空白感

『この休みの期間に友達を連れて豊作祭の時期に帰るつもりです。家の近くで空いてる宿とかってあるっけ?』

僕はそうメッセージを親に送ってスマホを閉じる。

この時期の豊作祭は一度メディアに報道されたこともあり、人がたくさん訪れる。

宿が取れないことも多々あるため、一応確認をしておかないといけないのだ。

今日は大川はレッスンがあるらしく、事前に持ってきてくれていた作り置きが冷蔵庫に入っている。

「鳥の蒸し物か。いいな……。」

僕は冷蔵庫からタッパーを取り出して上にくっついているメモを読む。

『実はそろそろライブに向けたレッスンが始まるのでこうやって作り置きになることが多くなると思います。私の労力については気にしないでください。1人分が2人分になっているだけなので。あと、この鶏肉は温めずに常温より少し冷たいくらいで食べるのがおすすめです。横にタレも入っているのでそれをかけてどうぞ。』

メモの後半を見た後でもう一度冷蔵庫を覗いてみると、確かに小さな器のようなものがある。

取り出してみるとそこにはネギの入ったタレがあった。そして、ラップには丁寧に鶏肉用とまで書かれていた。

「本当に至れり尽くせりだな……。一応僕も料理はできるんだけどなぁ……。」

そんなことを呟きながら僕は冷凍庫からご飯を取り出し、電子レンジに入れる。

その間に鍋に丁度いいくらいの水を入れて大根とネギを入れ少し煮込み、味噌を入れる。これだけでも簡易的な味噌汁になる。

僕はこの味噌汁に少しだけごま油を垂らすのが好きだ。簡素な味噌汁でも豚汁のような感じになって美味しいのだ。

「いただきます。」

僕はテーブルに食器一式を並べると食事をとる。いつもなら目の前で一緒に食事を食べている大川がいない。それがなんだか非日常のような感じがして悲しくなってくる。

いつもなら何か話をするこの時間。しかし1人だと何も話すことは無く、ただ食事を食べる生活音が部屋に響くだけだ。

「ごちそうさまでした。」

僕は食器を片付け、洗剤で洗う。

あれ、いつもならこの後何をしていたっけ。

そうだ、大川とソファでゆっくり話しながらお茶でも飲んでいたっけ。

でも、今はお茶を淹れる気にもなれない。

この空白をどうにかして埋めたい。その気持ちしかなかった。

「これ、完全に僕の心が向こうに吸い取られている状況だよなぁ……。」

そんな独り言を呟きながら僕はなんとなくでソファに座る。

もしかしたらこの気持ちが……。などということが思いつきそうになったが、今の僕にはそれをもっと深堀する気力はなかった。

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