返信


次の日の朝、僕と大川は朝食の段階で初めてあの掃除の時以来、会話をした。

「あ、その、私の母親から返信がありました……。」

「お、おう。そうか……。何て、帰ってきたんだ?」

「後数日で仕事がひと段落するからどうにかする、と。」

お互いに昨日のことがあってからというもの、距離感が遠のいてしまっている。

「えっと……あれだ、昨日は……すまない。」

そういうと大川は黙り込んだ後で、頷いてきた。


「いいえ、あれはしょうがないですよ。不慮の事故です。」

「ま、まぁそうだよな。僕としてもわざとやったわけではないし……。」

そんな会話をしながら上の空で作った食パンを目玉焼きをお互い食べる。

そして、お互いバラバラのタイミングで庭から外へと出る。本当はお互いにある程度近い距離で登校した方が何かあった時にいいのだが、今の僕たちにはそんなことを考えることはできなかった。


「よう、須井。っておい、大川はどこだ?」

学校前で会った、事情を知らない村川は僕にそう尋ねてくる。

「いや、色々あって別々で登校してる……。」

そう言うと、村川はふーんと言って何か言いたげな顔をしていたが何かをためらったのか言うのをやめたようだ。

「まぁ、いいや。色々あったんだな。んじゃあ俺が一応様子見てくるから、小松が来たら先に行ってくれと言ってたと伝言してくれ。」

そう言って村川は僕の家の方へと走っていった。こう言う時に協力してくれる人がいるというのはとてもありがたいことだ。

しばらくして、小松がやってくると予想通り僕に対して村川のことを聞いてきた。

僕は事情を話し、村川が大川の様子を見に行ったことを話すと小松は私も行くと言って僕の家の方へと向かっていく。

僕はどうしようかと悩んだ末で、心配なので小松についていくことにした。

しばらくした後で、一人で彷徨いている村川に僕と小松は出会った。

「村川、大川はどうした?」

そう聞くと村川は申し訳なさそうな顔をした後で、こう答えてきた。

「目の前で大川のクソ父親に連れていかれた……。やられた……。俺がもっと早くここに来ていれば……。」

それは違う。そもそもと言えば僕の責任だ。大川と関わるのに気が引けるからといって別々に来たのが悪いのだ。

「村川、学校に僕は休むと連絡を入れておいてくれ。」

「は?」

「言った通りだ。学校に伝えといてくれ。」

これは僕の責任だ。僕が責任を持って探すしかない。

「お前、大川を探しにいく気か?」

村川はそう僕に聞いてくる。当たり前だ。それ以外に何がある。そう思っていると、村川がこう口を開く。

「馬鹿野郎!お前一人で探し切れる訳ないだろ!俺も一緒に探す!」

「うちも探す!人手は多い方がいいでしょ?」

3人で探すことになった僕たちは担任の先生に電話をすると、先生は焦ったようにこう言ってきた。

「ちょっと待ってくれ、それは君達だけで解決していい問題じゃないぞ!?先生も休み時間とか、授業のない時間は学校周りを探す!とりあえずは大川のお父さん?今もそうなのかは分からないが、電話番号は学校に登録されたのがあるからそこに電話してみる。何か危険そうだと思ったらすぐに学校宛に電話するように!空いている先生を向かわせる。」


そんなわけで、先生ほぼ公認で大川を捜索するために僕たち3人は学校を休むことにした。

「そういえば、村川。その車のナンバーとか控えているのか?」

そう聞くと、村川は咄嗟のことで覚えていないという。

「ごめんよ、須井。俺がナンバーか何かヒントになるものを控えてれば……。」

そう言って村川は僕に向けて謝ってくる。

違う。悪いのは僕だ。

「ま、まぁ!そんなこと言ってても変わらないんじゃない?うちらで全員違う方向に向かえばいい感じに分散できるんじゃないかな?」

小松の提案で、学校側以外の3方向に僕達はわかれる。

村川から聞いた覚えている限りの車の情報を手にして僕達はそれぞれの方向を探しに行く。


「大川!いるか!」

そう大声を出しながら探していると、電話に着信がくる。

「須井!大川の父親と連絡が着いたぞ!」

「本当ですか!?彼はなんと……?」

「『前の場所で待っている』とだけ言って切って行ったぞ。何が何だか先生には分からない。」

前の場所、そう言われて思いつくのはひとつしかない。

「先生、ありがとうございました!」

僕が思いつくのは大川が前両親と暮らしていたという家。

しかし、その場所が全くもって分からない。

大川と昔話した時のことを思い出す。何かヒントがあるかもしれない。

「そうか……。そういえば!」

大川と話した時のことを思い出し、ひとつの結論に行き着く。

あの場所しかない。大川が今朝、母親からのメールを読んでくれた時に言っていた地名。あそこだ。

僕は場所をケータイで調べ、近くの大通りまで出てタクシーを捕まえることにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る