ミニストーリー〜アイドルの休日〜

「今日は服でも買いに行こうかな……。」

少ないながらも収入として入ってきている貯金してきたギャラを手に持ち、私は玄関の扉を開ける。

私の住んでいるマンションの周りは住宅街で店は少ないのだが、少し駅の方へ向かうと大きなショッピングモールがある。

「でも、一人で買い物してもつまらないからなぁ……。どうしよう。」

前の学校で知り合っていた友人に電話をかけてみるも、誰もが先約があると言って取り合ってくれなかった。

「しょうがない……一人で行こうかな。」

いつものようにメイク、そしてウィッグを付け、さらに帽子をかぶる。

これで基本はバレずに済む。というよりバレたことが無い。

ショッピングモールの行きつけの服屋には、他に口外はしないでくれているが私がアイドル活動をしていると知っている女性の店長さんがいる。


「おや、珍しいお客さんだね。久しぶりにお姉さんに会いたくなって来ちゃった?」

そう言って迎えてくれた人がここの店長である。

「いえ、というよりもここに来るまでの余裕のあるお金を確保しにくなったんですよね……。」

そういうと店長さんは少しびっくりしたような顔をした後で私に耳打ちで質問をしてきた。

「え、それって今事務所とかで多い経営困難とか、そういうあれ?」

私はその質問に頷く。

すると、店長は驚いたような顔をしてからこう言ってきた。

「まぁ、君なら大丈夫だよ。選抜があったとて必ず受かる。あ、そーだ!景気づけに今日は少しサービスをしてあげよう!」

そう言って店長さんは私に2着以上買うと特別に割引をしてあげると言ってくれた。

「これとか試着してみてもいいですか?」

「あと、これとか……。」


そんなこんなで時間をかけて私は2着服を決めた。

レジに持って行くと店長さんが片方の服を見てこう言ってきた。

「あれ、君がこんな服を選ぶなんて珍しいね。どうしたの?彼氏でもできちゃった?」

「いいえ、違います!そんなのじゃ無いです!たまたま近くに住んでいるクラスメイトの男の子と猫の里親を探してるだけです!その里親の方が見つかった時に少しでもいい服をと思っただけです。」

そう言うと、店長さんは少し笑った後で青春だねぇと言ってきた。

「じゃあ特別割引と……あと青春割引もしてあげようかな?」

「なんですか後者の割引は!?」

「いやー、そのうち君ならその男の子といい関係になりそうだなって。だって君、あんまり人のことを信用したがらないじゃん?」

その言葉に対して私は返事をすることができない。

確かに須井くんに対しての警戒心を持ったことがない。ピンチの時に助けてもらったという吊り橋効果によるものなのか、それとも……。考えるたびに何故か恥ずかしくなってくる。


「まぁいいや。君が通過できることを祈っているよ。毎度ありー!」

店を出た後で思う。あの店長を相手するのはとても疲れる。でも、その分楽しい買い物ができた。

オーディションを突破できたらまた来よう。


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