第20話 魔物の狂わせる毒!


 翌日、二人は森の中を歩いていた。

「何だあれ?」ユウトは立ち止まった。

 視界の先に、黒くむらさきだったあわが地面がわき出していた。

「ダメです。ユウトさん、さわらないで」

 ユウトは伸ばした手を引っ込めた。

「何だよこれ」

 カナミは、辺りを見渡した。

 すると、そこには狂暴きょうぼうになったハリモーグラがいた。全身とげとげの可愛いモグラだった。ここに来るまで何度か見かけているが、気性きしょうの大人しい動物だった。

「あいつ暴れているぞ」

「こっちに来ます」

 ユウトは、ハリモーグラをなぐって気絶させた。

「一体、これはどうい事なんだろう」

 カナミは言った。「きっと、あの紫色のあわの仕業です。たまたま触れてしまった森の動物が、狂暴化しているのかもしれません」

 よく見ると、辺りには暴れた形跡けいせきがあり、木の表面が傷ついたり、地面が盛り上がったりしていた。

「あちこちに傷跡きずあとがあるな」

「うん。あれにれたものたちが、ここで暴れたのかもしれませんね」

 カナミはハリモーグラを手のひらで包み込んだ。「この子を救ってあげなくちゃ」

「そうだな」

 突然、地面が揺れ始めた。

「な、何だ!?」ユウトは、慌ててカナミを支えた。

「地震ですか」

 ユウトは見た。大地が揺れると同時に、地面からどくの泡がき出した。二人は、慌てて、逃げ出した。だが、毒のあわが空には放たれると、空中で広がって、二人の退路をふさいだ。

「囲まれた」

 どくの泡が包囲ほういした。

「に、逃げられません」

 ユウトは、あせって辺りを見渡した。だが、逃げられそうなスペースはない。このまま毒の泡をびてしまえば、自分たちも狂暴化してしまう。

 カナミは叫んだ。「ユウトさん、助けて!」

 ユウトは、首にかけられていた笛をふいた。次の瞬間、ハリモーグラが現れた。それは、地面から顔をだし、カナミの抱えているハリモーグラを見ると、状況を理解した。

 穴を掘り始めた。

 二人は、その穴に逃げ込んで危機を脱することができた。




「ああ、助かった」

 ユウトはお礼を言った。ハリモーグラは我が子を背負うと、立ち去った。

「状況が読めてきましたね」カナミは言った。

「俺は、全然だけど」

 カナミは笑った。「ユウトさんは、そういうの苦手ですものね」

「ああ、俺苦手だ」

「私が、説明します。わたしたちは、最初、森で暴れた八本足はっぽんあしの化け物を追ってここまで来ました。ですが、ほんらい行くべきはずの方向ではなく、回り道をして来ました。それは、方角ウサギが、別の方向を指し示したからです」

 ユウトは頷いた。

「そして、分かったんです。たどり着いた先で、動物を狂暴化する毒の泡を発見したんです。つまり、森で暴れた八本足の化け物は、恐らくこの場所に足を踏みいれたんです」

 ユウトは首を傾げた。「み入れるととどうなる?」

「ハリモーグラの子どもみたいに、狂暴化してしまいます。毒の霧を浴びることで、狂暴化してしまうんです」

 ユウトは手をうった。「つまり、あの毒泡どくあわが悪いんだな!」

「そうです」カナミは言った。「そうして、さっき見ていたんですけど、ハリモーグラのお母さんが、我が子に何か飲ませていました。あれは、きっと治療薬だったと思います」

「治療薬があるのか」ユウトは頷いた。

「はい。私のかんでは、森の動物が知っている治療薬の在りかがあるはずです」

「なるほど」ユウトは一度、頷いた。それから、笛を吹いた。

 方角ほうがくウサギが現れた。

「何度もすまない」

 ウサギは、悪態あくたいをつきながら肩をすくめた。

 ユウトは、ウサギに毒泡どくあわの治療薬のりかについて、尋ねた。すると、ウサギは首を回して、方角を指し示した。

 二人は、その場所に向かって歩いて行った。そこには、一面に広がったハーブが自生する場所だがあった。

 葉はみどりと、ピンクの混じった変わった形をしていた。

「うおお。これか」ユウトは、ハーブ畑に入った。

 カナミは、ハーブの葉を確かめた。「うん。これみたいですね」

「じゃあ、ハーブも見つけたことだし、帰るか?」

 カナミはユウトの頭にチョップした。

「帰りませんよ」

「そうなのか?」ユウトは驚いた。

「ああ、もう。これを取ったらね、八本足の化け物と所に行かなくちゃけないです」

「どうしてだよ」

「あのね。八本足の化け物が暴れたのは、あの毒泡どくあわのせいなんですよ。それで、毒泡の解毒剤げどくざいが、これなんです。だから、この解毒剤をもって、八本足の化け物を治療ちりょうしてあげなくちゃいけないって、事なんですよ」

 ユウトは手のひらを打った。「そう言うことか。化け物は、毒泡にやられていたんだったな」

「そうです。これで分かりましたか?」

「おう、分かった」ユウトは頷いた。

「では、向かいましょう」

「ダメです!」小人は言った。

 ユウトは驚いた。「お前誰だよ?」

「ぼくは、小人族のパッチです。おまえ、悪い奴ですね」

 ユウトは首をふった。「俺、悪者じゃねぇよ」

「じゃあ、その手に持っているは何ですか?」

 カナミは手にしていたハーブを隠した。「これは、違うです。これ森の動物を救うのに必要なもので」

うそです」パッチは首をふった。「ここ最近、畑がらされていると思っていたら、犯人はお前たちだったのです!」

 ユウトは事情を説明しようとした。だが、パッチはそれを許さなかった。

「問答無用です」

 パッチは、必殺のチョップを放つと、二人を気絶させた。

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