アイドルの思い切った行動
「今日言われたじゃないですか。」
大川はキッチンでフライパンをゆすりながらそう言ってきた。
「何をだ?」
「はぁ……もう忘れたんですか?関係性を改善しようって話をしたじゃないですか。だからこうやって時間が遅くても来ているんですよ。」
「でも、帰りとか……心配なんだが……。」
「今日は何曜日だと思います?」
「金曜だけど……ってまさか大川、お前!」
「そのまさかですよ……?今日はお泊まり、させてください?」
急な提案に僕は困惑する。
「距離を縮めるって言って最初から飛ばしすぎじゃないか……?」
そう小声で呟くと大川はこちらを見てくる。
「何か言いました?」
「い、いや何も……。布団用意しておくな。」
「あ、お願いします。その間に私は夕飯の用意をしておくので。」
そう言って大川はまたキッチンのフライパンへと向き合い始める。
僕は2階へと上がり、隣の空き部屋に布団を敷く。
普段は両親が泊まりに来た時用に置いてあるものなので、大川がこれで快適に寝られるかは分からないが、ないよりはマシだろうということでおそらくどこか近いところがあるであろう母親が使っているものを敷く。
「大川〜、敷いておいたぞ〜。」
「ありがとうございます。もちろん同じ部屋に敷いてくれましたよね?」
「え?」
さらっと大川が言った言葉に僕はその言葉しか出なかった。
「いや、ちゃんと距離を縮めるならそのくらいはしないと……。」
「いや、流石に勘弁してくれ……。家に女の子を泊めるってこと自体が初めてなんだから……。」
そういうと大川は流石に折れてくれたようだった。
「そこまで言うなら分かりました。また次の機会ということで。」
そう言って大川は今日の主菜をお皿に盛り付けている。
「今日はハヤシライスにしてみました。明日残った分でドリアみたいにもできますからね。」
「おぉ、いいな、それ。」
「ですよね。この次の日にドリアにするの1回やってみたかったんですよ……。」
そう言って大川は少し興奮した声で僕に話してくる。
「夢が叶って良かったな。」
「そうですね。それも須井くんと叶えられたので、すごく嬉しいです。」
そう言って大川は僕に向けてにっこりと笑ってくる。
これまでもたくさん見てきたはずなのに、僕はその笑顔だけでももう十分お腹いっぱいになれそうだった。
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