君の笑顔になれるなら

「それで、今回のその大川のライブはどのくらいの人が来る予定なんだ?」

「そうですね……万単位の人がくるでしょうね。箱推しの方もいますし、それぞれのメンバーを推している人もいますからね……。そう言う意味でも数万人規模でくるでしょうね……。」

豊作祭も終わり、なんてことのないとある日の夕方。そう言って、大川はふぅと言いながら紅茶を飲んでいる。

「そんな数万人の前で公演するなんて緊張するだろ……?」

そう聞くと大川は少し考え込んでからこう答えてきた。

「そうですね……確かに緊張もします。でも、それよりもやっていてやりがいの方が上にあるので。そう言う意味では緊張も自然と無くなっていくんです。」

なるほどと僕は少し感心してしまった。

好きなこと、やりがいのあることのために全力を尽くして活動をする。それはやろうとしてもそう長く続くことは少ない。

そんな中で大川は自分のやりたいことややりがいを求めてずっと大人数の前でアイドルをしてきたのだろう。


「大川がmegumiとして活動している姿を間近で見るのはこれで2回目だな……。」

「2回目……あー。そういうことですか、あのインタビューは素の私を結構出してたつもりだったんですけどね……。」

「逆にあの時に素が出してたと思ってるなら逆にすごいな……。」

「ちょっとバカにしてませんか?」

「そんなことないって!」

「ならいいですけど……。」

あの時の大川は確かに少しはいつもの大川のような感じだったかもしれない。しかし、これまでの経験上からなのか、少なくとも僕が普段見ているような大川ではなかった。

「それにしてもついに大きな会場でライブかぁ。大きくなったなぁ……。」

「須井くん別に親でもないでしょう。何でそんな親みたいなことを……。」

そう言って大川は少し呆れた顔をしながら僕の方を見てからくすくすと笑いだす。


「なんだよ大川、こっち見て急に笑って……。」

「いや、なんかちょっと面白くなっちゃって……。」

「どこが面白かったんだよ……。」

そう聞くと大川は内緒ですとだけ言ってまたくすくすと笑い出す。

「まぁ、何か大川の笑いになれたならよかった。」

「そういうことはあんまり軽く言わない方がいいですよ……ふふふ。」

大川は笑いながらそう僕に注意をしてきた。

「大川だから言ってるんだよ……。あ、紅茶のおかわりいるか?」

「すぐ須井君はそういうことを言うんですから……。」

そう言いながら大川は耳の辺りをを少し赤くしてカップを僕の方へと渡してくる。

僕はそのカップに紅茶をなみなみに入れた。

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