頼みの綱

「母親は少し前までは連絡がついていました。でも、この数ヶ月の間1回も連絡が繋がらなかったんです。」

大川の母親は離婚する前から各地を回るような仕事をしているという。

海外に行っている時には連絡がつかないことが多く、たまに国際電話で状況を確認してくるような状態らしい。

「じゃあ、しばらくは俺たちでどうにかしなきゃいけないってことか!?」

村川は退路なしなのかというようにガッカリしたように顔に手を当てている。

「いえ、方法はあります。」

「え、だって連絡がつかないんだろ……?俺らには向こうで使っている電話も分りっこない!」

「いや、村川。大川の言う通り方法はあるかもしれない……。ただ、僕が思う方法でできる確率は多くて1割。おそらく大川はもっと別の方法を用意しているんだろう。」

僕の考えている方法は国際電話の総括しているところへ電話をかけ、電話帳検索から特定をすると言う方法だ。

しかし、それでは莫大な時間がかかってしまう。

「今、私は気づいたんですよ。なんで電話ばっかしているのかと。」

そうか、いくら海外とは言えどもWi-Fiのあるエリアは存在する。そこに着いた時に確実に状況を伝えられる手段があるではないか。

「須井くんは気づいたみたいですね。そうです。母親の電話番号宛にショートメッセージを送ります。」

そう言うと、小松と村川の二人も納得したように頷く。

「そうか!そうすればうちらの直面している問題は伝わりやすいってことね!」

そんなこんなで、大川は母親に今の状況についてを文面上で説明していく。

「よし、送信できました。後は返ってくるのを待つだけです。」


ひとまずは安心できた僕と大川は村川を玄関から、小松を庭から見送るとお互いからふぅと息が漏れる。

「なんか疲れましたね……。」

「そうだな……。村川と小松はそういうやつだからな……。」

「お茶でも入れましょうか。」

大川はそう言ってキッチンへと降りていく。降りた後数秒後に大川にしては珍しく、少し大きな声で僕を呼んできた。

「そうだ、須井くん!家の片付けをしようと言おうとして忘れてました!綺麗に整頓しているふりをして汚いじゃないですか!ほら!この食器棚でさえ……!」

僕はこの大川の反応の仕方に何か既視感があった。そう、母親だ。僕の母親も何かとかこつけて僕に掃除をさせるときにこんな風に言ってきていた。

「ほら、須井くん!早く降りてきてください!お茶にした後で片付けをしますよ!」

大川はお茶を用意する間も何かボソボソと言っていていつもとは違う雰囲気をしていた。

「はい、須井くん。これを飲んだら片付けしますからね?いいですか?しばらくはここに居なくてはいけないのにこの感じではとても……。」

それは確かにそうだ。捨てるのをめんどくさがって端の方へ大きなゴミを追いやったり、いらないものをとりあえず段ボールに詰め込んで置いておいたり。少し雑なところがあった。

「わかった。片付けるよ。まぁ、僕の責任でもあるからね……。」

「分かればいいんですよ。そして、片付けた後も雑に置いておかないこと。いいですか?」


そんなこんなで大川と僕はとりあえずキッチン周りと隅へと追いやられているようないらないものの片付けをし始める。

「では、私はこのキッチンの食器棚を片付けるので、須井くんは段ボールの中のものを整理してください。」

大川はそう言っている間も手際よく食器棚の食器を片付けていく。

僕は大川の用意してくれた燃える燃えないのゴミ袋に段ボールの中に入っていたものを分別していく。

「大川、これはどっちに入れればいい?」

「えーっと?それは燃えない、こっちは燃える、そっちは燃えないですね。」

大川の指示に従って少しずつゴミを分けていくも、袋がいっぱいになる。

「大川、少し失礼。袋を取り出したい。」

僕はキッチンの下にある棚から大きな袋を2枚取り出す。

そして段ボールのものも、食器棚の片付けも終わり、あとは段ボールを出すだけになった。

「あとはこの段ボールを外に出すだけですね。」

この区画ではゴミ回収は家ごとなので、段ボールなどは家の前に置いておくことで、業者が持っていってくれるのだ。

大川が玄関へ向かっていると、大川の段ボールが扉の淵に引っかかる。

「きゃっ!?」

引っかかった反動で転びそうになった大川を僕は咄嗟に段ボールをその場に置いて抑える。しかし、咄嗟に動いた後で僕は何故かその行為が間違っていたかのように感じてしまった。ただ転ぶのを防いだだけじゃないか。なぜそんなことを考えてしまうのか。

「あ、危なかったです……須井くん。ありがとうございます。」

平然と装っている大川も顔までは分からないが、耳の辺りが少し赤くなっている。

「き、急にこんなことしてごめん。悪気はなかったんだ。」

とりあえず思いつく最善の言葉を述べる。

「わ、分かってますよ。須井くんはそんなことを悪意を持ってやる人ではないと信じているので。」

その後、大川と僕はそのまましばらく話せなくなっていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る