第28話 いたずら


 翌日。

 朝起きると、学校のローブに着替えた。

「どうだ、これ?」ユウトは一回転した。

「とても似合っています。帽子のついたローブですか、とっても素敵です」

 ユウトは着替えをすませると、食堂に向かった。

 食堂では、すでに食事をする生徒がいた。

「おはよう」

 ユリウスだった。最初に出来た友達だった。

 ユウトは、木目のプレートに朝食をとって椅子に座った。

「昨日は眠れかい?」

「ああ、よく眠れた」

「それはよかった。ぼくは、ここにやって来た時は、しばらくの間寝付けなかったから」

「俺はぐっすりだった。ベッドは寝やすいし、同じ部屋の友達とも気が合うからな」

 ユリウスはゆで卵を頬張った。「今日は、どんな講義に参加するの? ぼくは、魔法特訓学、魔法呪文学、それに調合薬に出ようと思っている」

「一体何種類の授業があるんだ?」

「ここには、何十人もの先生がいる。世界中から先生が集まってくるのさ。それと同じくらい生徒もいるんだ。ここは、学びの中心で、学びたい生徒と、教えたい先生が世界中から集まってくる場所なんだ」

「いい場所だな。俺はここが好きだ」

「ぼくもだよ」

 食事が終わると、ユリウスと同じ授業に出席した。とても興味深かった。どの授業も、実践的な魔法のあつかい方を学べたので、これから役に立ちそうだった。

 授業が終わると、あっという間に昼休みになった。生徒たちは、食堂に向かたり、小休憩をしようと、中庭に向かった。

 ユウトは食堂でパンをもらうと、ハンカチの中に幾つか詰め込んだ。そして、授業で知り合った仲間たちと、見晴らしいい丘の上に向かった。

「おお、ここは絶景だな」

 ユウトの眼前には、自然が広がっていた。ここは、地上から離れた上空だったが、魔法で地上のように大地がアリ、緑が広がっていた。

 だから、眼前には山が広がり、渓谷があり、湖が広がっていた。

 ユウトは知り合った仲間たちと、小高に丘の上でハンカチを広げて、パンを食べた。

「うめぇ」

 ユリウスは笑った。「それただのパンだよ」

「みんなと食べると、とくにうまい」

 新たに知り合ったガンプは言った。

「これも食えよ」

 ユウトは、ソーセージを受け取った。パンにはさんで食べるともっと、おいしかった。

「ユウトはまだまだだな」

「何が?」

「食事の食べ方だよ。食堂以外でパンを食べるときは、パンにはさむものも持ってくるんだ。パンに、ソーセージに、野菜や、卵。それをパンに詰め込んで食べるのが、ガンプ流だ」

 ユウトはガンプのパンを見た。そこには、たくさんの野菜や、肉類が詰め込まれていた。

 ユリウスは笑った。「それ詰め込み過ぎじゃない?」

「そんな事ねぇよ。これくらい詰め込むのがおいしいんだろ」

 ユウトは頷いた「つぎは、俺も詰め込めるだけ詰め込むぞ」

 ガンプは笑った。「午後はどうする? 真面目に授業を受けてもいいし、ちょっと悪さをしてもいいと俺は思っている!」

 ユウトは耳をそばだてた。

「悪さ!? いけない香りがするな」

 ガンプは笑った。「ユウトは、俺と同じ悪の香りがするな」

 二人は見つめ合ってにやついた。

「だ、ダメだよ。授業サボるなんて」

 ガンプは楽しそうに笑った。「教師でマービンという先生がいる。そいつが悪い先生でさ。いつも、生徒に体罰するんだ」

 ユウトは耳を疑った。「体罰!? そんないけないことする先生がいるのか」

「勿論、手加減はしているさ。でも、先週、マービンに捕まって手ひどいお仕置きを受けたら生徒がいるらしい。聞いた話によれば、深夜に呼びだされて、むち打ちの刑に処されたらしい」

「俺ならあわてて逃げ出すぞ」

 ガンプは頷いた。「勿論、俺なら戦ったよ。だけど、話しはそこじゃない。他の生徒は、僕たちのように反抗的じゃない。マービンはある意味、生徒の敵だ。だから、今度は俺たちが、そのマービンにお仕置きしてやろうよ?」

 ユウトは頷いた。「お仕置きだ!」

 ユリウスは反対した。「そんなの駄目だよ。先生に逆らうなんて。それに、勝てっこないよ。だって、相手は先生だよ」

「だからこそだ」ガンプは言った。「うわさによると、マービンには弱点があるらしい。マービンの部屋には、その弱点が隠されているらしい」

「なんだよ、それ」ユウトは聞いた。

「それは分からない。だからこそ、部屋に忍び込んで、マービンの秘密を暴いてやろうと思って」

 二人は頷き合った。

 だが、ユリウスだけは、最後まで反対していた。




 夕方。

「準備は良いか?」

 ガンプは言った。

「僕は嫌だって言ったのに」

 ユリウスは悲鳴に近い声を上げた。

「心配するな」ユウトは悪い笑みを浮かべた。

「二人ともどうかしているよ」

「俺たち、悪になった。それは、ガンプのせいだ」

 ガンプは言った。「おいおいユウト、お前は始めから悪だったぜ」

「わたしはいつだってマジメです」

 ユウトは、優等生のカナミの真似をした。

 ここに来る前、ガンプと二人で悪だくみの話しをしたいたら、カナミに見つかってお説教を受けたことがあった。

「あいつ、いい奴だけど、基本的にマジメだからなぁ」

「カナミか」ガンプは夢見るように言った。「あの子、可愛いよな。知的で、物知りで、それでいて可憐かれんだ!」

「お前、好きなの?」

「そうじゃないよ」ガンプは言った。「ただ、女子の中で可愛いっていう意味さ」

 ユリウスは頷いた。「確かにカナミは人気あるよ。同じりょうの者たちの中でも、評判さ。知的で、優しいって」

「そうか。俺は知らなかった。あいつとは、幼馴染だから、ずっと昔からいた」

「それ、うらやましいよ」ガンプは言った。「俺なら、告白しているかもな」

 ユリウスは言った。「やっぱり引き返そうよ」

「何を今さら」ガンプは言った。

「お、マービンが通り過ぎた。あいつは、夕方になると、夜回りをするんだ。自分は、植物の研究員のくせに、自主的に悪い生徒がいないか見回って、見つけると他の先生につき出すんだ。そして、あわよくば、自分でばつをあたえるんだ」

「悪い先生にはお仕置きが必要だ!」

 三人は、マービンが見回りしている隙に、マービンの部屋に前にやって来た。

「ここがマービンの部屋だ」

 西館のすみにあった。

「部屋に入ったら、素早く秘密を探り、さっさと部屋から出るぞ。もし、マービンが部屋に戻って来たときに、俺たちが部屋に居たら、現行犯で捕まるぞ」

 ユリウスが言った。「もし、捕まったら?」

「そしたら、はりつけの刑にされるか、むち打ちの刑にしょされるだろうな」

 ユウトは身体を震わせた。「痛いのは嫌いだ」

「そうならないように、素早く実行しないとな」

 三人は、マービンが歩いていくのを確認すると、部屋に入った。

 部屋には机と、棚が置かれており、それ以外にはベッドが置かれている。調べる場所はそれほど多くなさそうなので、簡単そうだった。

 ユウトは、引き出しを開けようとした。だが、カギがかかっていて開かない。

「予想外だ」ガンプが言った。

 ユウトは力任せに開けようとした。「開かない」

「力任せじゃダメだよ」ユリウスは言った。「こういう時魔法がうまい生徒がいればなぁ」

「魔法か、カナミだったら簡単だったかもな」

 ガンプは胸を張った。「俺は、鍵開けの魔法を知っているぞ」

「やってみて」

 ガンプは呪文を唱えた。「開け、あけーる、ガッチャンコ!」

 カチ、机のかぎが外れた。

「おお、やったぞ」

 三人は手を取り合って喜んだ。

 机の、引き出しをゆっくり開けた。中には、書類の束が入っていただけだった。とくに、マービンの秘密ではなかった。

 三人な肩を落とした。

「くじけるな、まだ引き出しは二つある!」

 ユウトは頷いた。

 それから、ユウトは、ガンプに魔法を教えてもらい、鍵開けの魔法をとなえた。

「開け、あけーる、ガッチャンコ!」

 扉が開いた。

 二番目の引き出しも外れだった。

 そして、残るは三番目の引き出しだけだった。

 ユウトは、もう一度、教えてもらった呪文を唱えた。すると、三番目の引き出しの中から、日記帳が出てきた。

 三人は、マービンの日記帳を読んだ。日記には、マービンの日々の日記が記されていた。『今日は、校内で悪さをしていた生徒をこららしめてやった。まったく、ここは、学ぶための学校であるのに、どうして魔法使って、悪さばかりする生徒がいるのだろう』

 別の日付の日。

『わたしは、実にくやしい。なぜ、わたしは、魔法が下手なのか。先日、生徒に魔法を使ってくれと、せがまれた。だが、わたしは、魔法が苦手だ。基本的な魔法はどうにか使える。だが、ちょっと複雑な魔法となうと、お手上げだ。この世界には、初級、中級、上級と、魔法がある。私が使えるのは、せいぜい初級の簡単な魔法までだ。中級となると難しい。まあ、中級まで使えなくても、ここでは初級だけで十分なのだが……。この世界は、魔法がおおっている。その魔法は、信じる力が強いものが、強い魔法力を有している。私には、信じる力が足りないというのだろうか……。』

「これだ」ユウトは叫んだ。

 ユリウスは頷いた。「マービンの秘密は、魔法がへたくそなんだ」

 ユウトは笑った。「これは特ダネだ」

 ガンプは鼻で笑った。「何かあったら、魔法で仕返ししてやれるな。でも、まさか、先生のくせに魔法が苦手だとは思わなかったな」

 ガチャリ。

 三人はぎょっとした。マービンが帰ってきたのだ。

 三人は、急いで棚の中に逃げ込んだ。それから、息を止めた。

 マービンは、部屋に異変がないか、調べて回った。引き出しが開いていないか。何者かの侵入の形跡がないか。

 突然、棚が開いて、三人は見つかった。

「貴様たち!」

 三人は、一目散に逃げ出した。だが、マービンも黙ってはいなかった。

 マービンは、悪がきを追いかけた。

 ガンプは、魔法を使った。「とけーる、ぬまーる、ぬまよ現れよ!」

 廊下一面、沼が広がった。

「やったぞ」

 ユウトは後ろ振り返った。背後でマービンが悔しそうに舌打ちしていた。

「追って来れない!」

「魔法が使えないからだ」ユリウスは言った。

「俺たちやったんだ」

「その魔法、あとで教えて」

 ユリウスは笑った。「簡単だよ。呪文は関係ないんだ。頭の中に沼を思い浮かべて、それを魔法に込めるんだ」

 三人は一しきり笑いあってから、その場を後にした。。




「ユウト、なんて悪餓鬼がきです!」

 カナミはほほを膨らませた。

「先生にあんないたずらするなんて」

 ユウトは、うつむいた。「ちょっとやりすぎたかもしれない」

「そうよ。先生の弱点を見つけて、それを愚弄ぐろうするなんて、そんなの人として最悪の行為です」

 そこは、グラーン先生が現れた。

「ちょっといいですか?」

 ユウトは顔を上げた。「俺ですか」

「そうです。あなたは今日自分たちが何をしたか分かっているのですか?」

「何となく」

「では、わたしについていらっしゃい。これから、罰を与えます。ここは、学び舎で、本来そのようなことはしないのですが、今回は特例です。とても、悪い行いをしたのですよ」

 カナミは肩をすくめただけだった。

 ユウトはグラーン先生について行くと、そこにはガンプと、ユリウスと、それにマービン先生がいた。

 まずい予感が的中した。これは最悪だ。

「まず、自分たちが何をしたのか分かっていますね?」

 ユウトは頷いた。

「では、三人には、罰を与えます。罰をあたえるのはマービン先生です」

 マービンはにやりと笑った。

「お前たち、今日は簡単には返してやらないから、覚悟しておけよ」

 それから、三人には罰が与えられた。罪状は、侮辱ぶじょく罪。そして、与えられた罰は、深夜の夜回りだった。

 三人は逃げれなかった……。

「よし、移動だ」

 三人は、夕方過ぎの廊下にたたずんだ。学校は広いた。夕方過ぎ、生徒は外出を禁止されている。というも、学校は広く、立ち入り禁止のエリアがるから。そこには、危険が存在し、死が存在するからだった。

「ここだ。これから三人には、夕方の学校の見回りしてもらう。いいか。怖いか? いちおう言っておくが、決められたルートを回るように。さもないと、本当に迷って、戻って来られなくなるからな!」

 ユウトは手を上げた。

「なんだ?」

「戻ってきたら、罰は終わり?」

「ああ、そうだ。だが、戻って来られるかな」

 マーフィンは意地悪く笑った。

「では、奥の通路を回るようにして、校内を出回っている生徒はいないか見てきてくれ。もし、発見したら、一緒に連れてくるように!」

 三人は歩き出した。

「ああ、最悪だ」ガンプが言った。

「仕方ないよ」ユリウスは言った。「ぼくたち、悪さをしたんだもの」

「だけど、マーファンの秘密を知ったのは面白かったな。あいつの怒る狂った顔が目に浮かぶぜ」

 ユウトは笑った。「お前悪い奴だな」

「なに。本当に秘密をばらしたりしないさ」

「ばらす?」

「ああ、そうさ」ガンプは言った。「俺たち、すごい秘密を握ったんだぜ。この秘密を学校中にばらまくことだってできる。だけど、それはしないって事さ」

「なぜ?」

「それは、完全な悪だろ。あくまで、俺たちがやるのは悪戯いたずらだ。悪戯を越えたら、それは本当のつみになっちまう」

「ああ、俺たちがやるのは悪戯いたずらだけだ」

 ガンプは笑った。「でもこれで、しばらくマーフィンは俺たちにあまたが上がらないだろうな」

 ユウトはうんうん頷いた。

「それにしても、気味の悪い廊下だな」

 三人は通路を見た。夕暮れにともなって、廊下が薄闇色うすやみいろだった。

「これで迷ったら、本当にまずいだろうな」

「なんたって、ここには本当に死が存在するから!」

 三人は、しばらく歩くと、道に迷った。というのも、魔法の通路は動いており、気分が変わると、道を変えてしまう。

「大変なことになった」

 ユリウスは持っていた地図を眺めた。「これもう、使えなくなっちゃったよ」

 それから三人は、通路を彷徨った。だが、出口は見つからなかった。

「どうしよう」

 ユウト一歩前に出た。「心配いらねぇ」

「本当か?」ガンプは言った。

「ああ、俺は前にもここを探検したことがある」

「なら、お前が先頭を行ってくれ」

 ユウトは歩き出した。しかし、いくら歩いても道は曲がりくねって、出口にはたどり着かなかった。

「ダメだ。通路が意地悪しているみてぇだ」

「困ったな。本当に戻れなくなったら、困るぞ」

 ユリウスは言った。「最悪、明日までここにで野宿かもしれないな」

「そんなの困る」ユウトは首をふった。「俺は、何としても今日中にここからりょうに戻って、温かいベッドで眠りてぇ」

「でも、どうする?」ガンプは言った。

「やっぱり歩くしかねぇ」

 ユウトを先頭に歩き出した。すると、奥にあった部屋に水のき出る部屋がった。三人はその部屋で休憩した。

 ユウトはのどが渇いたので、水を飲もうとした。

「おい、それマズくないか?」ガンプが言った。

「そうか?」

「ああ、魔法の水かもしれない。もし、魔法の水を飲んだら、どんな影響があるか分からないぞ」

 ユウトは手に水をとった。「でも、俺はのどがからからだ」

 水を飲んだ。すると、不思議なことが起こった。

 ユウトの身体が、動物に変化した。羽が生えた。やがて、つめが怪鳥ように鋭くなり、視力がよくなって暗闇でも見通せるようになった。

「これはすごい!」

 三人は、部屋から飛び立って、外を飛び回った。地上から、上昇して、空高く上ると、急降下した。

 地面すれすれを通って、風になって大地の草木を揺らした。

 三人は、大きな木の上に登って、三人で話しをした。自分の将来のこと。今、興味のある事。好きな女の子のことなど。

 とにかく、夜通しおしゃべりして、夜の散歩を楽しんだ。

 朝方になって、寮の窓から部屋に戻った。

 体はそのうち戻った。




 すごい体験をした。

 三人は大満足だった。

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