第17話 東の森のなぞ


「怖いわぁ」

 カーマンは言った。

「何があった」ユウトは真剣な表情で聞いた。

「茂みの中から私のボディーを盗み見ていた者がいるのよ」

「ああ、夕食の支度にしよう」ユウトは、背中を向けた。

「お願いぃ。わたしを無視しないで。おかしなことを言ったのは謝るから、ちゃんとわたしの話を聞いて」

 ユウトは首をふった。「オカマの身体からだに興味を持つ奴なんていねぇよ」

ひどいこと言うじゃない? こうみえて、私の身体は……」

 ユウトは背を向けた。

「ごめん。わたしたが悪かったから。悪かったから、わたしの話しを聞いてよぉ」

「つぎは、船を降りてもらうからなww」

 カマーンはこくりと頷いた。

「東の森には何かいたのよ。間違ないないわ。目が合ったもの。それに、嫌な気配がしたのよ。背筋がこおるような。そして、そいつは私と目が合うと、また東の森に戻って行ったのよ」

「どんな姿だった?」

「大男よ。全身毛むくじゃらで、凶悪な瞳だったわ」

 ユウトはカナミに意見を求めた。

「わたしは調査してみるべきだと思います。しばらくこの場所にとどまるなら、調査しておいた方がいいと思います」

「だな」ユウトは頷いた。「なら、明日、俺たちが調査しに行くから、カマーンは引き続き、船の修理を頼む」

「分かった。だけど、いいの二人で? ひどい目にあったばかりじゃないの?」

 ユウトは頷いた。「ああ、危うく死ぬところだった。魚に変身したり、蜘蛛くもに食べられそうになったりして」

「この中で一番、強くて、冒険れしてるのはアチシよ」

「おう。だけど、俺は冒険してぇんだ。だから、俺が行く!」

「まあ、あなたがそう言うのなら」

 三人は、船の外に出て夕食をした。

 船に食料はないので、自給自足じきゅうじそくの生活となった。この地は初めてなので、三人そろって、りや採集に出かけた。森には多くの食べ物があった。それと同じくらい、危険な食べ物や、未知の植物が群青ぐんじょうしていた。

「これ、食べられるか?」

「たべ、られ……な~い」

「これは?」ユウトは引き抜いたキノコを見せた。

「たべ、られ~る!」

 ユウトは自分の手を見た。「何だか、かぶれて来たぞ」

「やっぱり、たべ、られなーい!」

 三人は、そんなこんなで、食材を集めると、船の前で盛大な炎をいた。

 そのうち、肉や、食物を焼く匂いに誘われて、森の動物たちがやってきた。方角ウサギに、笑いタヌキ・それに匂いキツネがやって来た。みんな、はじめは警戒していたが、宴が始まるにつれて、仲良くなっていった。

 ユウトは、肉を盛大にかぶりついた。そして、森の仲間たちと一緒に食べた。

 みんなで食べるとおいしかった。

「おい、俺、芸を披露ひろうする!」

 陽が暮れてきて、森は闇におおわれていった。

 辺りは焚火たきびの炎がらめている。

 ユウトは、魔法を操ると、暗い夜空に向かって花火を打ち上げた。色とりどりの大輪だいりんの花火が打ち上がった。

 少しの時間だったが、すべての者を魅了させた。

「今度は、カナミだ」

 カナミは、歌とダンスを披露した。

 動物も人間も、一体となって、炎を囲むようにしておどった。

「続きましては、アチシ。カーマンが芸を……」

 ユウトはさえぎった。「オカマは無視だ」

「そんな。ひどいわよぉ」

 カーマンは魅惑のオカマ芸を見せようとしたが、却下された。

 カーマンは地団駄をんだ。

 ユウトは、森の仲間たちとジェスチャーを使って、会話できるようになった。方角ウサギは、探し物の方角を教えてくれることができた。笑いタヌキは、お喋りが大好きだった。動物たちは、人間の言葉を理解して、身振り手振りで笑わせてくれる。

 匂いキツネは、においに敏感びんかんで、どんな匂いもかぎ分けられた。

 カーマンのコロンだけは、苦手のようだった。

 うたげは、夜遅くまで続いた。森の仲間と、ユウトたちは眠たくなると、大地にそのまま横になって、眠った。

 朝方空が白み始めたころ、動物たちはゆっくり起き上がり、森に戻って行った。




 翌日。

「だーい遅刻!」

 カーマンは昼のに向かって叫んだ。

 ユウトは、眠い目をこすりながら目を覚ました。

「おはよう」

 カナミも目を覚ました。

「アチシたち、大寝坊したわよ。もう、昼過ぎ、あっという間に一日にが終わってしまったわよ!」

「なんだ、その程度の事か」

 ユウトは、目を閉じた。

「な~んだ。その程度の事か。アチシも寝ようかしら……。って、何で昼過ぎからまた眠らなくちゃいけないの!」

 カーマンは、一人突っ込みをすると、二人の背中を叩いた。

「早く起きなさいよ」

 カーマンは小姑こじゅうとのように言った。

「お前、ババアか」

「ひ、酷いじゃない。私がせっかく起こしてあげたのに」

 カーマンはユウトの首もとに、ギロチン・キックした。

「息止まりかけた!」

「その程度ですむなら、問題ないわ。あなたは乙女の純情じゅんじょうを傷つけたのよ」

 カナミは言った。「それより何の用ですか?」

「あなたちもう、昼過ぎよ。昨日は、ちょっと夜更かしが過ぎたんじゃない? 今日は、東の森へ探索たんさくのはずでしょ」

 ユウトは、手のひらを打った。

「おう、忘れていた!」

「だったら、早く支度しなさーい」

 ユウトは小声で、「小姑こじうとみたいだな」

 と、カナミにささやいた。




「準備完了」

 ユウトは探索用の衣服に着替えた。

「いいわ。グレートよ」カーマンは言った。「あなたは?」

 カナミは、一回転いっかいてんして見せた。

「あなたは超プリティーね」

「これ、一体どうしたんだ?」ユウトは尋ねた。

「昨日、何か衣服がないか探していたのよ。そしたら、探索用に衣服が船の引き出しの中から出てきたのよ。それも、特注よ。失われた過去の魔法王国の素材でできた衣服なんだから。これ珍しいのよ。試してみたけど、耐久力、装飾、どれをとっても一級品なんだから」

 ユウトは着心地を確かめた。悪くない。

「うん。いい感じだ!」

「でしょ、カナミはどう?」

「うん。悪くないです。肌にすいつくようです」

「あとはこれね」カーマンは、魔法のリュックを取り出した。

「これは、魔法のリュックと言って、何でも入るの。例えば、地図、それにキューブ。それから、ロープや発光石。何でもね。あとは、リュックの口を閉じたら、「消えろ」と言えば、リュックは……消える。そして、現れろと言えば、現れる!」

 ユウトは驚いた。

 それから、何度か試して、感覚を確かめた。

「うん。慣れたぞ」

「ああ、そうそう。それから、これ『冒険ぼうけん弁当』! 持って行ってね」

 カーマンはリュックに弁当を詰めた。

 それから二人は手をふって別れを告げると、船を出発した。おとといの出来事があったので、森を行く足取りは慎重だった。初めは緊張していたが、そのうち鼻歌混じりに歩くようになった。

 森の風景を見ながら進んだ。

 しばらく行くと、分かれ道があった。

「どっちに進む?」ユウトは尋ねた。

「そうですね」カナミはリュックから地図を出した。「う~ん。地形からすると、右のようですけど?」

 ユウトは右の道を見た。だが、その道は険しく入り組んでいた。

 左の道を見た。「こっちのほうが、見通しもよくて安全そうだ」

「なら、左の道に進みますか?」

 ユウトは大きく手を振って歩き出した。

 だが、次第に森が険しくなってきた。両脇から茂みが伸びてきて、道をふさぐようになった。広かった道も、せばまってきた。

「何だか、おかしな」

 そのうち、霧が視界をふさぐようになった。

 それから、雨がぽつりぽつりと降り始め、やがて足元を流れる川となった。

「何だか、まずくないか?」

 カナミは立ち止まっって、辺りを見た。「道を見失いました」

 道は消え、密林の中に立っていた。

「どこか安全な避難ひなんできる場所を探さないと」

 水かさは増していく。

 二人は、必死に探し歩いた。足元を流れる水位も上がってきている。

 しばらく行くと、山裾やますそに口を開くようにして洞窟どうくつが待っていた。

 二人は、洞窟に逃げ込んだ。その瞬間、かんぬきが落ちてきた。

 ユウトは力ずくで持ち上げようとしたが無理だった。

「ほかので出口を探しましょう」

 少し歩いて、洞窟に空洞くうどうになった場所に座った。

「ふぅここなら、一安心だな」

 カナミは、隣に座った。「少し休んで行きましょう」

「それにしても何かおかしいな」

「何がです」

「ここまでの経路だよ。まるで、俺たちが迷い込むのが分かっていて、ここに洞窟があったみたいだった」

「気のせいですよ」

 ユウトは首をふった。「今思い返してみれば、はじめから怪しかった。最初に、分かれ道があった場所でも、分かりやすく歩きやすそうな道と、過酷な道が用意されていた」

「何ですか」サナは言った。「ここに来るまですべてが、誰かが用意した道だって言いたいんですか?」

「急に道幅がせばまったり、霧が出たり、おまけに雨まで降って来るなんて出来過ぎだろ」

「そうですけど」

 ユウトは手を打った。「もしかして、ここ魔法森かも」

「何ですか、それ?」

「魔法森だよ。魔法で出来た森だ。魔法森は、その名の通り、魔法で出ているから、勝手に道が出来たり、木が動いたり、霧が出たり、勝手に雨が降ったりするんだ」

「目的は?」

「俺たちを一か所に集めて、食べてしまうつもりだ」

 カナミは、は身体を震わせた。「怖すぎます。わたし、一刻も早く逃げ出したくなってきました!」

 ユウトは立ち上がった。洞窟どうくつの先が光っている。そこには光があって、何者かの気配がした。

「行って、真相を確かめ来よう!」

 二人はその場所に向かって歩き出した。

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