あの日のように

「大川〜、来たぞ。」

そう入口のインターホンに話しかけると、しばらくして扉が開く。

正直病人にドアを開けるのを頼むのは気が引けるが、だからといってドアを割って入り込む訳にも行かないので仕方が無いのだ。

「大丈夫か……?」

僕は鍵を開けてもらった大川の部屋へと入り、買ってきた諸々のものを出していく。

「何とか……。それにしても色々買ってきましたね……。」

そう言って大川はベッドから立ち上がってこちらへ少しフラフラとしながら歩いてくる。

「大川、無理して歩かなくていいからな!?ちゃんと休んどいたほうがいいぞ?」

そう言うと大川は少し僕の買ってきた物を見たあとでお言葉に甘えてと言ってまたベッドに戻って行った。

「全く……。大川は体調悪くても無理することがあるからなぁ……。そこはあの時から変わってないのか……。」


僕はふと大川と最初にあった頃を思い出す。

足を打撲した大川も何度もお礼にと家を尋ねて来ては足の痛みに苦しんでいた。

「大丈夫です……少し痛いだけなので……。」

そう言う大川はあの時も無理をしている顔をしていた。

「無理は禁物だぞ?感謝の気持ちはいつでも伝えられるけど体のことは今しか出来ないからな?」

当時の僕は大川にそう返した記憶がある。

「そうですよね、無理はしないようにしますね。」

毎回のように大川はそう答えるのだが、必ずまた無理をするのだ。


「どうして無理してまで色々しようとするんだ?」

そう大川に聞いたことがあった。

「多くは語れませんが、両親のようにはなりたくないからです。」

その時は大川はそう答えてきた。

あの時の大川は母親との関係もほぼなかったのでそう言っていたのだろうが、今なら父親のようにはなりたくないと言うだろう。


「全くもう……須井くんは……。」

大川が寝言とは言えども僕のことについて語っているのを盗み聞きするのはどこか恥ずかしくて、ムズムズする。

「大川、起きろ〜。冷やしたタオルとか持ってきたから。」

んぅ……と言いながら目を覚ました大川は僕からタオルを受け取るとおでこ周りを拭き始める。

「体も拭くだろうから一旦外にいるからな?30分後くらいにまた回収しに来るから。」

そう言って部屋を出る。

僕はその間に買ってきたレトルトのお粥の用意を始める。

お湯に入れて器に出すだけの簡単なものだが、何も食べないよりは何倍もマシだろうということで独断で買ってきたものだ。


いつも手間をかけて料理を作ってくれている大川に脱帽しつつ、僕はお粥を温める。

ちょうどいい頃合で温めていたので、大川に暖かい状態で渡すことが出来た。

「あとはもう大丈夫ですから。」

そういう大川に僕はまたこの言葉を言う。

「無理はするな、頼れる時に頼って欲しいんだ。体のことは今やらないといけないことだからな。」

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