第23話 能面蜘蛛!


 三人は東の奥深くの森の中にやって来た。

「何だあれ」ユウトはささやいた。

 視界の先には、めんをした蜘蛛くもがいた。

「見たことねぇぞ」

新種しんしゅですね」カナミは言った。「わたしは家で書物を読んだんですが、あんな魔物は見たことがありません」

 サーシャ言った。「もしかしたら、能面のうめんグモかもしれません」

 蜘蛛くもは眠ったまま動かない。

「能面グモってなんだ?」

「最近発見された新種です。まだ能力や、生態系など詳しいことは分かってない未知に包まれた蜘蛛くもです」

 突然、蜘蛛が起き上がって、毒の糸を吐いた。

 三人は驚いて大きな木の陰に隠れた。蜘蛛くもの糸は、空にい上がって、八角形になって、空からって来た。れた木々や、大地は毒によって煙を上げた。

「あぶねぇ。あれにれたら溶かされるぞ!」

 蜘蛛は三人の前にやってくると、対峙たいじした。三人は動けなかった

「どうするつもりでしょう?」カナミは言った。

「今は動かない方がいい」

 蜘蛛は動かず、三人の前で固まったままだった。だが、そのうち大きな雄叫おたけびを上げると、おそいかかった。前足を振り上げ、り下ろした。

「うわ、あぶねぇ」

「いったん距離を取りましょう」カナミは言った。

「やっぱり、毒泡どくあわにやられているな!」

 ユウトは背後に飛んだ。二人の仲間も距離をとった。

「作戦は、あの蜘蛛くもに治療薬を食べさせろだ」

 カナミは頷いた。ここに来るまでに、調合しておいた解毒剤げどくざいがある。それを蜘蛛に食べさせることができれば、おとなしい蜘蛛に戻るはずだ。

 蜘蛛は、一歩下がると、雄叫おたけびを上げた。それから、お腹の部分から小さなどく蜘蛛たちを放った。

「うわ、何だこれ」

 ユウトはさらに距離をとった。小さな蜘蛛たちは三人におそいかかった。

「ウィンド・クロス!」

 カナミは、魔法の力を使って、蜘蛛たちを退しりぞけた。

「やりました」

「まだだ!」

 小さな蜘蛛たちが多すぎて、すべてを倒すことはできなかった。

「いったん非難しましょう」サーシャ植物の種をまくと、魔法を使った。それは、植物を成長させる魔法だった。

 植物は成長し、三人は成長した苗木なえぎの上に立った。

「ここなら安全だ」ユウトは吐息をらした。「だけど、安心はできないな。これじゃ、こっちも攻撃でいないし、解毒剤を食べさせられない!」

「何かいい方法はないですかね」

 ユウトはひらめいた。笛を吹いた。すると、怪鳥が現れた。それは、小さな鳥だったが、重いものを運ぶことができた。

 ユウトはそれにつかまって、空から解毒剤を届けようとした。だが、蜘蛛はどくの糸を吐き、鳥を退しりぞけてしまった。

「くそ、ダメだったか」

 ユウトは、目の前にあった大きな木の上に避難した。

「失敗だ」

 カナミが叫んだ。「助けて下さい」

 ユウトは見ると、二人がコグモたちに取り囲まれていたる。何となくだったが、恐れていたことが起こってしまった。ここは未知の世界だ。一歩間違えれば、命を落としてしまう世界だった。それに対して、自分たちは無力だった。

 ここには師匠のカーマンもいない……。

 能面のうめん蜘蛛から糸が吐かれ、ユウトは地上に落下した。その周りを、ほかのコグモたちが取り囲んだ。

 絶体絶命のピンチに陥った。

 ユウトは絶望の中で言った。「俺たちのこれからだ」

「助けて下さい」

 カナミが叫んだ。

「俺たちの冒険は、終わらねぇ!」ユウトは叫んだ。「あれをやってみろ!」

 カナミとサーシャは頷いた。

 一人では、脱出不可能であっても、二人の力が合わされば状況は変化する。

 カナミとサーシャは、合体魔法をとなえた。それは『サイクロン・ブースト!』。カナミの風魔法と、サーシャの自然の力で強化した、強化版の風魔法だった。はじめてのの試みだった。

 それは、大きなつむじ風となって、コグモたちを空に巻き込み吹き飛ばした。

「や、やりました」

 二人はなんを逃れた。

 ユウトは、自分の魔法に集中した。ここに来る前、自分の魔法の存在について考えていた。ああ、しよう。こうしよう。だが、あれこれ考えるより、直感で必要なものを生み出す方が、得意だと感じ取っていた。

 ユウトはまだ近くで待機していた怪鳥の脚に飛び乗ると、能面蜘蛛の上空に舞い上がった。拳に魔法を集中させる。求める魔法は、強烈な衝撃。相手を気絶させてしまうほどの力が必要だった。

 能面蜘蛛の身体からだは固い骨格におおわれている。

 ユウトは怪鳥から手を放すと、蜘蛛の頭上に向かって、落下した。

 そして。


 ずどごおおおおおおおおおおおおおおおおおおおんっッッ!

 

 重い、響きがして、こぶしが放たれた。

 蜘蛛は大地にめり込み動きを止めた。

 ユウトは、大地に着地し、二人はその光景を見守っていた。

 辺りには静けさが漂った。

「わたしたち、やったんですか?」

 カナミは言った。

蜘蛛くもは気絶しているみたいだ」

「やったんですよね?」

「ああ。でも、まだだ」ユウトは持っていた解毒剤を蜘蛛の口に投げ入れた。

 解毒薬は、蜘蛛ののどの奥に入って行き、邪気が消えていく。

 三人はその場に座り込んだ。

 そして、しばらく誰も動かなかった。しばらくして、気絶していた蜘蛛は、ゆっくりと起き上がると、森の奥に帰って行った。

 三人はこの時になって、ようやく勝利の喜びを味わうことになった。

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