第26話 魔法学校と、秘密の図書館!


 ユウトと仲間たちはりょうを与えられ、自分の部屋を手に入れた。

 船は、船着き場で待機している。

 カナミは心配事で頭を抱えている。「ああ、わたしたち一体どのくらいの間、この学校にお世話になるですか? お金は? 必要な教科書はどうするですか?」

 カーマンは呑気のんきに回っている。

 サーシャはユウトのポケットで昼寝中。

 ユウトは、自分の住むりょうを確認すると、魔法学校の探検たんけんに出かけた。

「おお、すげぇな」

 そこにはたくさんの生徒たちがいた。生徒の多くは人ではなく、ほかの種族たちだった。みんな、黒いすすけたローブに身を包んでいる。

「おお、お前、ここの学校の生徒か?」

「見ない顔の生徒だね? もしかして転入生?」

 ユウトは事情を説明した。

「なら、いろいろ見て回ることだよ。ここにはたくさんの種類の種族の者たちが通っているし、学校内はとにかくヘンテコなんだ」

「お前は、ここ長いのか?」

 生徒は頷いた。「ぼくは七年前からここにいるよ」

「長いな」

「ここは、自分が学びたいと思うだけいていいから、最長齢さいこうれいの奴なんて、二十年はここに在籍ざいせきしているよ」

「そんなにいたら、じいさんになっちまう!」

 生徒は笑った。「ところがどっこい! そいつは樹木じゅもく族だから、長生きなんだ。そいつらの年齢からしたら、昼寝していたようなものさ」

 ユウトは一しきり会話してから、立ち去った。

 やって来たのは、ネコの肉球のような模様の扉の前だった。

 そこには肉球型のとびらがあった。ユウトは立ち止まったままとびらを見つめた。

「なんだ、お前!? 新入りか?」

 エプロン姿のネコネコ族がとびらから現れた。

「俺は新入生だ」

「だったら、今忙しい! ちょっと、エプロンをして手伝え」

 ユウトは、数十分ほどネコネコ族の部屋で料理を手伝った。部屋にはキッチンがあり、ものすごい量の料理を作っていた。

 ユウトは、言われるままに手伝った。料理は楽しかった。

 ネコネコ族は、料理の名人で、豪華な肉料理から、お菓子まで何でも作った。

 ユウトは、そのうち放り出されてしまった。

 どうやら、料理の才能はなかったようだ。

「追い出すことねぇだろ」

「残念だけど、手伝ってもらえない。お前には、つまみ食いばかりして、料理の才能ないね。悪い奴じゃなけど、ここからは出て行ってもらうにゃ」

 ユウトは厨房ちゅうぼうから出て、とぼとぼ廊下を歩いた。

「やあ、何かお困りか?」

 当然、壁に浮き上がった顔が話しかけた。

「お前誰だ?」

「わたし、かべ。ウォールと申します」

「何か用か?」ユウトは言った。

「何だか、落ち込んでいたようだったので」

 ユウトは事情を話した。

「そうですか。だったら、気晴らしなど如何いかがです?」

「楽しいのか?」

「はい。この学園には、秘密の抜け穴があります。そこには、普段は誰も近寄らない秘密の場所があるのです。とても、面白いですよ。でもたまに行ったものが帰ってこれなくなったりしますがね。きっと、気晴らしになります!」ウォールは笑った。

 ユウトは頷いた。「俺行ってみてぇ」

「なら、案内しますよ」

 ウォールは楽しげに笑った。

 その場所にたどり着くと、そこには人気のない通路がのびていた。ユウトは、その場に立ち尽くした。ウォールは壁にもぐって、姿を消した。

「おーい。勝手に置いてかないでくれよ」

 しばらく立ち尽くしたが、ウォールは戻ってこなかった。

 ユウトはしばらく立ち尽くした。

 そのうち、ポケットから、サーシャが顔を出した。

「何しているでんですか?」

「ここは、学校の秘密の抜け道だ」

「どこへ繋がっているんでしょう?」

「知らねぇ。ただ、面白場所らしい」

「どいう風に?」サーシャは顔をしかめた。「何だか、ものすごーく怪しいです」

 ユウトは肩をすくめた。「俺は、ただおもしろ場所だと聞いて来たんだ」

「引き返すべきです。ここは行ったらいけない場所に違いないです。一体、誰がこんな場所に連れてきたんですか。それとも、一人で?」

 ユウトは背後のとびらを閉ざした。

「な、何するんです!?」

 ユウトは笑った。「ここには冒険の匂いがする!」

「わたしは反対です。わたしは、帰りたいです」

 ユウトは、暴れるサーシャを押さえつけて、ポケットにねじ込んだ。

「大丈夫。ちょっと探検したら戻るから」

 ユウトは歩き出した。

 奥に行くと、小さな部屋がって、そこに入った。その部屋には、いくつもの絵が掛けられていた。

 ユウトは、絵を見た。どこにでもありそうなヘンテコな絵画が掛けられている。

 何だか不思議な印象を受ける絵だった。

 ただ見ていても、何も起こらない。壁に掛けられている絵は、絵でしかない。ただ、さっきから感じる、不思議な気配の正体が分からなかった。

 ユウトは一枚の絵画が気になって、指でなぞった。気づくと、その絵画かいがの中に入り込んでいた。

 暗い道を歩いていくと、石造りの奇妙きみょうな図書室に行きついた。





「これはこれはまずいらしいお客さんだね」

 フードの老人は言った。

 ユウトは老人を見た。深くフードを被っているので顔までは見えない。声はしわがれ、かすれている。

「ここは?」

「図書館だよ。ただの何の変哲もない……」

 カナミがポケットから顔を出した。

「ユウトさん、気を付けて。ここは何だか異様な気がします!」

 ユウトは図書館全体を見た。そこにはたなが幾つもあって、そこにびっしり書物が収められてている。

「勝手に読んでもいいのか?」

「好きにすればいい」老人はくるりと背を向けて、近くになった椅子に座った。

 ユウトは、書物を一冊店とった。次の瞬間、本の中から黒くおぞましい腕が伸びてきて、引きずり込もうとした。

 ユウトは咄嗟とっさに手を放してなんを逃れた。

「今のは何だったんだ……」

 フードの老人は笑った。「ここにある本は、みな魔法の本だから気を付けなされ。あやまって、込み込まれたら帰ってこれなくなりますぞ」

 ユウトは置いている本に手を伸ばそうとした。

「手を出すんですか?」サーシャが言った。

「面白そうだ」

「ダメですよ。この本はなんだか怪しいです。それにさっき、ユウトさんを引きずり込もうとしました。きっと、よからぬ魔法がかかった本に違いありません!」

「たまたまさ」ユウトは本を拾い上げると、ページをめくった。

 すると、そこには『召還魔法』の秘密が記されていた。書物を読むと、読むだけその魔法の世界に入り込んでいった。はじめは、文字を読んでいた。しばらくして、気づくと、本の世界に引き込まれて行き、いつしか夢を見るようになった。

「ユウトさん、ダメです」カナミは、書物に夢中になるユウトを止めた。

 ユウトは、書物に引き込まれ、読みながら夢見の世界を彷徨さまよった。その世界では、魔法を研究する人々が現れ、魔法について研究していた。

 現実のユウトは、呆然ぼうぜんとしたまま立ちくしていた。

「もう、少し。もう少し……」

 ユウトはどんどん書物の中へと引き込まれ行った。

「もう、ダメです」

 カナミは、ユウトから書物を取り上げた。

 すると、ユウトは突然夢から目覚めた。「俺、何していた?」

「戻ったんですか?」

 ユウトは理解した。自分が本の世界にとらわれていたことを。

「この本は危険だ。だけど、すごく面白れぇ」

「ダメですよ」サーシャは手にした書物を本棚に戻して、立ちふさがった。

「あとちょっとだけ」 

 サーシャはかたくなに首をふった。

「まあ、仕方ねぇな」

 フードの老人は言った。「もう、いいんですか?」

「もう少し読みてぇけど、あぶねぇんだ」

「いつの日も、書物に心を奪され、破滅していったものはたくさんいます。ですが、そのかたわらで、書物を読み偉大なる力を授かった者たちもいます」

「俺は、偉大にはなりたくねぇよ」

「そうですか」フードの老人は言った。「では、尋ねますが、何になりたいのですか?」

「俺は、冒険がしてぇ。あとは、自分の周りの大切な仲間を守れればいい」

 フードの老人は頷いた。「では、尋ねますが、本当に危機が迫っとき、あなたはどのように仲間を守るのですか? 今のあなたには力があるように見えませんが……?」

 ユウトは考えた。「そのとき判断するさ」

「それで救えますか?」

 ユウトは口ごもった。

「では、助言を与えておきましょう。迷っていてはダメです。何かを守るということは、それにともなった代償が必要なのです」

代償だいしょうってなんだ?」

「そうです」老人は頷いた。「対価です」

「今の俺には払えるものなんて何もないぞ」

 老人は笑った。「では、気を付けてください。いつ、その瞬間が訪れるとも限りませんから。十分に用意して気を抜かぬよう……」

 老人は、声だけ残して消えて行った。

 すると、不思議なことが起こった。歩いていないのに風景だけ動き出すと、ユウトとサーシャは図書館から出された。

 そして、絵の外へ飛び出した。

 二人の冒険は終わりをむかえた。まるで白昼夢ようだった。そのあと、何度その図書館を探しても、見つからなかった。

 あの図書館は、偶然に出会える不思議な図書館だった。

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