間違えるはずがない

「ここら辺で待ち合わせの予定だから、ここで待っておこう。」

会場から一番近い駅。僕は母親と共に待ち合わせ予定の駅にある鈴のシンボルの前で待っていた。

「先に飲み物とか買いに行くけど、欲しいなら淳の分も買うよ。」

「じゃあ、コーラで頼む。」

「了解〜。お母さんがいないうちに待ち合わせてる人が来たら先に少し話しておいて。すぐに戻るから。」

そう言って母親は近くのコンビニに行ってしまった。

「はぁ、初対面だけど上手く話せるかな……。」

僕は少し心配になりながらも小村さんを待つ。

しばらくすると、駅から降りてきて鈴のシンボルの近くでキョロキョロと周りを見渡し始める女性が目に入った。

もしかしたらあの人かもしれない。そう思った僕は思い切って声をかけてみることにした。

「すみません……間違ってたら申し訳ないんですけど、小村さんだったりしますか?」

そう聞くと女性はこくりと頷いてくる。

「あ、大川さんから聞いてるとは思いますけど、須井です。」

「あぁ!あなたが須井君ですか!話は色々と聞いています。」

そんな感じで話をしていると、飲み物を買ってきていた母親も戻ってくる。


「あら、待ち合わせてた人?」

「そう、小松さん。昔大川の家でお手伝いさんをしてた人なんだ。」

ここでmegumiと言ってしまうと色々と大変なので僕はさっきからあえて大川と言っている。

「あら、そうなのね。よろしくお願いしますね。」

それぞれの挨拶を済ませると、僕たちは会場へと向かう。

既に長蛇の列ができており、早めに集合しておいて良かったと思った。

「とりあえず僕はペンライトを買わなくちゃだから並ぶけど、2人は……どうする、いや、します?」

母親と初対面の人がそれぞれいるので僕はどう聞いたらいいのか分からなくなり、語尾がおかしくなってしまう。

「あ、私は全然タメ口でもいいので……。お母さんといつも話している話し方に統一して頂いていいですよ。」


「それならお言葉に甘えて……。どうする?」

2人はどうやら日中に並ぶ気力まではないらしく、僕にぴったりの料金を渡して日陰で休んでいると言ってきた。

「やれやれ……なんとなくこうなることは予想できてたけども……。」

手に乗っている渡されたお金を見て僕はそう呟く。

この長蛇の列をどうやって退屈せずに過ごすか。

そう考える方向に僕はシフトすることにした。

そんな時、会場の中から微かに声が聞こえてくる。リハーサルをしているのだろう。

そんな時、聞き覚えのある声も聞こえてきた。僕が間違えるはずがない。あれは大川の声だ。

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