第7話 無限の彼方へ


 きりは奥から無限にわき出した。

 ユウトはわき出す霧の中に入った。「あれ、おれ何していたんだっけ?」

 カナミは悟った。

「もしかして、自分が何していたのか忘れてしまたんですか?」

 ユウトは思い出せる範囲で伝えた。

「霧の正体が分かりました。霧の正体は、忘却ぼうきゃくの魔法がかけられているんです」

 ユウトは、カナミから説明を聞いた。

「俺、忘れていたのか!?」

「そうです。ユウトさんは、霧の中に入ったら、自分が何をしていたのか、どのような目的を持っていたのかすべて忘れてしまいました」

「霧やべぇ。だけど、俺、霧の奥に進みてぇ」

 カナミは頷いた。「ですが、すでに依頼は達成しました。私たちの依頼は、霧の正体を突きとんめる事です。正体が分かった以上、ここにいる必要はありません」

 ユウトは、首を横に振った。「俺たちは、冒険者になったんだ。このまま、ただ引き返したくはない。宝の一つでも、持って帰りてぇ」

「あえて危険の中に?」

 ユウトはにやりと笑った。

「霧の奥は、まだ誰も見たことのない風景があるはずだ。だから、俺たちは一番乗りでこの先の景色を見に行こう!」

 ユウトは、一歩足を踏み出した。次の瞬間、霧のが二人を飲み込み、霧の彼方へと引きずり込んだ。

 気づくと霧の世界飲み込まれていた。ユウトは、立ち尽くしていた。そこは、霧が作り出した世界だった。

「……ダメだ、動けない」

 ユウトの目の前には、魔物たちがうごめいていた。今はまだ気づいていない。だが、一歩でも、魔物たちに動けば見つかってしまう。

 目の前には、体長二十メートルの巨大な魔物が立ち尽くしている。

 死を意識した。ここが、どのような場所か分からなかった。ただ、目の前に存在するそれは、間違いなく自分たちの命を奪う存在だと認識できた。

 それは、体の向きを変え、きばをむき出し、獲物の存在を確認した。

 ユウトは息を飲んだ。

「あなたたち、死にてぇの!」

 男は、ユウトとカナミを抱え上げて走り出した。






 安全な場所までやってきた。

 男は言った。「あんたたち、バカなの?」

 ユウトは顔を上げた。視界の先には、網タイツにマントを羽織った男が立っていた。「助けてくれてありがとう」

「いいのよ。わたしは、カマーン。オカマよ」

 ユウトは背を向けて、立ち去ろうとした。

「ちょっと、無視しないで。無視が一番こたえる……」

「あんな場所で、何していたんだ?」

 オカマは答えた。「それは私のセリフ。あんたちこそ、あんな場所に立ち尽くして、自殺でもしようとしていたの?」

 ユウトは、首をふった。そして、事情を説明した。

「つまり、ここにやって来て、何もできず立ち尽くしていたって訳ね」カマーンは頷いた。「それじゃあ、この先やって行けないわよ」

「どうして?」

「だって、ここは霧に取り込まれた世界。私たちは、そこに閉じ込められた。これから私たちがやらなくちゃいけないのは、ここからの脱出よ。そして、ここには、たくさん魔物たちがひしめき合う、虫かごのような場所なのよ」

「俺たち、ここから脱出しなくちゃならねぇのか?」

 カマーンは頷いた。「そうよ。だけど、わたし調べてみたんだけど、どうも出口がないみたいなのよね」

「それは困る!」

 カマーンは頷いた。「だから、あんたたちも協力しなさない」

 ユウトは頷いた。

「でも、あんたち、弱すぎるのよね。だから、私がいっちょ、稽古けいこをつけてあげるわよ」

 ユウトは構えた。瞬殺で、カマーンに敗れた。

「……俺よわい」

「大丈夫、私が一瞬で強くしてあげる!」

「本当か!?」

「本当よ。ここは、剣と魔法の世界、望めば絶対に強くなれるから」

「信じていいんだな?」

「わたしに、ついて来なさい!」

 それから稽古けいこが始まった。






 ユウトの目の前には、魔物の姿があった。

「あいつ、弱そうだな」

 カマーンは、首をふった。「見た目で判断したらダメよ。さっきも言ったけど、ここは剣と魔法の世界。つまり、見た目が弱そうでも、魔法のかかった生物は、ものすごく強いこともあるのよ」

 カマーンは、魔物の前に立った。

 次の瞬間、魔物が火をいた。炎の吐かれた地面は、溶岩ようがんのように溶けていた。

 ユウトは、唖然あぜんとした。

「ね、だから言ったでしょう」

「俺はこんなのと戦えねぇ」

 カナミは言った。「わたしたち、本当に戦えるですか?」

 カマーンは笑った。「心配しなで、ちょっと頑張れば、戦えるようにしてあげるから」

 カマーンは、説明した。「魔法って知っている?」

 ユウトは頷いた。「火を起こしたり、冷たくするやつだろ」

「そうよ」カマーンは頷いた。「でも、ほとんどの者は、魔法のあつかい方を知らずに冒険しているの」

「ああ、俺も魔法は使えねぇ」

「だから、私がその魔法を教えてあげる」カマーンは、意識を集中すると、魔法をとなえた。

 カマーンの指先が一瞬光って、辺りに冷気がおおった。空気が凍りつき、目で見えるように結晶化した。やがて、氷が渦巻き、世界を白銀の世界へと変化させた。ユウトと、カナミはその光景を見つめていた。

「す、すげぇ」

 カマーンは一瞬にして、大地を凍りつかした。

「本当にすげぇよ」

 カマーンは自慢げに胸をらした。

「で、あんたたちにも魔法を使って欲しいのよ。魔法を使うことができれば、一気に戦闘能力は高まるし、うまくいけば一気に冒険がしやすくなるわよ!」

 ユウトは頷いた。「早く教えてくれ」

「いいわよ」カマーンは頷いた。

「魔法の極意は、簡単よ。意識を集中して、自分の思い描くものを望むだけ」

 ユウトは目を閉じて、魔法をねんじた。

 だが、うまくいかなかった。

「落ち込むな少年……。うげぇ」

 そのわきで、カナミが、魔法を完成させた。それは、特大の風魔法だった。それは、カナミの周りで、風が渦巻うずまいた。

「だ、大金星よ」カマーンは叫んだ。「そのまま解き放って!」

 カナミは言われたようにした。

 風は、真空しんくうの刃となって、岩に傷をつけた。

「す、すごいわ」

 ユウトは、負けじと魔法の存在を感じ、具現化ぐげんかしようとした。だが、うまくいかなかった。

「おれ才能ねぇ……」

 ユウトは、大地に手を着いた。

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