飲み込まれるペース

「どうだった大川。楽しめたか?」

ニコニコで戻ってきた大川に僕はそう尋ねる。

「はい、とても楽しめました。そのうち須井くんにもあの静かな場所に案内してあげたいものです……。」

「もしかしてあの人工林のところか?」

静かに休憩できるところといったらあそこしか僕は思いつかない。

「え、もしかして須井くんってエスパーだったりしますか……?」

「いや、昔は僕もよくあそこでお昼を食べたりしてたから覚えてるんだ。」

「まだ私と会う前の一匹狼の頃の須井くんですね?」

「なんかその言い方気に入らないからやめてくれないか……?」

大川の揶揄うような言い方に僕は軽くツッコミを入れる。

「冗談ですよ。間にうけないでください。少なくとも今の須井くんはそんなことないじゃないですか。」


「あ、僕が配膳の番だ。大川、ちょっと行ってくるわ。」

大川の元を離れて客席の方へと向かう。

「すみません」

声をかけられたので注文を取るためのメモを手に取り、呼ばれたテーブルへと向かうと1人の少女が座っていた。

「あなたが、大川さんの彼氏さんですか……?」

急にこんなことを聞いてくるお客さんなんて変な人しかいない。そう思った僕はすぐに距離を取ろうと思った。

「それは答えかねますお客様。注文しないようでしたらご退店願います。」

「あぁ、ごめんって!パンケーキ頼むから!代わりに言い訳を聞いて!」

そういって席の少女はこちらをじーっと見てくる。

「分かりました。少しだけ聞きましょう。」

これ以上無視するか何かすると面倒なことになりそうなので僕は相手に合わせることにした。


「あ、あのーさっき大川さんと1人女の子が出かけてましたよね?あれが私です。」

言われてみれば確かにそうだ。後ろ姿しか見ていなかったので今まで全く気づかなかったが、よくみれば服などが同じだ。

「なるほど。噂に聞いた大川の旧友ってのは……。」

「そう!あたしのことなんです!で、どうです?答える気になりました?」

そう言って少女はこちらをじっと見てくる。

「ちょっとあやなん!何してるの……!」

「あー!めぐみん来た〜!この人がめぐみんの彼氏?」

「そういうデリケートな話は後でしましょう?今は私もこの人も忙しいので。」

そういうとあやなんと大川から呼ばれていた少女は一旦治ったのか、大人しくなる。


「はぁ……私の旧友の彩菜がすみません。」

裏で大川は僕に頭を下げてきた。

「いやいや、大川が謝ることじゃない。それに何故かちょっとあいつの性格が面白いと思ってしまった……。」

「あー……そう思ってしまったらもうおしまいです……。向こうに飲み込まれますよ。」

そう言って大川は苦笑いしてきた。

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