第5話 オーラ
どうもこの世界——少なくともこの辺りでは、朝飯抜きが一般的な様だ。なので成長期の子供以外は基本朝ご飯を食べない。そして宿に泊まる人間の大半は昼食を外で済ます。
「食事オプションが夕飯だけなのは、そのためみたいだな」
情報源は宿屋のおかみさんとの世間話。
宿を出た俺は、昨日爺さんの居た場所——公園へと向かう。覚えた魔法を試してみる為に。広い場所だったので、火はともかく、水風土の魔法を試すのには打ってこいの場所と言えるだろう。
「ん?」
公園には爺さんがいた。のはまあ別にいい。どう考えても無職住所不定だしな。俺が引っかかったのは、ベンチに座る爺さんの前に三人の子供達の姿があったからだ。そしてそのうち一人は見覚えのある子だった。
「あ、お客さん!おはようございます!」
昨日宿で部屋まで案内してくれた少女が、近づく俺に気付いて笑顔で挨拶して来る。
「君は確か宿屋の……」
「はい!娘のコニーです」
「おはようコニー。君は一体ここで何をしてるんだい?」
ホームレス間違いなしの爺さんの前に、子供が三人並んで立っている姿は少々シュールだ。気になったので俺は彼女に尋ねる。
因みに残りの二人は片方がコニーと同年代の少年で、もう一人はそれより歳がいくつか上の少年だ。年上の少年の方は何と言うか……まあ一言で言うと、格好が酷く小汚い。その姿は爺さん寄り。つまり、浮浪児の様な見た目をしていた。
「私、将来は冒険者になりたいんです。だからベゼルお爺さんに色々と教えて貰ってて」
業突く張りっぷりを昨日見せられているので、コニーの言葉に俺は胡乱な目を爺さんへと向ける。
「おいおい、そんな目で人を見るなよ。別にいたいけな少年少女から金をむしり取っっちゃ……まあもちろん少しは頂いてるが、そこはちゃんとお子様価格にしてあるからな。大人相手みたいにボッタくったりはしてねぇよ。だいたい、子供の払える額なんてたかが知れてるだろうが」
大人相手でもボッタ来るなよと思わなくもないが、爺さんの経済状況ならその辺は仕方ないか。まあ浮浪児みたいな少年でも払える範囲な訳だし、破格のお子様価格というのは嘘ではないのだろう。
尤も、安いだけでそれが正当な授業とは限らないが……
「なるほど……それで、どんな内容なんだ?」
「そこは企業秘密よ……ま、地獄の沙汰も金次第ではあるがな」
爺さんがそう言って掌を上に向けた手を俺に差し出す。
「やれやれ」
俺はその掌に100ボル――1000円相当を置く。
この世界の訓練方法には俺も興味があるからな。まあもしそれがあからさまにいい加減な物だったなら、俺の方から子供達に、もう爺さんにはかかわらない方がいいと忠告させて貰う。
「訓練方法だが……お前さんワシの事を疑ってるみたいだから、まずはガキンチョ共の訓練の成果を見せてやるとしよう」
「コニー」
「はい!」
宿屋の娘であるコニーが元気よく右手を上げる。
「ダリム」
「は、はい……」
ダリムと呼ばれた少年は、少しオドオドした感じである。どうやら大人しい、もしくは臆病な性格をしている様だ。
「ベッチ」
「はい」
身なりのあれな少年が、ぼりぼりと頭を掻きながら答えた。その際、視認できる程のふけが豪快に飛ぶ。俺の方にまで。他の子らは気にしていないみたいだが、俺の方に飛ばすのは勘弁して欲しい。
「お前らのオーラを見せてやりな」
「オーラ?」
「ん?なんだ、お前さんオーラも知らないのか?」
俺の疑問の言葉に、爺さんが不思議そうに眉根を寄せる。どうやら知っていて当たり前レベルの常識だった様だ。
「いくら田舎の出でも、オーラは流石に知ってそうなもんだがな?」
「ああいや……まあ多分、呼び方が違うんじゃないかな?うちド田舎だから」
「ああ、成程な。確かに田舎ってのは、独特の方言使ったりするからな。まあいい。じゃ改めて、訓練の成果を見せて見ろ」
若干苦しい言い訳だったが気もしなくもないが、爺さんは特に気にしている様子もないのでまあ結果オーライである。
「「「はい」」」
三人が目を瞑る。その瞬間、俺の背中に悪寒が走った。
これは……
「——っ!?」
……オーラとやらが、あの時感じた物の正体だった訳か。
目を凝らすと、三人の体が薄っすらと光っているのが分かる。そして三人から放たれるちょっとした圧迫感の様な物は、俺が召喚された時に周囲の兵士やローブ姿の人間から感じた物とよく似て――いや、ほぼ同じだった。
但し、明らかに見た目に変化がある彼女達の方が、その圧が弱く感じる。そう考えると、俺の捉えた感覚は同じでも、実際は少し違っているのだろうと思われる。
「どうでい。この年でオーラを生み出せるのは、正に俺の指導の賜物だ。そう、この赤鬼ベゼル様のな!」
爺さんが誇らしげに胸を張る。オーラの事はよく分からないので凄いのか凄くないのか分からないが、これだけは言える。
——払った100ボル分は余裕で回収できそうだ、と。
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