白熱トランプ対決

「実は俺、こんなの持ってきたんだ!」

そう言って村川がリュックの中から取り出したのはトランプ。

「お、歩やるじゃーん!うちらの暇つぶしのために持ってきたの?」

「当たり前だろ?移動時間どうせ暇になるんだから!」

蓋はそう言ってキャッキャと話している。

「どうだ?2人もババ抜きやるか?」

そう言って村川はトランプをシャッフルし始める。

「いいですけど、やるなら静かにやりますよ?他のお客さんもいますからね。」

僕の言いたかったことを代弁するかのように言った後で大川は村川と小松からトランプを受け取る。

「須井もやるっしょ?はい、これ!」

そう言って小松は僕にトランプを渡してくる。

「っと……!ありがとう。」

半分投げられるような形でカードを渡されたので落としそうになったが、なんとかキャッチをして手札を見る。

揃っているのは8と2。そして手札には一枚のジョーカー。

自分の手札に来てしまったかと思いながら、どうやってこのジョーカーを相手に回すかを考える。

昔どこかの記事で読んだことのある内容を思い出した。

序盤はカードの高さをまばらにして中間くらいの高さにしておくと騙されて引く人が多いという。

隣の大川からカードを引いてさらに4も揃ったので捨てた後で、僕はカードをまばらな高さにする。

「おいおい、そんな細工したって取られたくないカードは取っちゃうぞ?ほら!この真ん中だ!」

そう言って村川はまんまとジョーカーを引いていった。

途端に村川は先ほどの元気が消え、真剣な顔になり始める。

「あれー?もしかして歩ババ引いたの?まじ?」

そう言いながらカードを引いた小松の顔が今度は真剣な顔に変わっていく。

「なるほど……小松さんの方にいきましたか。」

そう言って大川も小松からカードを引く。

しかし、その後も表情は変わらずに余裕な感じだ。


僕は一瞬大川のその表情に安堵しかけたが、同時に疑いも持った。

大川はアイドルや役者をやってきていて日常から演技が得意だ。そんな大川のことだからババを引いていたとしても表情を変えずにこちらへカードを向けてきている可能性がある。

そして、大川の手札の中には1枚だけ明らかに飛び出ているカード。

これはジョーカーかそれとも普通のカードなのか。

僕は悩みに悩んだ結果、大川の手持ちの一際目立つ置き方のカードを引く。

そして手札に加えて恐る恐る見てみる。

すると、それはジョーカーのカードではなかった。

その瞬間、大川が少し悔しそうな表情をしかけたのを僕は見逃さなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る