伝統的なお供え
「私をずっと見てくれていたお手伝いさんは、元はと言えば共働きだった両親の代わりに来てくれていた人なんです。」
「なるほどな……。それで一番仲良かったし大切にしてもらえてたんだな?」
「そうです。でも、両親としては私を厳しく教育して欲しかったみたいで……。いつの間にかそこの方向性の違いから来なくなっちゃいました。」
「そうなのか……。向こうの連絡先とかは聞いてないのか?」
「結局聞けずじまいでしたね。」
そんな大川の話を聞きながら僕はなんとかしてもう一度大川とお手伝いさんを会わせてあげたいと強く思った。
しかし、ヒントが無いようではどうしようもない。どうするかは少しずつ決めていくことにしよう。
「でも、もう1回会えるとしたら会いたいだろ?」
そう聞くと大川はりんご飴の最後の一口を齧り終えた後で、コクコクと頷く。
「そうだよな……。そんな恩がある人、お礼とか言っておきたいよな。」
「そうですね……。私がこうやってアイドルをしていることも、もしかしたらどこかで見て知っているかもしれませんからね。」
そうじゃないか。これだけ大川を可愛がっていたという話があるなら、こんな大物アイドルになっている大川を褒めて褒めまくりたいはずだ。
「そうだ、今度お前のお母さんに聞いてみたらどうだ?あの人なら何か知ってるかもしれないぞ?」
そう言うと大川はハッとした顔になる。
「確かに……。そうじゃ無いですか!お母さんなら何か知ってるかもですね。今度メール送ってみましょうか。」
そう言いながら奥に進んでいく。大きな鳥居が見えてきて、僕と大川はそれを慎重にくぐる。
「これが豊作祭の時の神社ですか……。」
「そう、面白いよな。こうやって入った人は入口のところで稲を受け取ってそれをこの賽銭箱の前の入れ物に入れるっていうのは昔からの慣わしらしい。」
この稲を供えるのはもともとは近隣の米の豊作を祈ってい行っていたらしいのだが、それがいつの間にか規模が大きくなっていき全国の豊作を祈る儀式へと変わっていったというのだ。
「もうこんなに沢山の人が豊作を祈ってやってきてるのですね……。流石は全国規模として扱われているお祭りなだけありますね。」
僕たちが稲を供えた頃には、既に片方の箱は稲がこれ以上は入らないというほど入っていた。
「お供えも終わったし、あとは自由にゆっくり見て回るか。あ、でもその前にいつもみたいにあのお稲荷さんに挨拶だけはさせてくれないか?」
「もちろんですよ。私も挨拶していきたいです。」
花火まであと3時間。まさかその花火の時にあんなことを言われるとは、僕は思ってもいなかった。
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