退路なし
「お前が誰だかは分からないが、そのうち痛い目を見るぞ?覚悟しておけ?」
そう言って去っていった大川の元父親は、その後どこに行ったかは分からない。
ただ、なんとか大川が連れて行かれることを防ぐことができた。
しかし、その代わりに大川の活動に必要な様々なアイテムは大川の家に置いてきたままなのだ。今のままでは大川は確実にアイドル化活動を継続できずに父親に確実に捜索され、どうなるかは予想できる。それだけは防がなくてはならない。
「この先どうするか……だよな。一応僕の家に空き部屋が一個あるからとりあえずはそこに避難してもらうとして……。」
「アイドル活動をこの先どうするか……ですよね?数日後にはライブがあるんですけど、今家に衣装を取りに行くのはどう考えても無謀ですよね?」
その計画は確かに無謀だ。それにどうやって大川の元父親の監視を逃れるかという問題もある。
「大川の父親がもしも、だ。もしも監視してるのが学校期間以外だとしたらお昼休みに外出許可を二人で貰いに行って回収するってのは1つの手だぞ?」
そう言うと大川は少し考えるような素振りをしてからこう言った。
「それが一番現実的なんですけど、とても二人で運び切れる量ではないですよ。最低でも4人はいないと休み時間の間には……。」
4人。そして大川のことを知っても何も言わなそうな人を2人。思いつくのはあの人達しかいない。
「大川、村川って言って分かるか?」
「あぁ、あのほぼ毎朝のように先生に何かしら言われている人ですね?」
「そうだ。村川とその幼馴染の小松を助っ人として呼ぼうと思う。信頼性は僕が保証する。」
そう言うと、大川は今1回ここに呼んで欲しいと言って来た。
村川に電話をかけると小松を捕まえてすぐ行くと電話越しで言ってくれた。
1時間後、玄関のチャイムが鳴り二人が家へとやってくる。
「お邪魔しまーす!須井の家に来るのはいつぶりかなぁ……!」
「おひさー!うちのこと覚えてる?小松だよ?1回だけあったことあったよね?」
テンションの高い二人を一旦抑えさせて、ここから先にする話についてを説明する。
「この先話すことは口外禁止、そしてマジで真面目な話だ。ふざけは厳禁。分かったな?」
そう言うと二人は急に真剣な顔になって頷く。
それを確認した僕は2階にある大川のいる部屋へと案内する。
「ここに今回の依頼人がいる。できれば協力してやってほしい。」
そう言ってドアを開けると二人は驚いた顔をする。
「え、お、大川さん……?」
「大川さんじゃん……!?え、あのうち的に可愛いランキング1位の大川さん!?」
村川の反応は普通だとして、小松のうち的に可愛いランキングはよく分からないが、今はそんなことを話している暇はない。
「お二人ともありがとうございます。実は……。」
そう言って大川はここまでの経緯をまずはアイドルという身分を隠して語る。
「はへー、そんな厳しい親……いや、親じゃないのか?まぁいい。今でもいるんだな。」
「うちもびっくりだよ……!なにそれ!ひどい話だよ!」
そして、二人とも協力すると言ってくれた。ここからが問題だ。大川はこの状態で終わらせることもできる。だが、確実に運ぶときに色々と言われてしまう。
「お二人にもう1つ伝えなくてはならない真実があります。今からいうことは本当に口外禁止ですよ?」
二人は頷く。それを見た大川は頭のウィッグを取り外す。それを見た二人の反応は確信。目の前にいる少女が誰かを確信した様子だった。
「え……嘘だろ……?マジか?」
「本当に……?え?そっくりさんとかじゃないよね?」
二人とも少しは疑っているものの、ほぼ大川の正体を予想できているようだ。
「そうです、本物ですよ。最近テレビに出ることは減って来てしまいましたが、Megumi本人ですよ。」
「じゃあ、下の名前のあれはもしかしてだが……。」
「はい、『明里』という名前は偽名ですよ。私がMegumiだなんてバレたら学校中で目線やら色々気にすることになってしまいますから。」
「そういうことなのかー!うちなんか納得したわ!大川さん他の人と少し距離おいているように見えてさ、なんか怪しいなー?とは思ってたんだよねー。そういう事情かー!」
二人は大川の正体を知ってしまったが、口外はしないと約束してくれた。
「では、お二人と須井くん。当日はよろしくお願いします。予定は明後日のつもりです。申請の審査に最低でも1日はかかるので。」
そういうと二人はそれぞれ返事をする。僕をそれにつられるように返事をする。
これでしばらくは一安心だろう。
◆◇◆
「もしかしたら引退するかもしれません……か。へぇ?」
暗い部屋の中でパソコンの前に貼り付いている学生は最近活動の少なくなってきたMegumiのSNSアカウントの数日前から途切れている投稿を見ていた。
「ということは引退した後なら事務所管理ではないから個人の問題になる……。ということは……ぐふふ……ぐへへへ!」
この学生はまたよからぬことを考えているようだ。
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