自分のことのように

「結局あんまり寝られなかったな……。」

大川が帰ってから数時間。目覚ましの音で布団から出た僕はそう呟いた。

それもそうだ。今日は大川の大舞台なのだから。心配で寝れなくなってしまうのも仕方がないと僕は割り切ることにした。

『お母さんはもう駅に着いているので、しっかり準備をしてきてね。大川さんの前で忘れ物なんて笑えないよ?』

そう送ってきた母親のメッセージに軽く返事を返し、僕は昨日用意しておいた朝食をサクッと済ませてしまう。

疲れるだろうからなるべく長く寝れるようにと考えた結果、ギリギリの時間になってしまっているのだ。

「急がないと……いくらグッズの時間の余裕があるとはいえども……。」

昨日のうちに必要なものはカバンに入れておいて良かったと、昨日の自分を褒めながら僕は家を出発する。

「あ、やっと来た。淳、今日ギリギリまで寝てたでしょ?」

「うっ、全部お見通しかよ……。」

「母親なんだから当たり前でしょ?ねぇ?ほら行くわよ。」

「あ、出発する前に1つだけお願いがあるんだ。」

これは今朝大川からメッセージで送られてきたことだ。どうやら伝え忘れていたらしく、代わりに伝えて欲しいということだった。

「これから会場に向かうわけだけど多くの人はmegumiが大川だってことを理解してなかったり、中には関係者を探して本人に近づこうとか考えてる人もいるらしい。」

「なるほどね。megumiちゃんって言って話をすればいいってことね?」

「そういうことだ。」

母親が物分かりが良くて良かった。ここから会場の最寄り駅までいったところで小村さんとの待ち合わせを予定しているのだ。早いところ出発しなくては。

「なんだっけ?誰かと待ち合わせしているんでしょう?待ち合わせには少し早めに着くくらいがちょうどいいわよ。」

その母親の言葉で僕たちは予定より何本か早い電車に乗り、会場に向かうことにした。


「それで、megumiちゃんのイメージカラーがとか言ってたけど何色なの?」

電車で移動中。僕は母親にそう尋ねられる。

「確か紫だったはず。」

「紫!なんかイメージとは少し違うわね。」

「でも、そのギャップがいいんじゃないか?」

側から見ると、ファンの息子にライブに連れて行かされている母親の構図である。ただ、僕は元から大川のファンなので実際それは間違っていないのだが……。

電車は少しずつ会場へと近づいていく。

トンネルを抜けると大きなドーム型の会場が見えてくる。

僕はそれを見た瞬間からワクワクが止まらなくなってきた。

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