母・娘としてやるべきこと
あの子が小さい頃、私は酷いことをしてしまった。あの男に乗っかって色々と酷いことをした。
もちろん、当時はそれが正しいと思ってやっていたのだからその頃の私は何かおかしかったのだろう。
しばらくして、私は自分がやっていることがいかに彼女の首を絞めているのかを理解した。そして、すぐに離婚を決意した。
「もういいでしょう?こんなことをしたって愛のためにはならない。」
そう言うも、父親は認めようとせずに自分の方針を曲げなかった。
どうしようもなくなった私はあの子を連れて家を出た。しかし、あの子の両親への不信感は収まることがなく中学校へ進学するにあたって一人暮らしをしたいと言い出してきた。
これ以上彼女を苦しめたくなかった私は彼女の一人暮らしを許可した。
私は彼女の一人暮らしをサポートするための仕送りを稼ぐために海外へも幅を広げられる営業の仕事へと転職した。
その仕事はとても過酷なもので、とてもあの子の面倒を毎日のように心配できる状況ではなかった。
その結果が今、あの子が私の別れたあの男に苦しめられている原因でもあったのだ。
仕事の都合上、知らない電話番号からの電話はなんであれ出ることはできない。
そう考えてしまっていたのが問題だった。
最初は電話が何件も同じ番号から来ていてスパム系統の電話だと思ってしまっていた。
しかし、あの子は進学後に仕送りのお金を少しずつ貯めてスマートフォンを購入していたのだ。
そのことはあの子から送られてきたショートメッセージで気づいた。
内容には、電話をしても出なかったのでメッセージを送ったこと、別れたあの男のことで悩んでいることなどが簡単に述べられていた。
私はすぐにこれはまずいと思いあの男に対して電話をかけたが、すでに番号は変わっており通じることはなかった。
日本に帰ろうにも仕事が片付くのはしばらくかかりそうと言う状況でとてもではないがすぐに対処できる状態ではなかった。
そこで放置しておいたのも私のミスなのだろう。あの男の行動はエスカレートしていき、対処ができなくなるほどまでのレベルになっているという連絡がついさっき届いていた。
そこの最後のところにはこの連絡先に電話をすれば状況がわかると言う内容が書かれていた。
そこに電話をかけると一人の少年と電話が繋がり、この少年が愛のメールに書いてあった須井君なのだとしたらとてもしっかりとした人だと感じる。
私は彼と電話をしながら急いで空港へと向かうタクシーを手配する。
これは私ができる最後かもしれない親の役割なのだから。
◆◇◆
駅前のベンチで座りながら須井くんは周りを警戒しながら少しずつ話をしてくれた。
私の母親があの昔の家の場所を無事に伝えられたということ、村川君や小松さんも心配して近くの警察に行ってくれていたこと。
そのひとつひとつを私が落ち着けるようにかゆっくりと話してくれた。
「とりあえず、今別の場所で車で捜索してくれてた担任呼んでピックしてもらうことにしてるから。」
「担任の大森先生が来てくれるなら少し安心ですね。私たちではどうしてもあの人には敵いませんから……。」
ふと昨日何かがあったことを思い出しそうになったが、結局思い出せないまま大森先生の迎えの車が来て私たちは危険な場所を離れることができた。
「須井、よく大川の居場所がわかったな……。先生達みんな連絡がないから何かあったんじゃないかって職員室中がどんよりしてた空気になってたんだぞ?」
ハンドルを握りながら大森先生は後部座席に座っている私と須井くんに向けてそんな話をしてきてくれた。
私も須井くんも家が父親にバレてしまっている以上安全ではないということで、須井くんは村川君の家に、私は小松さんの家でそれぞれ下ろしてもらい、そこで数日は隠れることになった。
「大川さん大変やったやろ?うちの家はあの変な人にはバレてないから安心して過ごしてな!欲しいものとかあったら遠慮なく言ってね!うちが買ってくるから!」
そう言って小松さんは今は大学寮に引きこもって研究活動に没頭しているという小松さんのお姉さんの使っていた部屋を貸してくれた。
「お姉ちゃんに聞いたら使っていいって言ってくれたから好きに使って!うちのお姉ちゃんあと1ヶ月は帰ってこれないらしいから、安心して!」
そう言って渡された個室1つ。大人の雰囲気漂う部屋にはデスクトップパソコンが一台、そこには座り心地の良さそうな椅子、本棚には文庫本などではなく、科学系統の本が大量に置いてある。
全体的に暗いようなトーンの部屋に私は最初は慣れずにソワソワしていたが、段々とこれも悪くないなと思い始めた。
落ち着いた雰囲気の部屋は私が借りていたマンションに作っていた可愛らしい部屋とは逆でなぜか何かに没頭したくなる。
私は小松さんのお姉さんが教えてくれた方法でパソコンに新しいアカウントを作り、ネットで何か面白いことがないかとSNSをスクロールして眺めていた。
「嘘でしょ……?」
そこで私は恐ろしい投稿を目撃してしまった。
その投稿はすでに多くの人に見られてしまっており、SNSのトレンドもほぼそれで埋まっていた。
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