第16話 不時着……そして、冒険!


「ダメそうね」

 カーマンは言った。

「船は、治らねぇのか?」

 ユウトは言った。

「いいえ。治るわ。だけど、稲妻にやられた部分を補修しておく必要があるわ」

「どれくらい時間がかかる?」

「そうね」カーマンは言った。「一週間ほどってところからしら」

 ユウトは頷いた。「それならしばらくここに滞在することになりそうだな」

 カーマンは暴れた。「何でそんなに、冷静でいられるのよ。訳の分からない場所に滞在するって事が、どれくらい危険なことが分かっているの? いい、冒険者が命を落とす場合のほとんどは、見知らぬ場所を探検……」

 ユウトは歩き出した。一緒にカナミをついて行く。

「ちょと、あんたたち二人」

「俺たちは、探検してくれるから、船の修理を任せたぞ」

 ユウトは歩き出した。後ろから、カーマンの叫び声が聞こえる。

 二人は、無視して歩き続けた。すると、視界の先に赤く熟れたリゴーンがなっていた。ユウトは、リゴーンを取ろうと手を伸ばした。

 次の瞬間、リゴーンが口をあけて襲いかかった。

 ユウトは、リゴーンから手を放した。

 リゴーンはぴょこぴょこ跳ねて、どこかに消えて行った。

「うおお、あぶねぇ。危うく、手をかみちぎられるところだった」

 カナミは言った。「ここは、未知の場所だから、知らない食べ物には気を付けなければいけませんね」

 二人が、再び歩いていくと、七色に輝く果実がなっていた。二人は立ち止まった。お腹が空いて生きている。食べたい。だが、先ほどの一件があったので、うかつに手を出せなかった。

「どうしましょう」

 ユウトは、頷いた。「俺は食べてぇぞ」

「わたしもです」

 ユウトは、勇気を振り絞って果実に伸ばした。そして、果実をもぎ取った。

「やったぞ」

 ユウトはにんまり笑った。

「ちょっと待って下さい」

 ユウトが果実を食べようとしたところで、カナミが言った。

「あそこに、野生の鳥がいるんですけど、果実を見たまま食べようとしてません。あ、飛びだった。どこかに行ってしまいました……」

 ユウトはいったん食べるのをやめて、果実を置いた。それから、果実の木の周りを調査すると、近くに弱った動物たちの姿があった。

 ユウトは悟った、これは毒の果実だ! ユウトはがっかりして、その場を立ち去ることにした。

 辿り着いた先は、綺麗な水の流れる小川だった。ユウトは、ここなら大丈夫だろうと、水を飲んだ。清く、おいしい水だった。

 そして、気づいた。なぜか、水の中にいる!?

 カナミを探すと、なぜか水の中で一匹の魚が泳いでいる。

 ユウトは叫んだ。「カナミ~!」

 一匹のさかなが返事した。「誰ですか? わたしの名前を呼ぶのは?」

 ユウトは目をパチクリした。「お前、カナミか?」

「え!? もしかして、ユウトさんですか!? ど、どうして、私たち魚になっているですか?」

「水だ。水を飲んだから、魚になっちまったんだ。そうか。この水は、魚になる呪いがかかっていたんだ!」

「まずいです。って事は、私たち、一生このままの姿でしょうか!?」

 ユウトは泳ぎ出した。「それも悪くねぇな」

「わたしは嫌ですよぉ」

「お、あっちに大きな魚がいるぞ」

「わ、追いかけてきました」カナミは逃げ出した。

 二人は、疲れ果てるまで、魚に追いかけ回された。どうやら、魚には縄張なわばりがあって、その縄張りに侵入してしまったらしい。

 二人は、逃げまどっていると、どんどん深い場所にもぐって行った。そこには、さっき魚よりもはるかに大きな魚や、美しい魚たちが泳いでいた。金の魚。色鮮いろあざやかな赤や、白い模様の入った長い魚。いろいろな種類のさなかたちが、泳いでいた。

 やがて深い場所を泳いでると、流れが速くなり出した。二人は必死に泳いだが、流れが急になりすぎで、流れに逆らうことが出来なくなった。

「や、やばいぞ」ユウトは叫んだ。

 次の瞬間、まるでジェットコースターのような急流に落ちた。

「ほ、本当にまずいです!」カナミも叫んだ。

「お、俺についてい来い!」

 辿り土さきは、オオカミマグロの住処だった。オオカミマグロは十メートルほどあり、何でも食べる魚だった。飛び跳ねると、身体のばいほどはジャンプができた。

「うおおおお」

 二人はオオカミマグロにおそわれた。

「ひやああああ」

 二人は、飛び跳ねるオオカミマグロから逃げて、急流を下った。すると、今度は、たきつぼに落ちて、うずに巻かれた。

「目が回るぅ~」

 そして、目を覚ますと、洞窟どうくつの入り口が口を開けていた。

 二人は、流れに身をまかせながら、洞窟の中に入って行った。




「はあ、やっと解放された」

 二人の魔法が解けていた。二人は人間の姿に戻った。

 ユウトは力こぶを作った。「元気いっぱいだ。これから何をしよう」

「はぁ」カナミは吐息をらした。「どうしてそんなに元気なんですか。わたしたち、危うく一生いっしょう魚のままだったんですよ」

「それならそれで悪くねぇよ。泳いで、飯食って、昼寝して。そんな生活も悪ねぇだろ」

「わたしは、嫌ですよ。わたしは、もっと世界を旅したいですし、人間のままがいいですよ」

「そっか」ユウトは頷いた。「それなら、もとの姿に戻って良かったな」

 辺りを見回した。そこは枝分えだわかれした洞窟どうくつが広がっていた。もと来た道を見ると、地面に穴が開いて、穴の奥深くにつながっている。魚ならば、もぐって行くことも出来たかもしれなかったが、人間では無理だった。

洞窟どうくつの奥に、進むしかなさそうだな」

 二人は歩き出した。だが、暗闇くらやみで光のない道を進むのは無理だった。

「ダメだ、歩けない」

「こんな時、光を発する結晶石けっしょうせきがあれば」

 ユウトは足元の光る草を見つけた。それをむと前にかざした。

 光は、洞窟の奥を照らした。

「おお、やったぁ」

「ううぅ」カナミが声を発した。

「どうした?」ユウトは首を傾げた。

「かべ、かべにたくさんのむしがいます」

 ユウトはたくさんのむしを観察した。それは、人には見向きもせず、蟲たちは緑色の葉を背中にかついで運んでいる。ユウトは、疑問に思った。背中に担いでいる木の葉はどこから来るのだろう。もしかしたら……。

 ユウトは壁にり付いた蟲たちを追った。すると、そこには、ドクロ蜘蛛ぐもの巣の中を通っていた。

「これ、無理です」カナミは言った。

「あいつらに見つからったら、絶対に食われるな」

 ユウトは辺りを観察した。「だけど、ここを通らなくちゃ外には出られなそうだ」

「回り道をしますか?」

「道は一本だけだ、回り道はできなそうだ」

 ユウトはドクロ蜘蛛のを観察した。ドクロ蜘蛛の巣は、洞窟一面に張られていて、いくつものあみがかけらえている。クモの数は見えるだけでも、ニ十匹以上いる。体も大きく、獰猛どうもうそうだった。

「糸の隙間すきまを通って行くしかなさそうだ」

 ユウトは、先頭歩き始めた。一歩歩くと、地面をこする足跡あしあとが響き、一瞬、蜘蛛のあしが奇妙に動いた。

「ううぅ、動きました」

「大丈夫、ゆっくり進めば大丈夫だから」

「はい。一歩、一歩、慎重に進むです」

 二人は、慎重に、クモの間を歩いた。だが、中間あたりまで来たとき、カナミの服が、クモの糸にれた。それは、くっついてがれない。

「ま、まずいです」

 ユウトは言った。「落ち着け、無理に動いたり、声を出したりしたらダメだ」

 次の瞬間、わずかに動くカナミの振動が、蜘蛛くもの糸を伝わって、ドクロ蜘蛛に伝わってしまった。

 蜘蛛くもは獲物をらえたことを知って、動き出した。

 カナミはパニックになった。もがけばもがくほど、蜘蛛の糸は衣服に絡みつき、あちこち衣服に張り付いた。

「もうダメです」カナミは慌てるあまり転んだ。

 ユウトは、危険な状況だったが、カナミのもとへけつけた。

「来ては、ダメです!」

 ユウトは、首をふった。「仲間のピンチを見過ごせる訳ねぇだろ!」

 ユウトは、カナミに服に張り付いた糸を切ろうとした。しかし、糸が切れることはなかった。

 ユウトは、カナミの衣服を破り捨てた。

「ちょっと、涼しくなっちまったが、我慢しろよ。無事に船に着いたら、新しい衣服を手に入れてやるからな」

 カナミは涙目になりながら、頷いた。ユウトは、カナミを背負った。

 ユウトはの合間をって、歩き始めた。全方向から蜘蛛が迫った。久しぶりの獲物で、さわがしくなっている。

 二人は、合間をって進んでいたが、捕まってしまった。

 蜘蛛は、獲物をじりじり追い詰めた。

「俺たちは、うまくねぇぞ」ユウトは叫んだ。

 蜘蛛たちは、ハサミをカチカチ鳴らした。

「久しぶりの獲物だ、おいしくいただいてやる!」

 ユウトはわざと大きな声で言った。

「俺たちは、もう逃げられそうにないな」

「ああ、もう、お前たちは食われるのを待つだけだ」

 蜘蛛たちは微笑んだ。

「じゃあ、逃げ切るのは無理だな」

「それは無理だろうな。俺たちに囲まれて、逃げられる奴はいねぇよ」

「でも、気になるから最後に教えてくれ?」

「何をだ」

 ユウトは声高に言った。「誰が、俺たち二人を食うんだ」

 蜘蛛たちは、一瞬動きを止めた。蜘蛛たちは、すぐに頭を回転させ始め、誰が食事にありつくのかという大きな問題に直視した。

 二人を食べられるのは、せいぜい二匹と言ったところだ。

 ここにはたくさんの蜘蛛たちが集まって来ている。

 蜘蛛たちは、互いにけん制し合うようになった。やがて、蜘蛛同士の壮絶な戦いが始まった。

 二人は、その隙を見逃さず、動き出した。

 十分後、二人は、洞窟から出た。外には太陽が輝いていて、陽の光がまぶしかった。

 生きているという実感がわかいた。

 それから数時間ほどかけて、カーマンのいる船のある場所まで戻って行った。

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