緊張と思い出すこと
「みんなー!今日は来てくれてありがとうー!」
大川がそう会場に大声で言うと、会場は一気にファンの歓声で溢れかえる。
「今日は、新曲も用意してきたから楽しんでねー!」
他のメンバーの言葉でさらに会場は盛り上がっていく。
一時期は売り上げの低下からグループのメンバーの絞り込みまで行われようとしていたこのグループも大川の一連の事件などによって応援したいというファンが増え、クラウドファンディングやジャケットの新規購入者などが増え、その難を乗り切った。
「公演を始める前に、私から一言言わせてください。」
大川はステージ上でそう言って一歩前に踏み出す。
「最近、私は色々と問題を起こしてしまっていました。まずはそこを謝らせてください。」
そう言って大川が頭を下げる。最初は静かだった会場から少しずつ『謝らないでー!』という声が飛んでくる。
「みんな、ありがとう。そう言ってもらえて私、嬉しいです。だからこそ、これ以上みんなを裏切らないようにするために、今日は全力で!ここにいるみんなのために!歌を届けたいと思います!よろしくお願いします!」
そう言って大川がまた頭を下げる。1回目よりも深く頭を下げていた。これが大川なりの誠意なのだろう。
『挫けずに続けてくれてありがとう!』
『これからも応援するからー!』
そんな声が沢山座席から飛んでくる。
「僕も応援してるぞー!」
つい僕はそう叫んでしまう。
その声に大川はぴくりと反応する。
そして、僕だけでなく、会場にいる全員に向けたのだろうが、ありがとうとマイクにギリギリ入る小さな声で言っていた。
その声は少し震えていて、どこか弱々しかった。
その声は最初に会った時の大川にどこか少し似ていた。嬉しいけれど、どこか怖さを感じているような感じの声。
そんな声だった。
「やっぱり嬉しいけど少し怖いんだろうな……。」
大川も言っていた。少し緊張すると。あの言葉は嘘ではないのだろう。
今日、こうやって全員の前で謝罪する。そこでもしかしたらブーイングなんかを受けるかもしれない。そんな思いがあったのかもしれないと僕は思う。
「成長したわね……小さい頃とは大違い。自分の言いたいことを言えるようになってる……。」
そう言って小村さんは涙を流していた。
「須井くんに会ったことで色々変わったんじゃないかしら?ね?」
そう紗智子さんに聞かれ、僕は回答に少し困りながらも、多分そうでしょうと答えて頷いた。
そして、大川達のグループのライブが始まった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます