学校での噂

「おい、これ見ろよ!」

ババ抜きを僕としていた村川がスマホの画面を見せてくる。

そこには小松からのメッセージが書かれていた。


『今SNSで大川さんのお父さんが虚偽の情報を書いて大暴れしてるの。大川さんがインタビューどうせ受けるだろうからその時に手伝って欲しいって言ってた!今は無理に刺激しないほうがいいって本人が言ってました!』


「まじやん……大変なことになってるぞ。注目の投稿も大川さんのことで埋め尽くされてるぞ……。」

僕もスマホを開き、SNSアプリを見てみると、もうそれは酷いものだった。

ほとんどが事実無根の内容、海外のアカウントが見られているのをいいことに切り取って別のアカウントのコメント欄に貼り付け。そこからまた拡散。完全に負の連鎖が出来上がっていた。


「おい、これを黙って見てろっていうのか……?まじで言ってんのかよ!?」

村川はさっきからこんな調子でずっと頭を抱えて騒いでいる。

「村川、騒いだってどうしようもないんだから今は耐えて待つしかない。」

大川の言う通り、今は待つしかないのだ。下手に動いては相手の思うつぼだ。

「くっそ、どうしたらいいんだよ!」

「いいから黙って見ておくしかないだろ!?」

ずっと騒いでいる村川に痺れを切らした僕はつい大声を出してしまう。


「すまん、つい冷静さを失って騒いじまったな……。」

「いや、僕の方もつい我慢できずに言ってしまった……ごめんよ。」

お互いに一瞬の静寂。そして謎の悲しさ。

「いや、俺たちが悲しんでどうするんだよ。俺たちにできるのは大川のサポートだろ?」

村川のその言葉で僕は正気に戻る。

「確かにそうだな……。幸いあの学校だと大川がmegumiだってことはバレてないはずだ。僕たちもあいつのためにそれを気づかせないようにしよう。」

こちら側で決めたその内容を小松の方へと村川が送ってくれる。

それに対して向こう側も了承をしてくれた。


「問題は明日の学校だな……。絶対このことについての噂で持ちきりだ。大川さんがそれを耐えられるかだよな……。」

村川の心配していることは確かに僕も心配だ。

「噂を止めさせようとするとそれはそれで怪しまれるしなぁ……確かにそれは難しいなぁ。」

そんな検討をしているうちに僕たちは段々と眠気が襲ってきて、そのまま寝てしまった。


◆◇◆


「ねぇ、昨日の投稿見た?」

「あのmegumiについてでしょ?まじでなくなーい?」

「しかも私達と同い年なんでしょ?あり得なくない?」

偽装投稿により大川が炎上した次の朝、僕たちは大川たちと合流して学校へと向かっていると早速こんな会話をしている人が通り過ぎていった。

そんな噂をしている人が横を通り過ぎていくたびに大川は握り拳を作って下を向くというらしくない動きをしていた。


「大川、大丈夫か?」

「大丈夫です……どうせデマに流されてるだけなので……。」

そうは言っているものの、大川は既に限界が近いような感じがしている。

「まじで無理はしないでくれよ?無理すると絶対にボロが出るからな……。」

「正直言って、行きたくは無いです。でも、行かないと逆に怪しまれるので行かなくちゃいけないんです……。」

どうやら大川はクラスの一部の人からはバレてはいないものの、megumiの顔に似ていると話題になっているらしくその人達に怪しまれないかをとても心配しているというのだ。


「た、確かにそれはそうだけどその人達へのごまかしはうちらでもできるし……。」

「そうだ、小松の言う通りだぞ?そいつらが変なこと言ってたとしても俺らがどうにか言えるだろうが!」

小松と村川が諭すも、大川の考えは変わらないようだ。

「でも、嘘を言うにしても本人の口から言わないと意味がないじゃあないですか……。周りならなんとでも言えると思われたらもっと疑われてしまいます……。」

確かにそうだ。周りがいくら言ったとしてもそれは本人からの言葉ではなく、なんとでも言えてしまう。それによって疑われてしまって大川は学校での居場所が無くなるし、僕に頼んできた友達作りという目標も全てチャラになってしまう。

「分かった、大川。じゃあお前の言葉で言い訳するんだ。んで、困ったら僕たちを呼んでくれ。同一人物だって何回も登校中に疑われて、怖がってるんだって嘘で助けてやるから。」


学校に着くと大川はすぐに何人かの女子からの質問攻めを喰らっていた。

「なんか昨日アイドルのmegumiの炎上みたいなのあったけどあれ、大川さんじゃないよね?」

「顔似てるだけの赤の他人だよね?こんないい性格の大川さんがそんなことするはずないし?」

どうやら大川が心配していたほど酷いことは聞かれず、そもそも大川がmegumi本人だという考えは無いようだ。

「そうですね……。行くまでに何人かに怪しまれてすごい目で見られたので、私もそう言ってくれる人がいて嬉しいです……。」


登校中の空気とは打って変わって悲劇のヒロインのような話し方をする大川を僕たち三人は遠目で見ながらびっくりしていた。

「あれが現役アイドルの力か……演技力半端ないな……。」

「うちなら絶対あんなことできないって……。」

村川と小松は二人してとても驚いていた。もちろん、僕も驚きだった。

大川なりの心の整理がついたのだろうか。

今後のことについてもまた少しずつ考えなくてはならない。

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