薄い気持ち

「なんとか今日は大丈夫そうです……。」

昼休み、村川と小松に誘われて僕と大川は食堂へと向かっていた。

幸いなことに大川があの朝の一件以来疑われることはなく、段々と普段の大川に戻って生活をすることができていた。

「とりあえずは一安心ってとこだな。俺たちが手伝うことがなくてある意味よかったな……。みんな純粋ってことだからな。」

そう言って村川は手に普段は持っていない弁当箱を持っている。


「村川、その弁当箱どうしたんだよ。今日は学食じゃないのか?」

そう村川に聞くと、小松が後ろからこちらへ少し顔を出して返事をしてくる。

「うちが作ったんだ!もし何か問題があって学食が行けなくなったとしてもお弁当なら校舎の人気ひとけのないところで食べられるでしょ?」

「料理は気を一時的に紛らわせられるって私も言われてしまって……。」

そう言って大川が僕に渡してきたのは1つの弁当箱。

「え、大川もなのか!?まじか。」

大川から僕に向けてもらえるとは思っていなかったので、驚きの言葉が思わず出てしまった。


「はい。半分は小松さんが作ってくれたものなんですけど、残りは私が作ったものなので……。考え事をしながらだったので失敗してるかもしれませんがよければ……。」

「貰わないわけないだろうが……。色々大変な中なのに作らせちまって申し訳ないな……。」

大川から受け取る弁当は嬉しいが、こんな状況の時に作らせてしまったということに少し申し訳なく感じる。

「いえいえ、そこは気にしないでください。おかげで結構その日はスッキリしましたし……。」

そんなわけで食堂で僕と村川は小松と大川の共同作業によって作られた弁当を食べることにした。


「左半分がうちの、右半分が大川さんのだよ!びっくりしたんだけどさ、大川さん和食系統がすごい上手いの!」


小松の言葉で弁当箱を見てみると確かに左側は洋風で小さなオムレツやウィンナーの炒め物、右側は卵焼きやおひたしなどといったもので確かに小松の言う通りだ。

「ん、どっちも美味いな!すげぇよ。」

「お、本当だ。小松のも大川のも美味しい……。」

そうは言ったものの、僕的には何故か大川のお惣菜の方が美味しく感じた。

確かにどちらも美味しいのだが、なぜなのだろうと思いながら口へと運ぶ。


「あれ、須井君どうかしましたか?」

そう言って大川はこちらの方へ顔を寄せてくる。

「ゲホッ、近い近い……!少し考え事してただけだから大丈夫だ。」

大川のことを考えている時に急に本人に至近距離で子を向けられると本当にびっくりする。

本人は狙ってやっているとは思えないのだが、どうしても少しドキドキしてしまう自分がいる。

「あ、すいません……ここまで近くなるとは思ってなくて……。」

そう言って大川はスッと顔を引き下げる。

「大丈夫だ、少しびっくりしただけだから気にしないでくれ。」

そうは言ったものの、僕はびっくりしただけでなくドキドキした感覚がまだ残っている。

このドキドキだけは隠さなくてはと思いながら弁当をかき込む。

あの無自覚な感じは少し心配になるレベルで僕としても気をつけてほしい限りだ。


◆◇◆


お昼を小松さんと昨日一緒に作ったお弁当で済ませた後、私はずっと頭の中がぐるぐるとした感覚になっていた。

そう、お昼の時に考え事をしていた須井君を見て何か問題でもあったのかと思い、顔を向けた。

しかし、その時に思ったよりも須井くんとの距離が近く顔がとても近い状態になってしまったのだ。

「はぁ……落ち着いて私。大丈夫、あれは事故だから。」

自分の心にそう言い聞かせて落ち着こうとする。

表面上では何事もなかったかのように振る舞うことはできるのだが、どうしても内面は追いつかない。

何事もなかったという思考にはなれないのだ。


何より無意識にあの距離感で詰めてしまったことだ。

私が須井くんのことが好きで意識的にこちらを向かせようとやるのならいいのだが、須井くんは私を手助けてしてくれている仲間で恋愛関係を今の所もっているわけではない。

いや、持っていないというと嘘にはなるが、本気で私のものにしてやろうという気持ちではなくうっすらとあ、好きかもというような感情があるだけだ。

結局のところ、私は午後の授業は上の空で聞くしかなかった。

帰りも私はなんだか上の空で小松さんと会話をしながら帰った。

何についての会話をしたかなんてほぼ覚えていない。


でも、この1つだけは聞かれたのを覚えている。

「大川さんはもしかかして須井君のこと、好きなの?」

小松さんの家の前でそんなことを小松さんは聞いてきた。

「え、いやその……。」

「答えないと家に入れてあげないよーん?」

そうおちゃらけて言う彼女に私は今のありのままの私の真実を述べる。

「少し、うっすらとですけど、好きという気持ちはあります……。でも、まだ本気で独占したいという気持ちはないです。」

そう言うと、小松さんはふーんと言って鍵を開けながらこんなことを言ってきた。

「今はそんな感じだろうけど、そのうちその欲が大きくなってくるかもしれないよ……?うちとあゆむもそうやって今一緒にいるからね……。」






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