというと――
「やっぱ、例があるかないかの差はでかいか」
――直接触れる事が出来た例――3人の子供達の体から溢れていたオーラがあったからだ。
あれに触らせて貰い。感覚を、その存在を直に掴めたからこそ、1段階目を容易く終える事が出来たのだ。それに対して2段階目は――
『二段階目に必要なのはイメージ。要は思い込みだ。自分を騙す程思い込めば、自然と動かせるようになる。だから集中できる姿勢になって、オーラが体内で流れる姿を想像し続けろ』
――という、ふんわりした指導を爺さんから貰ったのみ。そりゃ難易度も上がるわ。
出来ればもっと具体的な訓練方法を示して欲しかった所だが、まあ所詮100ボルで引き出した情報だからな。多くを求める事自体無理があるという物。とにかく、座禅してイメージし続けてみるとしよう。
「お……」
それから小一時間程集中し続けた所で、唐突に、ほんの僅かだが感覚をつかめた気がした。まるでパズルのピースがかちりと嵌まった様な感覚。俺はそれを極大化する様に集中し、そしてゆっくりとオーラを脳内で動かす。
「よし、出来た」
目を開け、立ち上がる。そして強めにその場でジャンプしてみた。元々の垂直飛びは1メートルも行かない俺だったが――それでも一般的な平均よりずっと高い――体が急上昇し、自分の身長所か、その倍以上を跳躍する。
「こりゃ凄い効果だ……」
「オーラが使えるかどうかで世界が変わっただろ?」
「——っ!?」
着地してオーラの効果に感嘆していると、突然背後から声を掛けられ驚いて振り返る。そこにはベゼル爺さんが立っていた。
……全く気付かなかった。
いくら集中していたとはいえ、ここは身を隠す様な場所のない草原だ。近づかれれば普通は気づく。だが俺は、爺さんの接近に全く気づけなかった。
「爺さん、いつの間に……」
俺はごくりと唾を飲む。目の前の爺さんは口の端を吊り上げ、その奥に怪しい光をたたえた瞳で俺をじっと見つめている。
――まるで別人の様な雰囲気。
声や人相は確かに爺さんなのだが、本当にあの公園にいた老人と同一人物か?そう思わせるほど雰囲気が違う。
「いつの間にって言うか……ずっとつけてた」
「は?つけて来た?」
何のために?
だいたい、俺は他の人間より遥かに勘が鋭い。その俺に全く気付かせず、爺さんは後を付けて来たってのか?そして草むらで足音一つ立てず、瞑想中の背後を取ったと?
そんな馬鹿な。そう思いたかったが、実際爺さんはこうやって俺に気付かせず背後を取って見せたのだ。目の前に突きつけられた以上、事実として受け止めるしかない。
「言っただろうが。ワシは名の知れた冒険者だったって。追跡術もお手の物って訳よ。ターゲットに気配を気づかせず追跡するのは、狩りでは重要な能力だからな。ま……お前さんはワシの話を全く信じてなかったみたいだが」
武勇伝は完全に与太話だと思っていた。本当にそんな凄い人物なら、天才である俺が気づかない筈がないから。そう思って。
だが、今になって、この状況になって分かる。本当に凄い達人だったからこそ、俺でさえ何もつかめなかったのだと。
「おいおい、そう怖い顔すんなって。別に取って食おうって訳じゃねぇんだからよ」
「そんな獲物を狙う目つきで言われてもな」
そんな悪い笑みを浮かべて置いて、取って食う訳じゃないと言われても全く説得力がない。俺は油断する事無く警戒を続ける。まあ、目の前の爺さん相手に意味があるかは分からないが。
「おっと、悪い悪い。ちょっとばかし嬉しくってよ。だってお前、とんでもない天才だろ?オーラの一段階目を一瞬で成功させて、二段階目もあんな不完全な方法だったのに、たった1時間で習得しちまったんだからよ」
「金取っといて、不完全なの教えたのかよ」
「ははは、不完全っつうのは言葉のあやだ。普通は指導者から体内にオーラをゆっくり流して貰って、少しづつ感覚を掴むってのが一般的な習得方法でな。お前さんは俺に直接指導を受ける気が無かったみたいだから、イメージで何とかしろって以上の事は教えようがないだろ」
「なるほど……」
才能を隠すためにやり方だけを聞いた以上、爺さんの言には一理ある。まあそれでも、効率の良い方もちゃんと教えろよって気もしなくもないが。
「まあ自分の才能を隠したかったんだろうが……バレバレだったぞ?」
「……」
完全に手玉に取られていた訳か。自分の事を天才だと自負していたが、どうやら俺はとんだ道化だった様だ。
「さて……で、本題に入ろうか。お前さん、ワシの弟子にならんか?ワシが誰よりも強くしてやる」
「は?」
爺さんの唐突な勧誘に、眉根を顰めた。
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