第18話 出会い


 そこには男と、女がいた。

「お前は誰だ?」男は言った。

「俺は、ユウト。冒険者だ」

「久しく見ていないな。ところで、お前、どうやってここに入って来た。ここは魔法の森だぞ、ワシの許可なく侵入出来たりはできなはずだ」

 男はユウトのにおいをかいだ。「ふむ。かすかではあるが、森の動物の匂いがただよっておるわ。そいう訳か……」

 男は、自己紹介した。

「ワシは、自然観察保護管かんさつほごかんのトームだ。ここで、傷ついた動物や、鳥の世話をしている。それで、こっちの可愛い助手がネコ族のミーナだ」

 ミーナは三角めがねを押し上げると、そっぽを向いた。

「私興味ありませんから」

「ミーナはこの通り、ツンデレなんだ」トームは、ミーナのしりをさわった。

 ビンタされて吹き飛んで、トームは何事も無いようにイスに座った。

「まあ、いつものことだ。気にするな」

 ユウトは事情を説明した。これから自分たちが、東の森へ行き、カーマンを襲ったものの情報を探している。

 トームは言った。「それは、ワシだ!」

「何!?」ユウトは驚いた。

「ワシはさっき言ったように、自然観察保護管の仕事をしている。それも、いつもように傷ついた動物を探していると、鼻歌が聞こえてきた。それはひどく魅惑的な響きで、つい引き寄せられしまったんだ」

「それで」ユウトは尋ねた。

「そして、行き着いてみたら、一人の大柄オカマがいた……」

 ユウトは何となく事情を察した。「お前、女好きか?」

 トームは、ふたたび、ミーナのおしりをさわろうとして、殴られた。いや、殴られた。たんこぶが三つほど重なった。

「つまり、犯人はお前だったのか」

「間違いなくワシだ!」

「でも、カーマンは大男と言っていたぞ」

「たぶん、森の動物たちと一緒に探検していたから、影が映って見えたのだろう!」

 ユウトは頷いた。「なら、俺たちの仕事は終わりだ」

「まあ、まて。ゆっくりしていけ」

 場所を移動すると、もてなされた。辺りには、地面に火がかけられて、そこにナベが掛けられている。鍋の中には、豚汁とんじるが温められている。

「まあ、食っていけ」

 ユウトとカナミは自分たちで持ってきた冒険弁当を広げた。

「俺たち弁当あるから、ここで食わしてくれ。それと、その豚汁くれ」

 みんなで食事した。




「ああ、うまかった」

 四人は、お腹をさすった。

「お前たち、もう帰ってしまうのか?」

 ユウトは頷いた。「俺たちは、ただカーマンを襲った犯人の調査に来ただけだからな」

 トームは言った。「実はちょっと頼みたいことがあって」

 ミーナが止めた。

「彼らに頼むのは、間違っています。彼らは、一階の冒険者にすぎず、私たちの仕事を手伝う義理ぎりも、資格もありません」

 ユウトは気になってたずねた。

「何だよ、お願いって」

「実は、最近森の奥が騒がしくてな。何か、悪い魔物が現れたらしいだが、これのようすを見てきてくれないかと思って」

「何だ、簡単だな」ユウト頷いた。

 カナミは首をふった。「ユウトさん、安け合いダメです。もしかしたら、凶悪な魔物がいて、私たちでは対処できないかもしれないじゃないですか」

「だな、無理だ」

 トームは土下座した。「頼む。見てくれ。そこに居る、ピヨ子を」

 ユウトは、ピヨ子を見た。ピヨ子は傷ついて、羽を包帯でまかれていた。

「どうしたんだ?」

「被害にあったんだ。凶悪な魔物が、こっちまでやって来て、森の動物を襲ったんだ。ピヨ子の両親は食われてしまって、彼女は一人になってしまった」

 ユウトは、立ち上がった。「悪い奴だ。俺がどうにかしてやる!」

 カナミは何も言わなかった。

「おお、頼まれてくれるか?」

「俺に任せろ!」ユウトは、力強く頷いた。

「では、早速だが、偵察ていさつを頼む」

 ユウトは案内された場所に行くと、そこには停留所ていりゅうじょがあった。停留所は、小屋になっていて、ふえが置かれていた。

「これは?」ユウトは笛を持って尋ねた。

いてみろ」トムは言った。

 笛を吹くと、すぐに大きな羽音がして、巨大な鳥がやって来た。その鳥の羽は、青く美しかった。

「この鳥のあしにつかまって、東の森の奥を偵察ていさつしてきてくれ」

 ユウトとカナミは、鳥の脚につかまると空に舞いかがった。

「うひょおおおおお」

 二人は、一気に上昇し、上空を飛行する鳥の足につかまった。

 素晴らしいながめだった。世界が小さく見えた。山が、湖が、どうやってもいけな場所が見えた。不思議なとんがった屋根の建物が見えた。穴がたくさんあいた岩屋いわやが見えた。一体何だん何だろう。

 不思議がいっぱい並んで見えた。

 ひとしきり、偵察して戻って来た。時間にして、一時間ほど空の旅を楽しんだ。そこで分かったのは、東の森の奥に、黒い巨大な影が見た。それは、固い骨格におおわれ、手足が八本の者がいた。

 戻ってから、トームに報告した。

「すまなかった。助かったよ。犯人を見つけてきてくれて」

 ユウトはトームを見た。何だか、困り顔だった。

「まだ何か?」

「実はな。どうやって、あれを倒そうかと思っている。ワシらは、保護管であって、戦いのプロではない。ワシはともなく、ミーナまで巻き込むわけにはいかないと思ってな」

 ユウトは言った。「なら、俺に任せろ」

 トームは、カナミを見た。「わたしは、ユウトが言うならかまいませんよ」

「なぜだ? 見ず知らずのお前たちが、そこまでする恩はないはず」

「確かに」カナミは頷いた。「だけど、それがユウトのいいところでもあります。彼は、困っている人を放っておけないんです」

「だが、それではわしらの気が」

 ミーナが箱を持ってやって来た。「これを差し上げます」

「おお、それは良い!」トームは頷いた。

「何だそれ?」

 トームは言った。「これは、アニマル笛だ」

「それで」

「さっき、動物を呼び寄せただろ。それと同じものだ。こっちのほうが、ちょっと豪華で、遠くまでふえひびき渡る、優れモノだ。これを吹けば、近くにいる動物を呼び寄せられる。しかもうまくあつかえば、望みの動物たちがやって来てくれる!」

 ユウトは、笛にひもを通しても、首掛けた。

「よし。準備万端だ。俺は、あの悪い奴を探しに行くぞ」

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