第27話 魔法学校・最初の授業


 最初の授業はレビオーニ先生だった。

 先生は、教室にやってくると、まだおじゃべりしている生徒を魔法でからだの向きを変えてしまった。そして、魔法で教科書を配ると、教団の前に立った。

「まだ、お喋りしていたい人はいますか?」

 いたずらっ子の生徒が、鳥のく真似をした。

 先生はすかさず指を鳴らすと、鳥の姿変えた。鳥になった生徒は、机のうえを左右に動き回った。

「おや、お似合いですね。他に、まだお喋りしていたい生徒はいますか? いませんね。私の授業では、私語は許しませんよ。ここは学びたい生徒だけが集まる場所です。学びたくないものは、どうぞ自由にこの教室から出て行って下さい」

 先生は生徒をもとの姿に戻した。

「では、授業を始めます」

 レビオーニ先生は、防衛の呪文について説明した。

「防衛の呪文は大切です。なぜですか?」

 ユウトは初めての授業で、先生に指名された。

「あの……身を守れねぇと、死んでしまうからだ」

 クラスの生徒たちが目を見開いた。

「いい答えですね」レビオーニ先生は頷いた。「ここにいる生徒の多くは、まだ外の世界を知りませんね。では、自己紹介しましょう。ユウト、カナミ、サーシャ、カマーンです。彼らは、外の世界から来ました。船に乗って、冒険してきたのです」

 クラスから称賛しょうさんの声があった。

 ここにいる生徒たちは、あまり外の世界の事は知らないらしかった。

「そうです」先生は言った。「外の世界は、危険がいっぱいです。捕食者ほしょくしゃや、危険な魔物がいて、いつも私たちの命をねらっているのです。そのとき、自分の身を守れる術がなければ、すぐに食べられてしまうのです。だから、この魔法を教えようと思います。『ペデュグラム』。はい、言ってみて」

 生徒たちは、先生に言われたように発音した。

「はい。いいですね。では、つぎに、呪文を唱えてみます」

 先生は、指を軽く一回転させると、指先から緑色の閃光せんこうが飛び出した。それは、壁に衝突すると、立ち消えた。

「はい。こんな感じです」

 それから、生徒は呪文を唱えながら練習した。

「いいですね。すごく良い」

 生徒たちは、教室の広い部分にやって来た。

「何をするんですか?」一人の生徒が言尋ねた。

「いい質問ですね」先生は得意げに笑った。「これから、ここで実践じっせん訓練をします」

 生徒たちの間でどよめきが起こった。

「本気かよ。実際に生徒同士で魔法をためすなんて」

 先生は手を打ち鳴らした。「実際にあたっても、死ぬわけではありません」

「でも、先生」聡明そうめいな女子生徒が言った。「もし、顔に当たったりしても、危険は無いのですか? もしかしたら気絶した拍子ひょうしに、頭をぶつけてしまうかも知れません」

 先生は魔法で自分をドラゴンに変身させた。

「外の世界では、本当に命のやり取りをするのですよ? ここで一生いっしょう勉強だけしていというのなら別ですが。ここには本当に多くの生徒がいます。実際、表の世界に実際出て行こうとする者もいるでしょう。そう言った者には、実践訓練が必要です。勉強だけしているという生徒にも、ここで一度、実践じっせん訓練をしてみるべきです! それについて、多少の怪我も勉強にあるでしょう」

 女子生徒はなおも食い下がろうとした。

 だが、先生は口元から炎を放出すると、その女子生徒の髪をチリチリにがした。

「あなたは死にましたよ! これが実践です」

 生徒たちは笑いながら、拍手喝采はくしゅかっさいした。

「ですが、もし私が、もし私がですよ。炎を吐くまえに、失神の呪文が使えたら、助かっていたかもしれませんね。いちおう言っておきますけど、もしこれが本物の炎なら、かみを焼かれただけではすみまよ。あなたは、骨まで残らなかったでしょう」

 生徒たちは、互いにペアになると、生徒同士で魔法をかけあった。

 どの生徒も、うまくはいなかった。

 うでを振るだけで、魔法は発動しなかった。そんな中、カナミだけは違った。彼女は、何度か練習すると、その魔法をあつかえるようになった。

「うわ。凄い!」

 クラスの生徒たちから称賛しょうさんの声があった。

「どうやったの?」

 カナミは恥ずかしそうにコツを教えた。

 ユウトも教えてもらってやったが、簡単には行かなかった。

 やがて、授業が終わった。生徒は次々教室から出た。学校では、百の授業があった。先生も生徒も、数が多かった。生徒は自分の好きな科目をとり、学びたくない生徒は参加せず、学びたいと思う生徒だけが授業に参加した。ここは、学びたいものだけが集まる場所だ。サボるも、学もすべてが自由で、強制はされなかった。

 生徒たちは思い思うの方向に向かった。

 カナミは、生徒たちに大変人気があった。

 生徒たちの半分ぐらい人間だった。だが、もう半分はほかの種族の者たちが、いた。

 生徒たちは思い思いの方向に向かって歩いて行く。

 カナミは、生徒たちに囲まれ、魔法についてあれこれ聞かれた。先ほど、カナミだけが、魔法を成功させたので、たくさんの生徒に囲まれている。

 カナミは、外からやって来たので、よけいに興味を持たれた。

 一方、ユウトや、サーシャ、カマーンも人だかりができていた。

 やっぱり、外から来た生徒からの話を聞きたがった。

「なあ、お前たち本当に外の世界から旅してきたの?」

 ユウトは頷いた。「俺は、霧の向こうからやって来たんだ」

「マジかよ」生徒は驚いた。「霧の向こうは、すべてきりに覆われていて、渡って来れないって聞いたことがあるよ」

 ユウトは、自分たちがやってのけた偉業を話した。

「船をもらったのか?」

「ああ。ゼロスから」

「自分で操縦できるの?」

「ああ、俺が船長で、仲間と一緒に旅してきた」

「そのゼロスって」

 ユウトは語った。「魔法王国の人間だ!」

 生徒たちは目を丸くした。

 偉業を話したせいか、生徒たちからより一層の称賛が集まった。




 昼休みになって。

「カーマンは?」

 カナミは答えた。「生徒たちに囲まれてどこかに行ってしまいました」

 ユウトは頷いた。「きっと、うれしかったんだろうな」

「そうですね。凄く嬉しそうでした」

 三人は食堂で食事をとった。食事が終わると、休憩室で休んだ。休憩室は、暖炉だんろと、ソファーと、イスやテーブル、本棚が幾つも置かれた休憩きゅうけいスペースになっていた。

「ここは素晴らしい場所だ」

 ユウトはソファーで寝転びながらリラックスした。

「快適です」

 サーシャはユウトの胸のうえで目を閉じた。

「午後は、どうしますか?」

「そうだな」ユウトは目を閉じながら考えた。「ここには、たくさんの種類の科目があるから、どれを学ぼうか考えようかな」

「わたしは、古代の魔法言語を学びたいです」

 サーシャは言った。

「私は、魔法調合学に興味があります」

 カナミは本棚から書物を一冊引き抜いて、膝の上に広げた。

「カナミは、読書好きだな」

「はい。私は小さい頃から、読書が趣味です」

 ユウトは悩んだ。「みんな、それぞれ好きな科目が違うみたいだな」

「ならこうしますか」カナミは言った。「科目は、それぞれ好きな科目を取っていくことにしませんか? あえて全員一緒より、ばらばらの方が楽しいです。あとで、一緒に教え合ったりできますから」

「それがいいかもしれない」ユウトは頷いた。「これからまた先に冒険に出たとき、それぞれが違った知識を持っていた方が便利だな」

「それがいいです」

 サーシャは飛び上がると、科目が記された羊皮紙をみた。

「おい!」

 ユウトが顔を上げると、そこに意地悪そうな眼付きの少年がいた。

「お前は?」

「俺は、カイトだ」

「何か、俺に用か」

 カイトはにやりと笑った。「お前ずいぶんと人気者のようだな?」

「たまたまだ」

「どうだ? 俺と友達にならないか」

 ユウトは迷った。悪い奴ではなさそうだが、性格は悪そうだ。

「あの」女子生徒がやってきて、ユウトに話しかけようとした。これを見たカイトは、連れ居ていた取り巻きの一人に命じた。

「こいつをどけろ」

 取り巻きの一人が、女子生徒を押し倒した。

 押し倒したのは、カイトの取り巻きの一人で、岩石がんせき族のイワンだった。

「何をする?」ユウトは女子生徒に手を差し伸べた。

「俺が話しているのに、邪魔するからだ」

 ユウトは首をふった。「君は、性格がよくねぇな」

「そうかな?」カイトは握手あくしゅを求めて、腕を差し出した。「ぼくと友達にならないか? なるなら、俺の手をにぎるといい。すぐに友達になれる。僕と友達となったあかつきには、たくさん仲間を紹介してやる。岩石族がんせきぞくのイワンや、悪魔族のゾフとも友達になれるぞ!」

「いらない」

 カイトは眉間みけんにしわを寄せた。「後悔するぞ」

「俺は、悪いやつとは友達にならない」

「いいのか? 俺が誘ってやれるのは、この一回だけだぞ」

「いいとも」

 カイトは背を向けて立ち去った。去り際、「いつか後悔させてやる!」

 そう言い残して立ち去って行った。

 ユウトは、倒れた女子性を心配した。

「大丈夫か?」

 女子生徒は恥ずかしそうに頷くと、走り去った。

「ユウトさんは、本当に優しいです」

 カナミは言った。なぜか、その表情はそっけなかった。

「どうした?」

「ユウトさんは、すべての女の子に優しすぎるです」

 サーシャは肩をすくめて、科目が記された羊皮紙を持って飛び去った。

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