第14話 古代魔法!


「起きなさい」

 カーマンはユウトの肩をたたいた。

 ユウトは目を覚ました。「俺、何してた?」

「あんた、不死者たちに共感して、精神をのっられかけてた」カーマンは言った。「まあ、不死者たちも不本意だったんでしょうけど、あんた特殊な才能あるのかもね」

 ユウトは瞳に涙を浮かべた。

「あいつら苦しんでいた。もとは人間だったのに、あんた姿になって、死ねずに苦しんでいた」

「まあ、気持ちは分かるわよ。わたしだって、できる事なら助けてあげたい。だけど、人にはできることとできないことがあるのよ」

「だけど俺」

 カーマンは首をふった。「もし、本当に救ってあげたいと思うのなら、まずは今やるべきことを達成していきなさい。その先に、彼らを助ける方法が見つかるかもしれない」

「俺やる!」ユウトは頷いた。

「それはひどく大変なことよ。きっと時間がかかる!」

「それでもだ」ユウトは強く頷いた。「俺は、どんなに時間がかかったって、あいつらを救ってやりたい」

「なら、ここを出たら、世界を旅しなさい。旅した先の、どこかに彼らをいやす方法がきっとあるから」

 ユウトは視界の先に、光の玉を見た。

「あれは?」

 カナミと、カーマンは首を傾げた。

「火の玉?」

 ユウトは走り出した。そして、その後を追った。すると、火の玉は廊下の奥へ、奥へと進んで行き、そしてある部屋の前で消えた。

 ユウトはその扉を開くと、中に入った。

 そこにあったのは、二体のむくろだった。むくろは、手を繋いだ状態で、壁に横たわっている。その瞬間、ユウトは理解した。

「お前たち、ずいぶん長い間、待たせちまったな」

 遅れて、二人がやってきた。

「これは?」カナミは言った。

「あの二人だ」

 カナミは絶句した。「もしかして、王女様と、あの研究員の男……」

 ユウトは頷いた。「千年の間、ずっとここで待っていたんだ」

「何を?」

 ユウトは深呼吸した。「俺たちが来るのをだ。彼らは、俺をここへ導いてくれた。それはきっと、俺たちを待っていてくれたって事だ」

 やがて、むくろの瞳に炎が浮かび上がり、それは身体へと入り込んだ。

 躯はゆっくりと起き上がった。

「ずいぶん長いこと彷徨さまよった」むくろは言った。

「お前、話せるのか」ユウトは、驚いて二歩ほど下がった。

「いかにも。吾輩わがはいは、ずっと見てきた。あの事故が起こってから、世界のを彷徨さまよいながら見守って来たのだ」

 ユウトは何も言わず、ただ耳をませた。

「王女は、行ってしまった」

「二人は離ればなれになったのか?」

 むくろは首をふった。カタカタの音が鳴った。

「ある意味においては」むくろは起き上がった。「あの日、世界に厄災やくさいが降り注いだとき、我々は『初期再生』の魔法をとなえた。だが、王女は頑固がんこものでな。吾輩わがはいが、世界の一部になることを許さなかった。だから、最後の日だというのに、喧嘩をしてしまってな。そして、魔法を唱え終わったとき、王女は私にかかる魔法の一部を、自分が背負ったのだ。王女は、いち早く魔法に取り込まれ、吾輩は死せる魂のはずだったが、こうして生き残ってしまった」

「あなたは、千年間、生きたままこのにとどまり続けたのですか?」

 男は頷いた。「どうして、愛する者を一人残して旅立てる?」

「勿論、行くことなんて出来ねぇ」

「吾輩の心の中には、今でも可憐かれんに笑う王女の笑顔が焼き付いていおる」

 ユウトは言った。

「俺に出来ることはあるか?」

「世界を覆っている霧を晴らしてくれ。そうすれば、ここに留まり、しばり付けられている王女の魂も、解放ことができる」

「どうやって?」

 男は皮肉に笑った。「お前が、ただ願えばいい」

「それだけ?」

 男は笑った「そうだ。ただ、願うだけ」

「でも、それなら」

 男は首をふった。「この魔法を使えるのは、まことに夢見る力を持った者だけなのだ。この魔法を完成させることができるのは、お前を置いて他にいない」

「俺分らねぇよ」ユウトは言った。

吾輩わがはいは千年間待ち続けた。この地に縛り続けられた王女を解き放つものが現れるのは。だが、一人も現れなかった。ここを訪れた冒険者はいた。だが、その者たちでは駄目だった。魔法をとなえても、まことに夢見る力が足りなかった」

「俺にだってできねぇよ」

「いや、できる!」男は断言した。それから、王女だったものの躯を両腕で優しく抱き上がると、優しく抱きしめた。

 王女の身体がきらめいた。それ輝きは、辺りを彷徨ってから、ユウトの身体にまとわりついた。

「これが、何よりの証拠」

「どういう意味だよ」

 男は、笑った。「王女がとなえた魔法は、夢見る魔法なのだ。この世界に、厄災やくさいが起きたとき、それは世界の滅ぼす力だった。それに対抗するには、それとは反対の魔法、つまり、希望の力が必要だった。その力を誰よりも持っているのは、お前だ! その力を使って、不完全だった『初期再生』の魔法を完成させて欲しい」

 ユウトは首をふった。「そんな、大それたことできねぇ。俺には、力が足りねぇよ」

「一人ではない。お前には仲間がいるではないか」

 一瞬、王宮内がれた。

「これは?」ユウトは慌てた。

「やってきたか」男は歯噛はがみするように言った。「ここは、厄災を起こした中心地。そこには、巨大な魔物がひそんでいるわ!」

「俺は、どうしたらいい?」

 男は深く大きく息を吸った。

「仲間とともに、となえるがいい。ファンタスティック・エターナルと!」

 ユウトは見た。王宮の奥から、忍び寄る死の気配が……。それは、どんどん壁を突きくずしながら、迫ってきている。

「俺が唱えたあと、その後はどうなる?」

「大丈夫、お前たちは、元の世界に帰ることができる!」

むくろのおまえは?」

「わたしは、そうだなすでに死んでしまってはいるが、まだしばらく魂が宿っているうちは、動けるかもしれんな」

「なら、一緒に脱出しよう」

「さて、それはどうかな」

 次の瞬間、壁を突き破って、破壊の魔物が現れた。それは、簡単に壁を突き破るほどの体躯からだで、闇から生まれた存在だった。一撃で、壁を粉砕し、毒のいき一つで、辺りを溶解ようかいさせてしまった。

 男は、勇敢ゆうかんに魔物に向かって行った。

「吾輩が、ここを食い止める。早く、魔法を!」

 ユウトとカナミ、カマーンは円陣を組み、魔法の発動に備えた。魔法がまだどのような存在なのか、いまいち理解できていない。だが、男言われたように魔法をとなると、それは発動し、待機の状態となった。

 その間、男は、ユウト、カナミ、カマーンにシールドをりながら、魔物から守った。

「そろそろ別れた時が近づいているようだな」

 男は言った。

「俺はまだ、お前と別れたくねぇぞ」

「だがときは近い。その魔法を使えば、霧が晴れわたる。そうすれば、ここを繋いでいる、そなたたちとのきずなも途切れよう。世界は明るくなるぞ」

 ユウトは首を傾げた。「明るくなる?」

「そうだ。長年、世界を覆っていた霧が晴れわたる。つまり、それは長らく閉ざされていた、世界の国交が開かれるはずだ」男はいさましく笑った。「国交が開かれれば世界に活気がもどる!」

 ユウトは自分の腕に魔法が集まるのを感じた。

「その後は、どうなる?」

 男は笑った。「吾輩とか? また会えるかもな。そのときのために、吾輩の名を伝えておこう。我が名は、ゼロス! 千年のときを生きたゼロスだ。覚えておけ!」

 ユウトは、ゼロスに別れを告げる。

「さらば、夢見る勇者よ」

 ユウトは、魔法を解き放った。

 それは、一瞬閃光せんこうを放ち、世界に向かって放たれた。

 それは、 世界をおおっていた霧を退しりぞけ、世界の国交を開いた。

 三人は気づくと、元の世界に戻って来ていた。

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