第22話 サーシャという女の子!


「あ、足が痛い……」

 妖精の女の子サーシャは言った。

 ユウトは、無視して歩き続けた。

「どうして、おぶってくれないの?」

「お前が自分で来たいって言ったから、連れて来たんだろ」

「だけど、わたしこんなに歩くとは思っていなかったから、仕方ないでしょう」

「じゃあ、休憩していくか?」

 サーシャは首をふった。

「そいう意味じゃないんだから」

 カナミは笑った。「ごめんね。ユウトは優しくないわけじゃないよ、サーシャが、本当に困っているなら、助けてくれる人です。彼はね、苦しい境遇で生きてきたから、自分のことは自分でやるっていう精神なのよ」

「意味わかんないわよ。どいう意味?」

 カナミは言った。「うまく説明はできないけど、とにあく、人に頼ってばかりではダメ。自分の事は、自分で出来るようにならないとって意味だと思う」

 サーシャは、その場に座り込んだ。

 眼前に、巨大な渓谷が立ちはだかった。ユウトはしばらく立ち尽くして考えた。「この渓谷を登って先に進もう」

「嘘でしょう」サーシャは言った。「こんな山登って行けるわけないでしょう」

 ユウトは言った。「回り道してもいいけど、それだと渓谷沿いにだいぶ遠回りしなくちゃいけない。だけど、渓谷けいこくを登れば、すぐに先へ進める!」

「私は嫌よ」

 ユウトは、サーシャのほほを打った。

「お前が勝手に付いてきて、さっきから我がままばっかり言いやがって。お前、本当にこの先に行きたいのか?」

 サーシャは涙した。

「手を出すことないじゃないわよ!」

「それは悪かった。だけど、我儘わがままばかりっているお前にも原因はあるだろ。俺は狂暴化した森の仲間を救いたいんだ。それは今も、狂暴化している奴は困っているはずだ。俺はそいつのもとへ一刻も早く向かいてぇだ!」

「そんなの知らないわよ!」

「なら勝手にしろ」ユウトは、渓谷を登り始めた。

 眼下では、カナミがサーシャをなぐさめている。

 それからしばらくして、カナミと、サーシャが登り始めた。彼女たちは、ゆっくりと、だが慎重に登り始めた。

 十分ほどすると、ユウトを追い抜いた。ユウトは彼女たちを見守った。

 次の瞬間、サーシャが渓谷から手を滑らせて、崖下がけしたへ転落した。ユウトは、ぎりぎりのところで、救い上げた。

 サーシャは拳ほどの大きさだった。妖精だけに、手のひらサイズだった。

「何するのよ」

「よく頑張ったな」

「何よ、突然」

 ユウトは微笑んだ。「お前、もういっぱい一杯だろ」

「そんな事ないわよ。まだいける!」

「なら、最後の時まで力を温存しとけ。おまえの華奢きゃしゃな手が震えているのを見たぞ。もう、危ないと思う」

「何を急に!」

 ユウトはサーシャを胸ポケットに押し込んだ。

「お前は、これまで自分で頑張ったことなかっただろ」

「どういう意味よ」

 ユウトは笑った。「お前、ここに来るまでずっと文句ばかり言って、自分で何もやろうとしなかったから」

 サーシャは黙り込んだ。

「たまたまよ」

「そうなのか?」

「どうして、わたしたちに追い抜かれたりしたの?」

「手がかじかんでた」

「嘘よ」サーシャは言った。「あなた、渡井を待っていたくれたんでしょう。心配して」

「さなな」

 ユウトは何も言わずがけを登り始めた。

 そして、頂上に着く少し手前で止まった。

「ここからは自分で行け!」

 少し手前でサーシャをポケットから出してやった。

「やっとわ」サーシャ言った。「わたし、はじめて、自分で登り切った!」

 ユウトは笑った。

 三人は渓谷の上に立った。その見晴らしは格別だった。どこまでも緑が続いている。緑と、川と、渓谷がどこまでも続いている。

 この世界は、未知の世界だ。

 想像を超えるように、建物や、遺跡や、まったく意味の分からない未知のものがたたずんでいた。

「いい景色ね」サーシャは渓谷けいこくの頂上に座った。

 ユウトは、立ったまま眼下を見下ろした。

「ああ、いい眺めだ」

「わたしあんなふうにしかられたの初めてよ」

「そうか。ほっぺた大丈夫か?」

「少し、ほほが痛いわ」

 ユウトは首をふった。「謝らねぇぞ。俺は、悪ことしてねぇからな」

「別に責めようと思ってないわ」

「そうか」ユウトはサーシャの隣に座った。

「わたし、ここに来てよかった」

「どうしてだ?」

 サーシャは気丈に笑った。「私甘やかされて育ったから、自分が言えば、何でも叶うって思っていた。でも、違った。あなたとは短い間だけど、旅をしてみて、無視されたり、怒られたり、助けてもらったりして分かった。わたし、他の人たちに甘えていただけなんだなって」

「お前は強いよ」ユウトは言った。「お前は自分の意思でここまで来たし、自分の意思を持って、登り切った。俺は思う。本当に弱い奴は、自分の意思を持ってない奴じゃないかって」

「それは違うわよ?」

「そうか」

「そうよ。この世界には、自分の意見を持っていても、言えないものもいるし、そもそもまだ考えが未熟で、自分の意見のようなものを、持ち合わずにいる者もいるのよ」

「そうかな」

「そうよ」サーシャは言った。「私だって、少し前までそうだったわ。だけど、ふとしたきっかけで、わたしたちは成長することができた」

「確かにな」

 サーシャは頷いた。「あなたが私をしかってくれた。そのときから、わたしはただの我儘娘じゃなくなって、少し成長したわたしになったの」

「確かに。サーシャは強くなった」

 二人は笑った。

「ずいぶん仲良しになったみたいですね」

 カナミは言った。

「ああ、俺たち友達になった」

「友達ですか」サーシャは瞳をパチクリさせた。

「そうだ。俺たち友達だ。友だちは、困ったときや、苦しいとき助け合う存在だ」

「なら、次わたしが足痛くなったら、助けてくれる?」

「どうだろうな」

「そこは助けるって、言ってよね」

 カナミは、そんな二人を見てほほ笑んだ。

「冗談だ、おぶっていくよ」

 ユウトは笑った。




 もう少しというところまで来ていた。

「お腹すきましたね」

 サーシャが食事を用意してくれた。

 森にあった、フルーツ類だった。ベリーや、木の実、クルミをたくさん取って来てくれた。

 ユウトは味見した。「うまい」

 カナミも食べた。

「本当に、おいしい。わたしたちだけじゃ、食べられるかどうか判断できなかった」

 サーシャは笑った。「わたしは森に長く住んでいるから、一通り食べれるものは知っています」

「お前天才」ユウトは満足げに笑った。

 食事がすむと、三人は辺りに木に寄りかかって休んだ。

「もう少しですね」サーシャは言った。

「ああ」ユウトは雲を見上げた。

「何を見ているんですか?」

 カナミがユウトの代わりに答えた。

「ユウトはいつも一人だったから、考え事をするときや、呆然ぼうぜんとしているときは、空や雲を見上げているです」

「長い付き合いなんですか?」

 カナミは笑った。

「だいぶね」

 それから、カナミはユウトとのなれそめから語った。話はやがて、魔法の話になった。

「なぁ、魔法ってどうやって使うんだろう?」

 二人は、突然の疑問に肩をすくめた。

「さあ、今まで何となく使っていました」

 サーシャは首をひねった。

「私もいくつか魔法を使えますけど、みんなに教えてもらったので、どうやって使うと言われても?」

 ユウトは頷いた。「俺もだ。俺が具体的に使える魔法は、これと言ってない。ただ何となくで使える魔法は幾つかある。一つは、炎。焚火たきびをするときとか、あとは、拳を固くするとか。何かを割るときにつかえる魔法ぐらいだ」

「わたしも何となくです。カーマンに教えてもらいました」

 サーシャは脇にあった植物を魔法で大きくした。

「おお」

 二人は驚いた。

「私の得意の魔法は、植物を成長させる魔法です。妖精ですから、自然とかかわりの深い魔法が、得意なんです。この魔法の他には、傷をいやしたり、毒を回復するなど、治療系の魔法が得意です」

 ユウトは頷いた。「世界って魔法であふれているだろ。で、考えたみたんだけど、想像力が魔法のみなもとだとすると、どんな魔法でも無限に使えるのかな?」

 カナミは首をふった。「それは無理です。魔法を使えると言っても、その人の想像力や、相性にもよりますから」

「何でもって訳じゃないのか」ユウトは頷いた。「なら、俺はこの先どんな魔法を練習すればいいんだ?」

「突然、どうしたんですか」カナミは言った。

「いや。俺思ったんだよ。この先に進んで行くのに、いつか立ち止まることがあるだろうなって。そのときには、魔法の力を学んでいく必要があるのかなって」

「なるほど。確かにそうですね」カナミは頷いた。「この先に、強敵に出現や、今の実力だけでは突破できない壁が出現するかもしれないです」

「突然、思い至ったんですか?」サーシャは言った。

「ああ、そうだよ。ただ茫然ぼうぜんと考えていたら、浮かんできた」

 三人で話し合った結果、一つの答えにたどり着いた。何か、魔法を練習しよう。そして、自分の得意の魔法を手に入れようとなった。

 サーシャは分かりやすく、自然系の魔法が得意だった。カナミは、以前魔法を使ったときに、風系の魔法を使っていた。

 だが、ユウトの場合、これと言ってなかった。

 あの時ユウトが使用した魔法は、ドリーマー、炎を操った……?

 それ以外に、何か、必殺技が欲しい。

 三人は、しばらく魔法の練習に没頭ぼっとうした。うまくいなない。簡単な基礎的な魔法は使えた。き火のほのおを出すくらいの魔法だった。だが、求めている魔法はもっと強力なものだった。

 そのうち、何か協力できる魔法がないか、話し合った。

 あれやこれや試した。

 ユウトは拳を固くして、カナミの風の魔法をまとわせた。そして、その拳で、岩をなぐった。効果はなかった。風はすぐ消え、ユウトのこぶしを痛めただけだった。

 三人は笑った。

 それから、または話し合った。とくに何かを生み出せることはなかった。だけど、どうやって魔法を生み出そうとするのかの話しは、とにかく楽しかった。共通の目的をもって話すの初めてだった。これまでたいてい、カナミと二人だけだったので、サーシャも交えて三人で話すのは、本当に楽しかった。

 三人は一通り魔法の練習と、その場で横になっておしゃべりした。

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