第30話 魔法課題!


「とうとう始まります」

 グラーン先生は言った。

「何がですか?」ユウトは首を傾げた。

「百年に一度の、マジック・トライ・バトル略してMTBです!」

「何だそれ?」

「選ばれた生徒が、生徒同士で競い合うのです」

「へぇ」ユウトは肩をすくめた。

「どうしたのですか? 興味ないのですか」

「あまり」ユウトは頷いた。

「なぜです?」

「だって、おれみたいな新顔しんがおは関係ねぇだろ」

 グラーン先生は笑った。「それは分かりませんよ。選ばれるのは、どのような生徒か決まっていません。選ぶのは魔法の儀式によってです」

「何だよ、儀式って?」

「それは、これからお知らせがありますから待っていてください」

 それから、生徒全員がホールに集められた。

 生徒たちは何が起こるのか、ワクワクしながら、その時を待った。

「静まれ!」

 校長の、威厳ある声に、生徒は口を閉ざした。

「これから、MTBに参加できる生徒の発表をする! MTBに選ばれた生徒は幸運だ。これは、ものすごく名誉あることで、百年に一度しか開催されない。もし、そのトーナメントで優勝することができれば、その名をかべに刻むこととなるだろう! では、名前の発表を行う!」

 校長は、おおわれていた布をとった。中から、薄気味悪い人形が現れた。それは、台の上に座ったままの状態で、動かなかった。

「何やら、不思議に思っている生徒もおるじゃろうな」

 生徒は沈黙して見守った。

「安心せい、今から人形が仕事をしてくれる!」

 しばらくすると、人形が動き出した。

 生徒たちは、不思議な人形を見つめた。人形はボロで出来ていて、汚らしい。大きさはニ十センチほどだった。

 やがて人形は立ち上がると、両手を大きく広げた。

 次の瞬間、青色の炎が空中に現れた。そして、炎は青白く光りながら、ぐるぐる回った。

 生徒たちは、その光景に息をんだ。

 やがて、炎は一つの炎となって凝縮すると、はじけて飛んだ。

 その一つが、生徒に直撃した。

「あれ、わたしどうしたの……?」

 直撃した少女は無傷だった。炎は、ぱちぱちとはじけた。

 四人の生徒に同じことが起こった。

「出そろったようじゃな」校長は言った。「選ばれた者たちは、前に出るように!」

 生徒たちは、前にある壇上だんじょうに向かった。

 そして、この時、不思議なことが起こった。突然、人形が赤く膨れ上がると、ふたたび炎が放たれた。それは、幾千の炎となった。

 それは、ホールを駆け巡った。そして、ユウトに直撃した。

「そんなことが……」

 校長は、目を疑った。本来、選ばれる生徒は、四人のはずだった。だが、実際に選ばれたのは、五人だった。

 ユウトは無事だった。

「これは一体?」グラーン先生が声を上げた。

 校長はたたずんだまま動かない。

 ユウトは、起き上がると、立ち尽くした。体の周りを、不気味な紫色の炎がぱちぱちと音を立ててはじけている。体は無事だった。ただ、服が少し黒くげ付いていた。

「俺、何ともねぇ」ユウトは身体を確かめた。

「来るのじゃ!」校長はおもむろに声を上げた。

 ユウトは首を傾げた。「んっ?」

「来るのじゃ!」校長は雷のように響く声を上げた。

 ユウトが壇上だんじょうに上ると、そこにほかの四人の生徒が見えた。

「今年は、この五人の生徒でマジック・トライ・バトルが行われる!」

 生徒たちから拍手が上がった。そうして、すぐに儀式は終了となった。

 やがて、すぐに先生方が集められた。集められた部屋は、別の部屋で書物や、イスが置かれた部屋だった。

 そこに、ユウトも呼ばれた。

 その場には、ほかの四人の生徒も一緒に呼ばれていた。

「何か、悪戯したのか?」

 校長はユウトに詰め寄った。

「何もしてねぇ」

「本当か?」

「ああ、俺はいつも通りの日常を送っていただけだ」

「神に誓ってか?」

 ユウトは頷いた。

 校長は吐息といきを漏らした。「今年はとんでもないことが起こった! 例年にない、異常事態じゃ!」

 グラーン先生は言った。「通常なら、MTBは熟練じゅくれんした生徒が選ばれることになっています。だけど、今年は違いました。選ばれたのは、まだうら若い生徒ばかりです」

 校長は首をふった。「何が起こったの分からん」

「校長、あせりは禁物です。まずは、冷静になるのです」グラーン先生は言った。

「うむ。分かっておる。だが、まず何考えればいいのやら」

「考えるべきは、なぜあの生徒が選ばれたかです! 何かの思惑が働いてこのようになったのか、それとも何者手によってなのか選ばれたのか、そこが重要です!」

 校長は頷いた。「もしこれが何者かの手によって行われたものなら、由々ゆゆしき事態じゃ。だが、これが偶然であるなら、なぜ起こったのか、その理由を考えねばならん!」

 他の先生が言った。

「きっと悪戯に決まっています」

 校長は考えた。

「まずは見極めねば!」

 この場にいるすべて者が見守った。

「どうやってです?」グラーン先生は言った。

「状況を見守るほかあるまい」

「それは、つまり、生徒に危機が迫っていたとしても、見て見ぬふりをするということですか?」

「そうではない。今回の事は、状況が何一つ分かってはおらんのだから。だから、何が起こったのか知る為にも、待つのじゃ」

「それは、生徒をおとりにつかうと言っているのも同じですよ」

「そうは言っておらん」

 他の先生が言った。

「これは魔法によって決められた儀式。いわば、運命をつかさどる、運命が決定づけたのです。結局、中止はできません! いわゆる、魔法契約なのですから」

 生徒はこの一連の流れを見守っていた。

 先生たちからは、深いため息がれ、心配そうな空気が流れた。





「大変なことになったわね」

 カマーンは言った。

 ユウトは肩をすくめた。「俺は何もやってねぇ」

「ええ、あなたは無実よ。あなたがいたずらをしたとはだれも思ってないわ」

 カナミがやって来た。

「大丈夫ですか、ユウトさん?」

「ああ、心配いらねぇ。それより、俺はこれからどうしたらいいんだ?」

 カナミは頷いた。「あなたはマジック・トライ・バトルに参加しなければならないです。ほかの決められた参加者たちは、その準備を進めえているです」

「見てきたの?」

「偶然目に入ったです。カイトは、得意になりながら自慢していたです」

「誰だけ、カイトって?」

「カイトは、あの嫌味な生徒です。取り巻きを連れて、イワンとゾフを従えている生徒です! 以前、女子生徒を押し倒したです」

 ユウトは手をうった。

「思い出した。あの意地悪な奴だな」

「そうです」カナミは言った。「そのカイトは、自慢すると同時に、課題にすぐ取り組むと言っていたです」

「まだ、課題は告げられっていなかったよな」

「それが」カナミは言った。「どうやら、カイト知っているみたいだったです。そもそも、カイトが選ばれるとは思っていなかったです」

「そうなのか?」

 カナミは頷いた。「わたしが知っている限り、MTBに選ばれる生徒は、長年ここに在籍した、経験豊富な生徒だったです。ですが、今回選ばれたのは、ユウトを含めて、まだ若い生徒が選ばれました」

「何か問題が?」

 カナミは首をふった。「よく分かりません。ただ、先生たちが騒いでいたから、気になって」

「俺たちは、俺たちのできる事をしよう」

 それから、三人で話し合った。その結果、図書館に行ってみる事になった。図書館には、MTBの情報があるはずだった。

 図書館に着くと、カナミが分厚い書物を引きずり出した。

「確かこれにっていたはず」

 ユウトは、広げられた書物を見た。

 それには、いきなり、MTBで事件が記されていた。

 それによれば、MTBでは、魔法の使用が認めらえれており、一人の生徒が魔法の事故によって、大けがを負ったとあった。その生徒は、魔法の爆発によって、片腕が吹き飛んだ。幸い、魔法の治療によって大事には至らなかったが、全治三週間の大怪我だったそうだ。

 つづいて読んでいくと、その年の課題だが、生徒同士による、魔法バトル、その他にも、魔法の森に入って、オーブを探す、危険な課題に挑戦していた。

 三人に吐息がれた。想像していた以上に、過酷だと分かった。

 その後も調べて行くと、分かったことがある。どうやら、課題は先生たちから発表されるわけではないということだ。課題は、突然出現し、当然始まるらしい。記事の一部に、置いてきぼりを食らった間抜けな生徒写真が、映し出されていた。その生徒は、間抜けな顔で肩をすくめていた。

 カナミは書物を閉じた。「これで、だいたい分ったです」

 ユウトは肩をすくめた。「俺はぜんぜんわからねぇ」

「課題は勝手に始まるです。だから、先生たちの指示を待つんじゃなくて、突然始まって、突然挑戦させられるです。だから、待つしかないです」

「本当に、待つだけなのか?」

「何か考えがあるですか?」

 ユウト首をひねった。「課題は自分で見つけるものじゃねぇのか?」

「う~ん。その可能性もあるです。でも、そうだったとして、どうやってその課題を見つけたらいいか、分からないです!」

 三人は、肩をすくめ合った。

 そこへ、妖精のサーシャが飛んできた。

「事件が起こりました」

 ユウトは椅子から立ち上がった。「何が起こった?」

 ユウトは、サーシャから事情を聴くと、中庭へ向かった。




 中庭では、カイトと、イワンとゾフが一人の生徒を取り囲んでいた。

「おい、おまえすごく弱いな」

「くそ、お前たち、こんな真似許されると思っているのか」

「はは。許される? 許されるからやっているんだろうが!」カイトは肩をすくめると、魔法を放った。

 それは、その生徒を直撃して空中に浮かび上がらせた。そして、くるくる回転させると、三人は大笑いした。

「やめろ!」ユウトは言った。

「卑劣です!」カナミは言った。

 カイトは、笑いをやめると振り向いた。

「なんだ、落ちこぼれか」

 魔法が解けて、生徒が地面に落ちた。

「大丈夫か?」

 ユウトはけ寄った。

「おい、落ちこぼれ、改題はもうわかったのか?」カイトは言った。

 ユウトは立ち尽くした。「まだだ」

「やっぱか。落ちこぼれには、この課題は難しすぎたな」

 カイトもMTBに選ばれた一人だった。

「お前は分かったのか?」

「ああ、俺には優秀な仲間がいるからな。あれ、お前にも仲間がいたのか。それなのに、仲間はろくでなしのようだな。まだ、分からないとは、あきれたものだ!」

 イワンと、ゾフがにやにや笑った。

「おい、そこの奴をやってしまってもいいか?」

 ゾフが前に出た。カイトは肩をすくめた。

「何をするつもりだ?」

 ゾフは言った。「俺たちがからかっていたそいつも、MTBに選ばれた選手の一人だ。とはいえ、何の力もない、ただの間抜けな生徒のようだった。気が弱く、魔法もろくに使えない。そう、お前たち同じろくでなしだな!」

 ゾフは、杖を構えた。ユウトは前に出た。

「やるなら、俺が相手だ」

「お前は、魔法が多少は使えたな?」

 二人は、睨み合った。だが、カイトが止めた。

「今は、やめておけ。人だかりが多い。これ以上、騒ぎを大きくすると、さすがに先生にしかられる恐れがある!」

 ゾフは、カイトの忠告に従った。

「せいぜい気を付けろよ」カイトは言った。「マジック・トライ・バトルは、魔法の使用が認められている。つまり、生徒同士で魔法の打ち合いが認めらえているということだ。気を付けないと、ひどい目にあうぞ!」

 カイトは背を向けた。そして、三人は立ち去った。ギャラリーたちは、この光景をカイトの宣戦布告だと思って、盛り上がった。

 遅れて、先生が駆けつけてきた。だが、そのときには、カイトたちは姿を消していた。

 ユウトは、一人自室へ戻ると、考えた。自分は、このMTBに参加すべき人間だったのか。今まで、仲間とともに何とか困難を乗り越えてきていたが、自分が優れた人間だと思ったことはない。なぜ、選ばれたのだろう。自分は、果たしてこれに参加すべき人間なのだろうか。

 時間だけが、あっという間に経過した。昼過ぎから、夕方になっていた。

 気づくと、夕闇の中に寝ころんでいた。

「ふふふふぅ!」

 ユウトは、目をパチクリさせた。「お前は!?」

「オイラ、ドリーマーだよ」

 ドリーマーはユウトのベッドの上で跳ねまわった。

「俺、お前を生み出した覚えはないぞ?」

「ううぅん? オイラも自分がなぜここにいるのか分からないよ。だけど、何となくひらめいたんだ。ユウトがピンチだって。そう考えていたら、現実に形を持って、現れていたんだ!」

 ユウトは驚いた。「つまり、自分ででてきちまったのか」

 ドリーマーはユウトが生み出した炎だった。以前、魔法の力でドリーマーを生み出したことがある。ドリーマーはしゃべれる魔法の炎だった。

「何か困っているのかい?」

 ユウトは事情を話した。「なるほど」

 ドリーマーは頷いた。「なら、調べ行こうよ」

「どこに?」

 ドリーマーはけらけら笑った。「カイトのもとへ向かうんだ」

「そんなの無理だよ」

「無理じゃないさ」ドリーマーは言った。「オイラはユウトから生まれた、想像の炎だよ。ユウトが望めば、どんなものにだって変身で出来るのさ」

 ドリーマーは、ユウトの肩に飛び移ると、ユウトと融合した。

 そして、その姿はゾフの姿だった。

「これで完璧!」

 ユウトは鏡を見た。その姿は悪魔族のゾフと見間違えた。

「俺、どうなっちまったんだ?」

 ドリーマーは笑った。「いま、オイラのユウトは融合ゆうごうしている。つまり、一心同体で、ゾフの姿に変わっている」

 ユウトは一回転して見せた。

「似合う似合う」ドリーマーは笑った。「変身は、三十分間だけだから、急がないといけないよ。いちおう言っておくと、おいらたち繋がっているから、いつでも会話はできるからね」

 ユウトは、ドリーマーにお礼を言うと、カイトのいる場所に向かった。

 カイトは、みんなが休憩できるソファーのある部屋にいた。

「おう。ゾフじゃないか」

 ユウトは肩をすくめた。「ちょっと勉強していた」

「お前が勉強!? めずらしいな……」

「ちょっと気にあることがあってね」

 カイトは、通りかかった生徒に魔法を使って転ばせた。転んだ男子生徒は、カイトだと気づくと、何も言わず走り去った。

「ふん。落ちこぼれが」

「酷いだろ」ユウトはゾフの声をまねた。

「そうか。俺の前をぼやぼや歩くからだろ」カイトは言った。「それより、俺に口答えか? お前も偉くなったものだな」

「俺たち友達だろ? だから、ちょっと言っただけさ」

「今日のおまえは、おかしいな? 頭でも打ったのか。さっきから、勉強したり、俺に文句を言ったりして」

 ゾフに化けているユウトは言った。

「イライラしているからさ」

「何が?」

 ユウトは言った。「あのユウトのことさ」

「ああ、あいつか! とくに才能があるという訳でもないのに、大きな顔しやがって。俺が、最初に出会ったとき、友達に誘ってやったのに、無視しやがた」

「まだ、腹をたてているの?」

「そんな訳ないだろ」カイトは言った。「それより、あいつらまだ課題の内容を理解してないようだったな」

 ユウトは言った。「君は分かったの?」

「当たり前だろ」カイトは書物を取り出した。「これに書いてあった」

 ユウトは書物を見た。カナミたちと図書室で見た書物より、だいぶ小ぶりのものだった。一体、あの本に何が書かれているのだろう。

「何が書かれていたの?」

 カイトは肩をすくめた。「ここには、課題を見つける方法が記されていた。見つけたの偶然だったが、よく書かれれていたよ」

「どうすればいいの?」

「これによれば」

 イワンがやって来た。

「腹、いっぱいだ!」

 イワンは自分の腹をなでた。

「この大ぐらいが!」

 イワンは大きく笑った。「お腹がいたから、食事係に命じてオヤツを作らせてやった。おかげで、腹が出っ張るまで食べさせられたよ」

「この、食いしん坊が」

 イワンは笑った。

「それより、何の話し?」

「ああ」カイトは言った。「MTBの課題についてだよ。ゾフが課題についてい知りたいようだったから、教えてやろうと思って」

 イワンは首を傾げた。「そう言えば、ゾフはどうしてここにいるんだ? さっき廊下ですれ違ったとき、補修の授業があるから、今は忙しいと言っていたじゃないか?」

 ユウトはゾフの姿で言った。

「ああ、補修ならさっき終わったよ」

「それで、勉強したと言ったのか」カイトは納得した。

 イワンは肩をすくめた。

 ユウトは言った。「それで、どうやって課題を見つけるの?」

 カイトは肩をすくめた。「簡単さ。魔法で、課題の在りかを探すのさ。以前、魔法の授業で習ったことがある。『ロスト・マジック』を使うのさ」

 ユウトは手を打った。以前、グラーン先生の授業で習ったことがある。無くなったものや、探し物する際、ロスト・マジックを使って、探し物をするそうだ。確か、「どこ行った、なくなった、消えたものを現れよ!」

 と、そう言って、無くなってしまったものを探したことがあった。

「それで、探せるの?」ユウトは言った。

「ああ、間違いない。書物に書いてあった」

 ユウトは身体が妙に熱くなるのを感じた。

「おい、どうした!? お前、顔がとろけて生きているぞ」

 ユウトは顔をおさえた。魔法が解けかかっている。

 ユウトは走り出した。いい訳を並べた。そして、そのまま、自分の寮がある部屋の休憩室まで走った。どうにか、その場をごまかすことができてほっとした。

 それに、課題の入手方法をゲットできて、安心することができた。

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