第29話 授業を真面目に受ける!


「ああ、楽しかったな」

 ユウトは夢見がちに談話室のソファーに座った。

「最近何だかいます」

 カナミだった。カナミは、ユウトの幼馴染で、お嬢様の家庭に育っていた。

「何だよ。俺は真面目に授業けてるだけだ」

「授業は受けています。でも、いつもユリウスと、ガンプと一緒になって、悪さばかり考えています。今日の授業だって、先生の授業を聞いていたですか?」

「勿論」

 カナミは首をふった。「では、オドリード草をせんじて飲むと?」

「……」

「では、マーブル草と、黄金おうごん石の粉末をを混ぜ合わせるとどうなりますか?」

「うう」

「やっぱりです。先生の話ぜんぜん聞いていなかったです」

「悪かったよ。だけど、その話はたまたま聞いていなかっただけで」

 カナミはぴしゃりと言った。

「いい訳はしないで欲しいです。もう一度聞きますけど、本当にまじめに授業を受けていたんですか?」

 ユウトは肩を落とした。「悪かったよ。ぜんぜん聞いていなかった」

「ユウトさん」カナミは言った。「わたしたちの目的は、この未知の世界を旅することだったはずです! その為に、ここに立ち寄って勉強しているんです! もし、世界を旅する気が無くなったら言ってください。そしたら、わたしはチームから脱退して、自分の道を行きます!」

 ユウトは頷いた。それから、一気に部屋を飛び出した。

 向かった先は、グラーン先生のもとだった。

 グラーン先生は、厳格で厳しい先生だった。数日前に、マービン先生に悪戯をした際、こっぴどく叱られた先生でもあった。

「今日はどうしたんですか?」

 グラーン先生は背筋を伸ばして言った。見た目は、八十歳ぐらい。つややかな刺繍ししゅうの入ったローブに身を包んでいる。

「俺、勉強してぇんだ」

「あら、まずらしいことですね。あなたは、才能も有り、活発で、勇気もあります。ですが、その才能を無駄遣いしていると思っていました。でも、突然勉強をしたくなったのはなぜですか?」

 ユウトは、事情を語った。

「なるほど。その友達が自分から離れてしまうのが怖いのですね」

 ユウトはそっぽを向いた。「べつに、そいう訳じゃ」

「ええ」グラーン先生は言った。「あなたは、その友達のことを大切に思っている。私にはちゃんとわかりましたよ。いいでしょう。あなたを含め、仲間たちはいずれこの学園を飛び出して、この大きな世界を見に行くのです」

 ユウトは頷いた。

「では、みっちりと勉強しなければなりませんね。今までのように、何となく興味がる教科だけをとっているだけではダメです」

「そうなのか?」

「そうです」グラーン先生は頷いた。「あらゆる知識が必要になります。魔法学。魔法実践じっせん学。調合薬。修理学。応用学。そして、音楽と、占い学も必要になるでしょう」

「そ、そんなにたくさんは無理だ」

「無理じゃありません」グラーン先生は言った。「この中のどれが欠けてもダメです。魔法学、魔法実践学は、魔法という根本的なものを学び、それからを実際に魔法という形で、現わしてみる科目です。冒険では、魔法を必須です。調合薬は、未開の地などで怪我などした際など、重宝するでしょう。今のうちに、みっちり勉強しておかなければなりません」

 ユウトは頷いた。「じゃあ、先生が俺に必要だと思う科目を、全部選んでくれ!」

「いいですよ。でも、私は妥協だきょうしませんよ」

 選ばれたのは、全部でニ十個だった。今まで、比べ物にならない数だった。

「俺、死ぬかも」

 ユウトは、まず初めに魔法実践じっせん学に参加した。

「そうではありません」

 ユウトうでをふった。

「こうするのです!」

 スピア先生は、腕を振ると、炎の鳥が教室を一周して消えた。

「これが魔法です。魔法の基本は、想像すること。呪文や、杖を使ったやり方もありますが、まずは自分の頭の中で思い描き、それを実現化させることが第一歩とにあるんです」

 授業が終わると、次の授業に向かった。

「おお、あなたの未来は大きな障害が立ちふさがっているでしょう」

 ウーハ先生はひきつった笑みを浮かべた。

「障害?」ユウトは首をひねった。

「そうです。あなたは、かげが取り付いています。やがて、あなたに命なき者が迫り、あなたに、こう告げるでしょう。「私の願いを聞いてくれ」。あなたは、決断にせまられる。願いを聞き入れれば、大切なものを一つ失い、願いを聞き入れなければ、大きな災いが降り注ぐであろーう!」

 ユウトはすべての授業を終えると、中庭に倒れ込んだ。

「大丈夫ですか」サーシャだった。

 サーシャは空中を一回転すると、ユウトの胸の上に座った。

「ああ、サーシャか」

「ずいぶん疲れているようですね」

 ユウトは頷いた。「幾つも授業を受けたからな」

「ユウトさんは、授業に向いていませね」

 ユウトは頷いた。「だな、おれ頑張りすぎているかも」

「あまり無茶はしないで下さいね」

「そう言えば」ユウトふと思った。「そう言えば、カナミは勉強が得意だったな」

「私が見た限り、まじめに勉強していましたよ」

「サーシャはいいな。妖精のお姫様で、教養もあるし。でも、……ちょっとだけ、我儘わがままだったなww」

 サーシャはにらみつけた。「それ以上う言ったら、なぐりますよ」

「悪かったよ」ユウトは笑った。

「ちょっとは、元気出たみたいですね」サーシャは言った。「ちょっと休んだら、お昼ご飯にするといいですよ。午後は、授業がないみたいだから、早めのランチを取って、ゆっくりするのがお勧めですよ」

 ユウトは礼を言って起き上がった。




 ユウトは、昼食をとってから、自室に戻った。

 それから、魔法の地図を取り出した。そこには、まだ空白だらけの地図があった。地図は、とある商店の店主からゆずり受けたものだった。あのときは、まだ息巻いて無理をしていた。

 店主と壮絶なけの末に手に入れたものだった。

 ユウトは、地図を眺めながら、まだ空白の部分がどうなっているのか気になっていた。

 きりに先に何があるのか。どのような世界が広がっているのか、今でも地図を見ているとワクワクする。

 早く、地図を埋めるように探索してみたかった。

 だが、いまは勉強に集中しないといけなかった。

 ユウトは、羊皮紙に、自分の目標を書いた。目標は、未開の地を全て調べくすことだった。それは、一人ではなく、と一緒だった。

 ユウトは、つえを持って中庭の奥にある、森の中に向かた。

 そこで、魔法の練習をした。今日、受けた授業で、魔法は想像そうぞうから生まれる事を学んだ。つまり、想像できれば、どのような魔法でも扱えることになる。

 ユウトは、杖を振った。

 杖を使うのは、初めて扱う魔法にはちょうどいい。

 一時間ほど魔法の特訓をした。

 それから、自分のりょうに戻って、友達との雑談に加わった。。




 翌日。

「今日の授業は、魔法の実戦練習です」

 スピア先生は言った。

「では、こんなことが起こったらどうしますか?」

 先生は、教室を真っ暗闇の洞窟どうくつにした。生徒たちは、驚いた。突然、広かった教室が真っ暗闇に包まれたのだから。

 生徒たちは、戸惑って辺りを見渡した。

「何も見えません」

あせらないで」先生は言った。「魔法というものは、知識だけを詰め込んでおけばいいという訳で張りません。知識を吸収したのちに、いざというときに魔法を使用できるように、魔法を使うんですよ」

 カナミは魔法を唱えた。「光れ、ライトニングボール!」

 次の瞬間、空中に光発する玉が打ち上げられた。

 それは、辺りを明るく照らして、照明弾しょうめいだんのように輝いた。

「うわぁ」

 生徒たちは、感嘆の声を上げた。何だか幻想的に見えた。

「いちおう言っておきますけど、魔法はどんどん使って大丈夫ですよ。わたしが魔法で安全な空間にしてありますから、魔法が跳ね返ってくるということはりません。怪我をすることもないでしょう。楽しんで授業に参加して下さい」

 生徒たちはそのまま立ち尽くした。教室の先には、洞窟の闇が広がった。

「これどうするんだ?」

 一人の生徒が言った。

「先へ進むんだ」ユウトは言った。

「でも、そんなこと指示されていない」

 いつの間にか、先生の姿が見えなくなっている。

「俺は、いつもそうだった。実践で、誰かが指示してくれることはない。自分で考え、自分で行動するのが実践なんだ!」

「でも、先生は……」

 ユウトは先頭を切って歩き出した。すると、すぐに一人の生徒が、倒れた。その生徒は、足を押さえて倒れ込んでいる。

「どうした?」

 ユウトは、魔法で光の玉を生み出した。授業の成果だった。

 少女の脚を見ると、れあがっている。暗闇の先を見ると、何かの生き物が素早く、どこかに走り去った。

 虫にされたようだった。

「誰か、治療の魔法を使えるものは?」

「いないです」カナミは言った。「魔法で治療するのは、高度な魔法です。それに、どのような怪我を負ったのか分かません。毒なのか、それとマヒや、神経毒の一種なのか、何もわかっていません」

 たまたまその場にいたサーシャが飛んできた。

「この近くに、薬草が生息しています」

「それは役に立つのか?」ユウトは尋ねた。

「その草には、一定の解毒作用ようがあります。本来は、調合して、飲ませるのが効果的なんですが、魔法で調合すれば、解毒薬が作れるかもしれません」

 調合魔法とは、何かと何かを掛け合わる魔法だった。

 生徒は、すぐにその葉を採取しに向かた。それから、すぐに調合に詳しい生徒が集まって、数人で魔法の調合を行った。

 すると、薬が出来上がった。

 それは、り薬となった。少女にそれをぬると、効果は抜群だった。

 すぐにれが引き、少女は回復した。

「やったぞ」

「ありがとう」少女はお礼を言った。

「あなたたちのおかげで、助かったわ。本当にありがとう」

 生徒たちは、手を取り合って喜んだ。

「俺たちやったぞ」

「俺たちなら、やれると信じていた!」

「私だって、協力しました」

 ユウトは言った。「みんなの力だ」

 生徒は互いにたたえ合った。

 それから、生徒たちはダンジョンの奥に向かって、歩き出した。

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