第9話 鬼畜なパワーアップ


「わたし、優しくないのよ」

 カマーンは両手に腰を当てながら言った。

 ユウトとカナミは座りながら話を聞く。

「これから修行してもらうわ。ここは未知のおおう世界。だから、当然、命をうばわれてしまうような、やばい魔物もいるわ」カマーンはあやしくほほ笑んだ。「うふふふ。わたしと戦ってもらうわ。いちおう言っておくけど、わたし凄く強いわ!」

 ユウトは手を上げてたずねた。「どれくらい?」

 カマーンは手のひらを広げた。「さっきも見せたけど、わたし魔法が使えるわ。そうしたエキスパートだと思って」

「いまいち実感わかないな」

「なら見せてあげるわよ」カマーンは拳を固めると、地面をなぐった。

 ドゴーン。

 地面に、隕石が落ちたような穴が開いた。

「この拳でなぐったらどうなると思う?」

 ユウトとカナミは息を飲んだ。

「死ぬな」

「死にますね」カナミは頷いた。

「って言うことで、修行を始まるわよ。ルールは、この岩場に囲まれた場所から出たらそくまけよ。その場合は、ペナルティーを与えるわ。分かっていると思うけど、逃げ出したりしても修行にならないから、無意味のない行動はしないように。ここでの修行の目的は、実践での戦闘能力の向上よ。よって、わたしに一発入れれば、修行は終わり。逆に言えば、一発入れるまで修行は続くわよ。じゃあ、始めましょう」

 二人は、カマーンと向かい合って立った。

「あら、さっさと仕掛けてこないの?」カマーンは言った。

 ユウトとカナミは息を飲んだ。

「じゃあ、こっちから仕掛けるわよ」カマーンは、魔法を想像した。その手には、凍れる吹雪ふぶききらめいた。「ふふふふ。これ何かわかる?」

「何だか、ヤバそうだな」ユウトはつぶやいた。

「すっごーく冷たいの。だから、れたら凍えちゃうかもね」

 ユウトは感覚的に理解していた。相手は、自分たちの数倍、いや数百倍強い、ラスボスのような存在だった。

 それに対して、自分たちは生まれたてのひよこだった。

「どうしますか?」カナミは言った。「わたしたち、あんな凄い魔法を受け止め切れませんよ。かといって、逃げ出せるとも思いません」

 ユウトは言った。「二人で協力し合おう」

「二人でですか?」

 ユウトは頷いた。「俺たちは、まだまだ実力不足だ。だから、互いに補い合う。きっと、カマーンだって、あの魔法を完全に防げるとは思ってないはずだ」

 カマーンは、魔法を解き放った。それは、れるものを一瞬にこおらせる、死の冷気だった。

 二人は協力し合って、シールドを作って凍れる吹雪ふぶきを防いだ。だが、吹雪の威力が強すぎて、二人の魔法が押され始めた。

「うぅ、まずいです」カナミは叫んだ。

「ほーほほほ」カマーンは笑った。「わたしの魔法をガードしようなんて甘いわよ。この魔法は、遠くに逃げるか、魔法を使う前にが正解だったのよ。だから、二人はしばらく氷漬こおりづけになってもうらうわよ!」

 ユウトは、必死に考えた。何か打開策はないか。

 二人は横並びになるようにして、吹雪ふぶきに対抗している。

 ユウトは叫んだ。「たてに並んで、もっと近づくんだ!」

 二人は、分散されていた防御力を圧縮あっしゅくした。距離が近まった

「むむむむ」カマーンは目を疑った。「あれ、わたしの魔法が弱まている。いえ、あんたたち、魔法の密度を上げて、防御力を上げたのね」カマーンは魔法の力を強めた。

 それから、魔法の衝突しょうとつが起こった。それは拮抗きっこうした。

「なら、これならどうかしら」

 カマーンは、さらに魔力を上げた。吹雪ふぶきの魔法は、その威力を上げ、二人をこおりつかせようとした。

 辺りに吹雪ふぶきが吹き荒れ、氷壁ひょうへきが出来て二人を囲いこんだ。

「さ、寒いです」カナミは呟いた。

 カマーンの魔法のすさまじさに、魔法の防御を破って冷気が忍び寄った。

「このままじゃまずい」ユウトは、歯噛はがみした。

 ユウトは見た。カナミは魔力を消耗しょうもうして、倒れかかっている。このままでは、カナミが倒れてしまう。カナミが傷ついてしまう……。ユウトはふと頭に浮かんだ。それは、幼少時代、自分は貧乏で、親もなく孤独だったころ、この世界に絶望していた頃があった。あの頃、他の子どもたちは、両親と手を繋ぎ、暖かな家庭があった。だが、自分の生活はひどく窮迫きゅうはくしていた。親がいない。自分は、ひどく孤独で、その日を生きるのが精いっぱいだった。だから、自分を支えるため夢ばかり見ていた。夢見ることで、えしのいでいた。それは、いつかこの広い世界を冒険して、仲間をたくさん作りたいと思っていた。お腹いっぱい食べたいと思った。今は、やっとできた仲間が傷ついている。

 ユウトの中で何かが切れた。気づくと、手のひらの中に暖かな黄金の炎が揺らめいていた。

「これは」カナミは目を覚まいた。

 寒さで気を失いかけてカナミの精気が戻った。

「俺の、魔法だ。効果はよく分からない。でも、すごく温かい」

「さっきまでの寒さがうそのようです」

 ユウトは、大きく息をすった。「いま俺の魔法は、維持させるのがやっとだ。生まれたばかりの炎なんだ」

 カナミは頷いた。「分かります。魔法を使ったとき、すごく集中力がいります」

「しばらく休ませて」

 カナミは頷いた。「では、私が守りますから、ユウトさんは自分の力に集中してください」

「ちょっとの間頼んだ」






 それから、十分ほど、ユウトは自分の生み出した炎を見つめていた。

「よし、何となく分かった」

 カナミは吹雪ふぶきを避けるためのシールドを張った。

「大丈夫?」

 カナミは頷いた。「ユウトさんの炎があるので、直接的な吹雪ふぶきは避けられているようです」

「暖かいな」ユウトは頷いた。「俺の方でも発見があった。この炎はどうやら俺の思い応えて変化してくれる様だ」

「どいうことですか?」

 ユウトは、炎に話しかけた。すると、炎に命が宿やどった。フルブルと震えて目を覚ました。

「おお、話せるようになった」炎は喜んだ。

「うわ、すごいです」カナミは目をパチクリさせた。「この子は、どんな魔法なんですか? かなり特別な炎に見えます」

 炎は答えた。「オイラは、夢から生まれたドリーマーだよ。オイラ、何だってできるだ。形だって変えられるし、温かさだって変えられるよ」

 ドリーマーはそう言うと、姿を変えたり、温かくなったり、激しく燃えさかったりし見せた。

「うわ、すごいです」カナミは驚いた。

 ユウトは尋ねた。「俺たち、すごく困っているんだ」

「何だよ。どうしたんだ?」

 ユウトは事情を説明した。

「そうか。それなら、オイラの力を使いないよ」

「どんな力?」

 ドリーマーは頷いた。「オイラは、ユウトの夢見る力によって、いくらでも強くなれるし、どんな姿にんだってなれるんだ」

「例えば、吹雪ふぶきを起こしている奴をどうにかしてくれる?」

 ドリーマーは首をふった。「ダメダメ。もっと、具体的に願わない。オイラにどのような力を与えて、どうしてほしかをちゃんと願わないと」

 カナミは言った。「だったら、激しい炎で燃やしてしまうとか?」

「そうそう。だけど、オイラ本気出したら、相手をほんとに傷つけちゃうよ」

 ユウトは頷いた。「だったら、相手を傷つけないで、相手を倒す方法はない?」

 ドリーマーはユウトにささやいた。

「よしやってみよう」

 ユウトは、ニヤリと笑った。

「何を話したんですか」カナミは言った。

「今からやるから、ちょっと見ていて」

 ユウトは、ドリーマーを手に持った。熱くはない。

 それから、ドリーマーをつかむと、引っ張った。ドリーマーは形を変えて、炎の矢となり、そこにゆみかたちに変形した。

「形を変えました!」カナミが叫んだ。

「うん。ドリーマーは炎だけど、願うとどんな形にもなってくれるみたい」

 カナミは言った。

「だけど、矢では、わたしの防御魔法にぶつかってしまいます」

 ユウトは頷いた。「たぶん大丈夫だよ」

 ドリーマーは言った。「オイラはユウトの願いを叶える炎なんだ。ユウトは、願ったのは、脅威きょういめっする炎だよ。だから、自分たちにとって脅威きょいとならないシールドは、すり抜けて、脅威きょういの対象物だけを射抜けるよう変身したんだ!」

「すごいです」

 ユウトは頷いた。「でも、この一発だけだ。きっと、これを使ったら、しばらく魔法は使えなくなる」

 カナミは頷いた。

 ユウトは、矢を構えると、力を集中させた。

 矢となったドリーマーは、光り輝いた。その光は輝きを増していく。

「す、すごいです。矢から、黄金の光があふれ出して行きます」

「もう少しだ! もう少しで一杯になる」

 ユウトは、矢を放った。

 それは、シールドをすり抜けて、外に飛び出した。外でも猛烈な吹雪ふぶきだった。矢は、吹雪を突き破って、カマーンにむかった。

 そして、命中した。カマーンは驚きのあまり、目を見開いたまま倒れ込んだ。

 目がゆっくりと、閉じられていく。カマーンに突き刺さった矢は、燃え上がると消滅した。

 カーマンは、動かなかった。カマーンは死んだように動かなかった。

 だが、カーマンは、……死んで……いな……かった。

 ユウトの願った魔法は、相手を傷つけるのではなく、相手にショックを与えるだけの魔法だった。

 カマーンは起き上がると、瞳をパチクリさせた。

「わたし、生きている!?」

 吹雪は止んだ。そこには、ユウトとカナミが立っていた。

「わたし、どうしたの?」

「俺の魔法を直撃したんだよ。それより覚えている?」

「何を?」

 ユウトは説明した。修行の目的は、カーマンに一発入れること。

「一発だよな?」

 カマーンは起き上がって、後ずさった。

「え、何のこと?」

「修行は、カマーンに一発入れるまで終わらないって言っただろ!」

 その後、二人はカマーンをボコボコした。

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