承諾

村川と小松、そして大川と僕は職員室に来ていた。手には外出許可証の申請書。

申請はしっかりと通ったので、あとは規約を読み署名をするだけなのだ。

「よし、4人とも事情は確認した。明日の昼休みの期間の校外での活動を許可する。」

そう言って担任の先生は僕たちにチケットのような物を渡してくれた。

この学校では過去に、休み時間での校外に出ることが許可されていたらしい。しかし、とある代の先輩達が揉め事を起こしたせいで、そのルールは消えていった。

しかし、その後も様々な理由で校外に出ることを希望する人が続出。その結果、申請をして許可が出れば校外へ出ることが許可されるようになったのだ。

今回は大川の家庭事情にも関わっているということで許可が降りた。

他の学生は外食やら何ならの理由で突っぱねられるが、家庭の事情などは申請が簡単に通るのだ。

「本来なら大川だけの許可なのだが、事情も事情だ。今回は特例で許してやろう。ただし、伝えたこと以外の内容を行った場合は厳重に処罰をするから気をつけてほしい。」

先生のその言葉を確認して、僕たちは職員室を出る。


「では、明日はお昼休みが始まり次第すぐに南校門の前に集合でいいですか?」

大川のその言葉に僕たち4人は頷く。

その後、僕は下校限になると学校からほとんど生徒が出て行った段階で大川、村川、小松と共に南門から学校を出る。

もし、大川の父親が僕の家の前に張り込んでいたら小松、村川どちらかの家に避難してもらうという算段だ。

しかし、僕の家まではまだ嗅ぎつけていないようで張り込みはされていなかった。

「お、誰もいねぇじゃん。よかったな大川さん。」

村川はそう言って一足先に僕の家の前まで向かった後で、こちらへと引き返してきた。


「ちょっと待て、なんかここから死角の路地の角に変な男の人がいるんだが、もしかして……。」

大川の元父親はすでに僕の家を嗅ぎつけていたのだ。

「しょうがない……正面玄関は諦めよう。」

「正面玄関?お前の家、裏の玄関なんてあったか?」

村川の言う通り、僕の家には裏玄関はない。だが、大きなガラス窓のある庭があるのだ。

「村川。昔バーベキューしたあの庭、覚えているか?」

「おぉ、覚えてるけど……まさかお前!」

「そういうことだ。お前に玄関の鍵を預ける。入ったらすぐに正面の鍵をかけて庭のガラス窓とフェンスを開けて欲しい。」

まだ相手が裏口に気づいていないうちはこの方法でどうにかなるはずだ。

村川は僕から鍵を受け取るとすぐに正面玄関へと入っていく。相手に動きがないのを確認し、僕たちも庭の方へと回る。

村川は既にフェンスの前で僕たちを待っていたようで、すぐに僕たちを中へと入れてくれた。


「ふぅ……ヒヤヒヤしたぜ……。路地にいた男の人もこっちを一瞬睨んできたけどなんか人違いかって思ったのか動いて来なかったから助かったぜ……。」

そう言って村川は僕の置いた鞄へと寄りかかる。

その後で一瞬動きが止まった。

「ん?なんだこれ。」

村川が差し出して来たのは、機械のような謎の黒い小さな物体。

「これは……須井くん、今すぐそれを外に投げ捨ててください!」

大川に言われて、僕は外へとの物体を投げ飛ばす。

「投げ飛ばさなきゃいけないものなんて1つしかないよね……?うちでも分かるよ……。」

そう、全員の脳裏に浮かんだのはGPS発信機。

「どうりでバレている訳だ。鞄がずっと同じ位置にあればそりゃあ僕の家の場所を特定できるわけだ。」

そして、村川が家の鍵を開けた時も動かなかった理由がすぐにわかった。

「でもよ、さっきの機械を警察に突き出したらどうにかできるんじゃないか?個人情報を取ろうとしたとかで。」


村川の言っていることは理にかなっている。確かにそうなのだ。だが、リスクの方が大きい。

「この街には警察署は1つしかない。もし、途中で向かっているとバレたらおそらくどこかで待ち伏せされて終了だ。」

そう、大川の元父親は車を持っているので、自転車しかない僕たちに取っては分が悪いのだ。

「でも、このままやられっぱなしってのも無理だろ!?そのうちどこかしらでバレる。」

村川はそう言ってうんうん唸り始める。

「なら、私にいいアイデアがあります。」

そう口を開いたのは大川だった。

「え、大川さんいいアイデアあるの!?うち気になるんだけど!」

小松がそういうと、大川は口を開く。


「私の母親に協力してもらいます。しばらく会ってはいませんが、状況を説明すれば手助けしてくれるはずです。」

そういえば、大川は母親の方は父親の制度に反対していたと話していた。確かに母親の力を借りればどうにかなるかもしれない。

「で、お前のお母さんはどこにいるんだ?行くなら危ないだろうし、俺も同行するぜ?」

村川がそう聞くと、大川は何かボソッと言った。

「ん?すまん、聞こえなかった。もう1回いいか?」

「わから……ないんです。」

その言葉に村川は更に混乱したようだ。

「何がだ?」

「母親がどこに今住んでいるのかわからないのです……!」

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