第13話 王国の闇……


 三人はみちびかれるようにして、黄金のとびらをくぐった。

 辿り着いたのは、魔法王国だった。それは、千年前にほろびた魔法王国がそこにあった。部屋から見える廊下には光はなく、空から降り注ぐ赤い光が差し込んでいる。壁は長年の風雨にさらされ、風化ふうかしている。床にはほこりが厚くもっている。

「来ちまったな」

 ユウトは静かにささやいた。

「わたしは複雑な心境です」カナミは言った。「ここが千年前にさかえた魔法王国だとするならば、ここはまさに歴史的な場所です。だけど、わたしは千年前の王国がどのようなものだったのかも、歴史についても何も知りません」

 ユウトは頷いた。「確かにな。俺たちは、歴史について何も知らねぇ」

 カーマンは言った。「それにしたって、おかしいわね。私たちがいくら無知むちとはいえ、千年前にあった王国について、何一つ知らないなんて」

 カナミはある仮説を立てた。「もしかしたら、ここにも魔法の影響があるのかもしれません」

「どいうことだ」ユウトは尋ねた。

「千年前、魔法の大きな事故がありました」

「ああ、俺たちは、あの滅びの光景を見せられた。危うく、世界が滅ぶところだった」

「そうです」カナミは頷いた。「でも、王女様とあの男の人が世界を救ってくれた。ここまでは分かりました。でも、話しには続きがある!」

「何だよ」ユウト尋ねた。

「ここからは仮説ですけど、二人のとなえた魔法は完全なものではなかった。失敗だったのか、それとも時間が足りなかったのか。と、とにかく、うまくはいなかった。ここに、秘密が隠されているように感じます」

 カーマンは見解を言った。「私の結論からすれば、不完全だった魔法は、世界にあらゆる形となって、爪痕つめあとを残した。世界が霧で覆われているのもそうだし、世界に広がった霧だけじゃなくて、千年前の王国のことさえ、きれいさっぱり歴史から消されてしまっている。これはそう言った後遺症こういしょうなのかもしれません」

 ユウトは納得した。

「だから、俺たちには歴史を知らねぇのか」

 カナミは見た。「ここは、その失われた歴史の隠された場所なのかもしれません」

 ユウトは暗がりの先を見た。そこには暗い廊下が伸びている。

 三人がいるのは、魔法王国の、宮廷きゅうていの中だった。

「それにしても、広い場所だな」

 ユウトは、宮廷内を散策しながら言った。

「静かに」カナミは言った。「何か来ます」

 ユウトは目を凝らすと、廊下の奥から、うごめく者たちが現れた。それは、不死者ふししゃとなった、兵士や、王宮の人々だった。

 カマーンはいち早く、脅威きょういに気づくと、攻撃した。

 だが、相手は無傷だった。

「ぜんぜん、効かない」

 ユウトは不死者たちを見た。「うぇ、見た目がグロい」

「そんなこと言ってはダメですよ」カナミは言った。「もとは、王宮に住んでいた人たちなんですから」

「でも、まるでヘドロのようなみにくい形相だ!」

「いったん、逃げましょう」カマーンは言った。「あなたちじゃ、勝てない。ここはいったん逃げて、作戦を立てましょう」

「いや、おれは強くなった。だから、何とかなる」ユウトは、こぶしに魔法を集めた。

 ユウトの拳は鉄のように固くなった。

 それを使って、不死者を退しろぞけようとした。だが、結果、うでを食いちぎられそうになっただけだ。

「うお、あぶねぇ」

「だから言ったでしょう」カマーンは言った。「ああ見て、すごく強いの」

 カマーンはこん身の一撃を放った。拳を炎に変えて、炎とともに焼き尽くす、必殺技だった。

 一瞬、不死者は炎に飲み込まれたが、再生し、立ち尽くした。

「やっぱり、死なない」

 不死者は絶叫ぜっきょうした。どこまでも響く強烈な叫びだった。

 三人は、耳をおおった。どこまでも不快で、どこまでも聞き苦しかった。だが、その響きの中に、悲しみが込められていた。

「やっぱり逃げなと」カマーンは言った。

 ユウトは立ち尽くした。

「ユウトさん、早く逃げましょう」カナミは言った。

「ダメだ。あいつら、泣いている」ユウトは、感情が込み上げた。

 ユウトなの中で、不死者に共鳴した。不死者は、死ねない。もともとは生きていたに人間だったはずの者たちだった。

 だが、彼らは、魔法の事故によって不死者となった。その彼らは、ほとんどに理性や、心を失いながらも、生き続けた。長い間。一年、二年。五年、十年。それから、……百年、二百年、数百年とたち、そしてとうとう千年の月日が流れた。

 それは、どれほど過酷な日々だっただろう。死ぬにも死ねず。人間であることを完全にはやめられず。

 彼らの心は、この王宮の城と同じように風化ふうか辿たどりながら、完全には失われていなかった。

「俺は、彼らを楽にしてやりてぇ」

「ダメよ。そんなの無理よ」カマーンは言った。

 ユウトはうでに一点に魔法を集めた。

 この世界は、夢と希望にあふれている。魔法の根源こんげんは、夢見る力だ。

「俺は、彼らを楽にしてやりてぇ」

 ユウトは、手に集めた魔法を不死者に向かって放った。それは、オレンジ色の真っ赤な炎だった。炎は、不死者に直撃したが、不死者はたたずんでいた。

「俺は、彼らを楽にしてやれねぇのか」

 ユウトに悲しみがおそった。

「ユウトさん」

 カナミと、カーマンは、くずれ落ちるユウトを抱きかかえて、その場を後にした。

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