1粒

「わ!大きな農園!ここに沢山ぶどうがあるんだね……!」

着いた農園は道路沿いの場所なのだが、土地が広いおかげもあってか入り口の狭さに反して農園がとても大きく見える。

「4名でご予約の須井さんで間違い無いですね?」

受付の小屋のような場所から出てきたおじさんが僕たちに確認を取ってくれた。

確認が済むと平たい竹のバスケットが渡され、ブドウ狩りについての説明がされる。

「この農園では出荷用と観光客用を分けております。そこの黄色いテープが貼られている場所より先は出荷用ですのでお手を触れないようにお願いします。」

言われた方向を見てみると確かに黄色いビニールテープが巻かれている場所がある。

「あぁ、たまに質問がありますけれども黄色いテープからはみ出しているものに関しては届くのであれば取っても構いませんが、くれぐれもハシゴから落ちるなどの怪我だけはないようによろしくお願いします。」

そう言った後で案内をしてくれているおじさんは試しにと言ってぶどうの切り方を教えてくれた。

「ここの房の部分を優しく引っ張ってそこから枝を狙ってこうです!」

パチンと気持ち良い音がした後で、ぶどうがおじさんの手の中にあった。

「こんな感じで取れば綺麗に取れますよ。」

そう言っておじさんは僕たちにぶどうを手渡してきた後で席に案内してくれた。

「ここの席があなた達の予約を取ってあります席です。」

広めのテーブルが2つ並んだこの席は、ぶどうを取ることのできるエリアから一番離れた場所に位置していた。

「まぁ、まずはこの貰ったのを食べてみるか?」

村川がそう言ってぶどうを口に運ぶ。

説明のために低い位置で取ったものなのでとびきり美味しいということはないだろうと思っていた。

しかし、あのぶどうを一粒食べた後で村川はもう1粒と無言で手を伸ばし始めたのだ。

「美味い……。」

そう小声で呟いた後で村川はどんどんとぶどうを食べ進めようとする。

流石にここまでくると僕たちも気になるので一旦待ってもらって僕たちも1粒食べてみることにした。

「え、まじか。」

「嘘でしょ!?」

「これはすごいですよ……?」

僕たちは3人揃って同じような反応をしていただろう。

低い位置だからと半分舐めていた。しかし、そんな事はなく、びっくりするくらい美味しいのだ。

「すごいです……これは。どうやったらこんなことが……?」

大川もその味の良さは認めているようで、必死にどうやってここまで甘さを引き出しているのかを考えていた。

最初のぶどうの時点で僕たちはここの農園の虜になっていた。

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