下準備

「2人はもう夫婦見たいね。一緒にこうやって手伝いに来てくれるなんて……。」

そう言って母親はうっとりとした顔をしながら天ぷらの用意をしていく。

「ちょ、別にそういうのじゃないからな?」

僕はそう母親に釘を刺したが、マイゾーンに入り込んでしまった母親に届くわけもない。

仕方がなくそういうムードになってしまった空間で僕と大川は母親の手伝いをする。

「じゃあ大川さんには天ぷら手伝ってもらおうかしら。淳はご飯と味噌汁お願いしてもいい?」

ご飯と味噌汁はよく小さい頃に両親の料理を手伝っていた際にやっていたので、要領はわかっている。

それに1人暮らしを始めてから最初の方はしっかりとした食事を作っていたので、ご飯と味噌汁も作っていたのだ。

「今日は何合炊けばいいかなっと……。」

1合で大体2人分が炊けると昔母親が言っていたのを思い出し、僕はお米を3合分炊飯器に入れる。

味噌汁は大体の目分量で水を入れ、そこに根菜を入れじっくりと煮込んでいく。

しばらくして根菜が柔らかくなってきたら豆腐を入れ、お玉に乗せた味噌を溶かしていく。

「味噌汁はできた。あとはご飯が炊き上がるのを待つだけ。」

そう言うと母親は今度はこれから天ぷらにしようとしている野菜などを切っておいてほしいと言ってきた。

にんじん、アスパラガスそしてエビやホタテ……。

上げればキリがない程の食材を下処理して切ってをした。

人参などの根菜は少し低めの温度の油でゆっくりじっくり揚げないと固くなってしまう。

なので、他のものを揚げ終わったあとに回せばいいのである。

えびの背わたを抜き、切込みを入れる。

そこに串を通せば揚げる時に真っ直ぐ綺麗に揚げることが出来る。

「用意できたよ。」

「ありがとね2人とも。あとはもう大丈夫よ。」

そう言って母親は僕たちに冷凍庫からなにやら取り出して渡してくれる。

手に渡されたのは小さなチョコアイスだった。

「残りの2人には内緒よ?手伝ってくれたお礼だからね……。」

そう言って母親は僕と大川に1粒ずつシートから切り離してチョコアイスを渡してくれた。

「冷たくて美味しい……。」

「少し季節外れなのはしょうがないけどそれでも美味しいからいいか……。」

僕と大川はキッチンでこっそりとアイスを堪能した後で小屋の方へと戻る。

小松と村川の方も2人で持ってきたカップ麺にお湯を注いでいるところだった。

「お、2人とも戻ってきた。食べるか?」

そう聞かれたが、僕達は首を横に振った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る